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百九話目 兄さんの遠足と警戒態勢の日



 僕が街へ出掛けてから2日が経った。


 昨日の夜、消灯前に兄さんの所へ出来上がったばかりのブレスレットを渡しに行ったら、兄さん達はまた遠足に行くと言っていた。


 しかも、遠足は明日…。


 つまり今日ね?


 急に決まったんだそうだけど、前回の遠足からまだ3ヶ月くらいしか経っていないんだよ?


 何か可笑しくない?



《カラララーン、カラララーン》



「皆さんおはようございます。では今日の1時限目の授業を始めます」



 おっと、ランスロット先生が来ちゃった。


 え~と、1時限目は数学だったね…。


――――――



「ウマ~♪」


 今日の昼食は、ゆで卵入りのポテトサラダを挟んだコッペパン。


 兄さん達が山の頂上で食べるやつと同じだって言うから、つられてそれにしてみた。


 細かく刻まれた人参と薄~くスライスした玉ねぎも一緒に入ってるからシャキシャキしてて美味しいし、それに追加して頼んだトマトスープが良いアクセントになってて最高だね(笑)


 兄さんも今頃食べてるのかな…―――。


《カランカランカラン、カランカランカラン》



 兄さんこのパン好きだったよな~?何て思っていた次の瞬間、何時もとは違う感じの鐘が鳴り響きそして、


《ブゥーブー、ブゥーブー、ブゥーブー》


 ステータスカードからも警報が鳴りだした。


 この警報機能は、通信機能を付けた時に一緒に取り付けたもので、災害時なんかに予め設定された警報と警告音声が鳴る仕組みになっている、んだけど…。



《警告!警告!!こちらは特別警戒警報です!これは訓練ではありません。繰り返します。これは訓練ではありません!速やかに自分の教室へ戻り、教師の指示を仰いで下さい。繰り返します。速やかに――――》



 一体、何が起きているんだろう…。


 まさか!兄さん達に何かあったんじゃ!?



 出来れば別件での警報なら良いのに何て思っちゃうけど、流石にこのタイミングだ。


 それはないだろう。


 あぁ~、皆無事だよなぁ?


――――――


「皆さん教室にお集まり頂けましたね?実は先程、近くの山にイビルリザードが出没したと連絡がありました」


《ザワッ》


「皆さんお静かに!今先生と先輩方数名が戦闘中だそうです。他の先生方も応援に向かいますので、皆さんは寮に戻って外には決して出ないで下さい。良いですか?決して出てはなりませんよ?」


 予感的中。


 あぁ~、こんな予感は当たらないでくれたら良かったのに…。


 もしくは、またあの馬鹿のデマだったなら良かったのにな。


 あれからスパーク君は、まだ兄さんの下へ戻って来ていないし、先生方も山の中では下手にテレポートが使えないらしく、出来るだけ全速力では向かうけれど、どうしても徒歩にならざるを得ないらしい。


 さっき、先生は戦闘【中】って言ってた。


 応援が間に合うか、残ってくれてる先生が倒してくれるのが一番良いんだけど…。



「あぁ、シエロ君とシャーロットさんは回復魔法が使えましたよね?すいませんが、お2人だけ教室に残って下さい」


《ザワザワザワ》


「はい皆さんお静かに!もうすぐ一部の生徒と先生方が戻ってきます。どうやらイビルリザードの他にもリトルリザードが大繁殖していたらしく、皆さん大なり小なり怪我をしているそうなんです。勿論他のクラスの生徒や上級生達も回復に回りますが、6年生は人数が多いのでお2人にも手伝って頂きたいのです」


 怪我人…。


 また事故現場がフラッシュバックしそうになったけど、頭を振ってやり過ごす。


 今、この間みたいにパニックを起こす訳にはいかないんだ。


 しっかりしろ、僕!



「はい、承知致しました」


「僕も了解です」


「お2人ともありがとうございます。では他の方は寮に戻っていて下さい。くれぐれも外へは出ない様に!では解散して下さい!!」


《ガチャ…。ガヤガヤガヤ》



「良し、では私達も行きましょう」


 A組全員が退出したのを確認し、僕達も教室を出た。


《バタン》


「シエロ、シャーロット。頑張れよ!」


「役に立てなくてごめんね?」


「うん!エルドレッドさん達の事は任せて!?ブロンデはそんな事気にしないでよ?僕の分まで兄さん達の無事を祈ってて?」


「シエロ君の足を引っ張らない様に頑張りますわ?」



 そうして、2人を見送った後、僕達は皆とは反対の方角へ歩き出した。



 大なり小なりの怪我、か…。

 確か回復魔法の使い手は、水系光系併せても生徒全体の一割程度と少なかったはずだ。


 だから、だから昨日僕はあの光と水の複合魔石をはめ込んだ、ミスリルのブレスレットを兄さんに渡したのに…。



 ねぇ、ブリーズ…。


『分かった。フロルとクレイを呼んでくれば良いのね?』


 流石はブリーズだ。


 僕の考えが読めるだけあって、返答が早い。



 うん、そう。


 あっ、でもフロルはまだ依代がいるよね?


『そうね。少しの時間なら大丈夫だけど、流石にまだずっと依代無しって言うのは早いかもしれないわ』


 そっか…。


 あっ、そうだ!この前作っちゃったデッカい魔石なら依代の代わりにならないかな?


『あぁ、あの遊びで作った樹花属性の魔石?うん。あれなら充分じゃないかしら!シエロ馬鹿みたいに魔力込めてたし』


 ん~。


 何か一言余計だけど、じゃあ魔石を準備しておくから、2人を呼んできてもらえるかな?


『りょ~かぁ~い♪じゃあ、ちょっと行ってくるわね?』


 うん、頼んだよ?


「先生!」


「はい、何でしょうか?シエロ君」


「はい。実は今、この前生まれた樹花属性の妖精を他の子に呼びに行ってもらっているのです。もし、薬草が沢山作れたらお役にたてますか?」


 僕の考えを聞いた先生は、一瞬キョトンとした後で急にニヤリと笑った。


 どうやら分かってもらえたみたいだけど…。


 先生、マルクル先輩みたいな顔になってますよ!?



「あぁっ、失礼しました。フフ、確かに薬草が作れたなら、魔力が底をついて回復魔法が使えなくなったとしても傷の手当ては可能になります。ですが、アレは滋養豊富な土地でなければ育ちませんよ?それと大量の魔法薬を作るには大量の水も必要になりますねぇ…」


 そう言いながらチラリとクレアさんの方を見る先生。


 あぁ、なるほど…。


「えっ?お2人ともそのお顔は何ですの!?何でこっちを見ていますの!??」



「それではお2人は先に体育館へ向かって下さい。私は一度部屋に戻って大鍋を取って参ります」


「了解です。では僕は体育館前の地面をお借りして()を作っておきます!」


「頼みましたよ?」


「はいっ!」


 困惑するクレアさんを横目に、手早く話し合った僕と先生は活動を開始した。


「あぁ、シエロ君。怪我人の治療が最優先ですから、なるべく魔力は温存しておいて下さいね?」



 り、了解です。



――――――


「―――と言うわけなんで、クレアさんも少し手伝ってもらえますか?」


「そう言う事でしたら大歓迎ですわ?それで、私は何をしたら?」


「うん、先ずはちょっと見ていて下さい」



 それじゃあフロル、クレイ、頼んだよ?


『それくらいお安い御用だぁ~☆』


『ふろくん、がんばるでしゅ!』


 僕達が体育館前の少し開けた場所に到着するのとほぼ同時くらいに、妖精組と合流する事が出来た。


 早速フロルには僕が作った大人の拳くらい―――だから直径10cmくらいかな?―――の大きな水晶玉の中に入ってもらった。


 中は意外と快適らしくて、何時になくやる気を出している。


 ずっと片手が塞がっているのも危険なので、畑の横に《土変形》を使って簡単な台座を作ってそこに据えたら、更にやる気になっちゃって…。


 うん、フロルは今日も可愛いなぁ…。


「こっ、此方の方達が妖精…。私、初めてお目にかかりますわ…」


 あっ、そうそう。


 クレアさんには前に作ったモノクルを掛けてもらったよ。


 急に地面が耕されたり、薬草が生えてきたりしたら驚くと思ったからね?


 魔法を公使する妖精の姿が見えてたら安心するでしょ?



『んだば、いぐよ!』


《スゴバババババ》


 驚きと感動から呆けているクレアさんを余所に、気合い充分のクレイが掛け声と共に目の前の地面を25mプールくらいの範囲で一気に耕していく。


 生徒達に踏み固められ、ガチガチに堅くなっていた地面があっという間にふんわりとした畑向きの土になる。



『うっしゅ!つぎはふろくんでしゅ!えい!!』


《ポ、ポポ、ポポポ、ポポポポ、ポン!》



 そうして耕されたばかりの土の上に、フロルが思いっきり草を生やす。


 あっ、草って言ってもwwwwwwってやつとは違うよ?


 何てアホな事を考えているうちに、独特な匂いと葉っぱの形状の草が畑一杯に生い茂った。


 おぉ~、体力回復用の薬草を見たのは2回目だけど、その時見たやつよりも何か効きそう(笑)


 流石フロル!


『えっへんでしゅ!』


 あ~、ふんぞり返ったフロルも可愛いなぁ~。



「こっこれが、妖精が公使する魔法…。素晴らしすぎますわ…」


「本当ですねぇ?お見事です」


 あれっ?先生いつの間に来たの?


 気が付くと、クレアさんの隣に大人がギリギリ抱えられるくらいの大きな鍋を抱えたランスロット先生が立っていた。


 うわぁ~、魔女が危ない薬作る鍋みたい(笑)


「ランスロット先生、ご覧の通り薬草は準備出来ました。次はどうすれば宜しいですか?」


「うん、上等な葉ですね。これなら少しくらい薄めても上級薬が作れそうです。ではクレアさん。この鍋の中、真ん中くらいの所までお水を入れて頂けますか?」


 鍋の下に石を並べて簡易的なかまどにしたランスロット先生は、鍋の中を指差し、クレアさんに指示を出した。


「はい―――。これくらいですか?」


 クレアさんは先生の指示通り、鍋のきっちり真ん中まで水を入れる。


 すげー、きっちり真ん中って意外と難しくない?


「はい、ありがとうございます。では次はこれに、20束程細かく刻んだ薬草を入れていきます」


「了解です。ブリーズ、お願いできる?」


『は~い!任せといて?……えい!!』


 ブリーズはまず風を操って、先生の指示通り薬草を20束程地面から引き抜くと、それを空中に浮かせて小さな竜巻を起こして細かく粉砕していった。


 うわぁ~、フードプロセッサーみた~い☆



「ブリーズさん、そのまま鍋にそっと入れられますか?」


『勿論よ~?ヨイショっと』



 回転を高速から低速に徐々にシフトさせ、ゆっくりと鍋の中へ細かく刻まれた薬草を入れていく。


 ブリーズはこういう細かい仕事は凄く得意で、逆に他の子みたいにドカーンみたいなのは得意じゃないらしい。


 ランスロット先生のところのアイレさんはドカーンタイプだから、こう言う繊細な仕事は出来ないって自分からパスしてきた。


 まぁ、誰しも向き不向きはあるし、その分ブリーズはドカーンと巨大な竜巻を起こしたとしても制御不能になっちゃうって言ってたから、ブリーズには是非とも平和的に生きてもらいたいところだね(笑)



「さぁ、此処まで来れば後は煮込むだけです。この調子でドンドン作りましょう!」


 よしっ!先輩方が来る前に量産するぞ!!


 僕達は、気合いを入れて薬草を生やし続けた。






何時もとは違う【生まれ変わっても女顔の僕は、転生先でも男からのナンパに悩まされ続ける】をお楽しみ頂けたら嬉しいです。


本日もお読み頂きありがとうございました。



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