百八話目 露天で買い物をした日
「シエロ。その魔石、俺に譲ってくれないか?」
ルドルフのお父さんのアイゼンさんから、出来たてホヤホヤの魔石を譲って欲しいと言われた。
師匠に渡しても良いか聞いてみると、
「何でワシに聞く?好きにしたら良かろう?」
とか言われたので、アイゼンさんにそのまま渡す事に。
魔石を手渡した時、さっきまでの物よりも凄く大切そうに受け取ったアイゼンさんは、愛おしそうな顔をして魔石を暫く見つめた後、それを持っていそいそと店内に戻って行った。
???
「ふっ、あいつも大概親バカだよな?」
「ははは、ちげぇねぇ」
大人組はアイゼンさんの行動の意味が分かったみたいで豪快に笑い飛ばしてるけど、僕ら子供組はまるで意味が分からなかった。
ブロンデとルドルフがいくら聞いても、
「大人になったらおめぇらも分かるよ」
と、のたまうだけで決して教えてはもらえなかった…。
ん~、精神年齢は32歳のはずなんだけどな~。
全、然分かんない(笑)
大人って何時から何だろう?
――――――
「アイゼンさん、本日はありがとうございました。では失礼します」
「おう!また何時でも来い」
店内まで戻ってきた僕達は、クレアさんとも合流し、それぞれアイゼンさんに挨拶をしていた。
店内には僕達の他にも数人が武器や防具を物色していたので、他のお客さん達に邪魔にならないうちに退散する事にしたんだ。
クレイも此処にお友達が居るって事が分かったから、今度からは1人でもちょくちょく遊びに来る約束を交わしていて、時間がある時は彼女の方からも学園に遊びに来てくれるそうだ。
良かったね?
『そんだなぁ?シエロ、つっちきてくっちありがとなぃ?』
どう致しまして♪
「あぁそうだ、シエロ、さっきの魔石の礼だ。これを持って行ってくれ」
店から出ようとしていた僕達をそう言いながら呼び止めたアイゼンさんは、僕の手に小型のナイフを握らせてきた。
小型とは言え、鞘や持ち手の部分には細かな植物柄の細工が施されていて、確実に安物ではない事が分かる…。
「このような立派なお品も「らえないってのは無しだぜ?俺からの気持ちだ、大事に使ってくれよ?」………はい」
僕の言葉を先回りされ、ぐうの音も出なくなった僕は、大人しくナイフを頂く事になった。
細工が傷つかない様に丁寧に柔らかな布でくるみ、異空間リングの中にしまう。
うぅ、そんなに見つめなくてもちゃんと頂きましたから、そんなに監視せんといてくれぇ~(泣)
「うし!シエロもちゃんとしまったし、父ちゃん行ってくんな?」
「おう!行ってこい!!頑張って勉強しろよ?」
「わかってら!」
こうして僕達は、今度こそルドルフの実家【エルリックの鍛冶屋】から退出したのだった。
「2人とも付き合ってくれてありがとう。次はどうする?まだお昼ちょっと前くらいだから時間はあるよね?それと、クレアさんはこの後予定とかありますか?」
「付き合ったって言っても、俺は家に帰っただけだから気にすんな。おかげで荷物取りにも行けたしな?」
「私も予定はありませんわ?レイピアも見ていただけましたし、満足ですの♪皆様が宜しければこのままついて行きたいくらいですわ?」
「僕は平気だよ~?それよりさ~?僕お腹すいたよ、皆で何か食べに行かない?」
ブロンデは切なそうにお腹をさすった。
確かにもうすぐ昼の鐘が鳴る頃だもんね?
お腹もすくか…。
んー、クレアさんもこの後の予定は特にないみたいだし…。
「ルドルフ、この辺りでオススメのお店ってある?」
「ん~、この辺だったら屋台で食った方が美味い店が多いな。屋台でも良いか?」
「「「賛成!」」ですわ!」
と言うわけで、次の目的は屋台巡りに決まった。
――――――
「じゃあ、せーので買ってきたものを出してね?」
「おぅ!」
「それ、良いですわね♪」
「はぁ~い☆」
「それじゃあ、せーっの!」
僕達は、それぞれ美味しそうな物を一品選び、持ち寄る事にした。
だってさ?ルドルフが教えてくれた屋台街、思ったよりも広いし安いし品揃え豊富だし、何よりどれもこれも美味しそうで目移りしちゃったんだもん。
だったら、少しずつ食べる?って話からこうなったんだ♪
で、因みに僕が買ってきたのは豚肉っぽいお肉の串焼き。
この国にしては珍しく香辛料や粉末にしたハーブが贅沢に使われていて、噛んだ瞬間に口の中いっぱいにハーブの爽やかな香りが広がって、それがたっぷり溢れてくる肉汁と絡んでマジ旨でさ~!!
まぁ、その分値段も良かったけど、今日くらい良いよね?って事で…。
ルドルフの買ってきたジャガイモ揚げたやつも美味しかったし、ブロンデの野菜スープもクレイさんのお菓子も美味しかったなぁ~。
あ~、食べ過ぎた~!
「んむぅ…。少々食べ過ぎてしまいましたわ…」
「だな?腹ごなしに露天見て回りながら帰ろうぜ?このままだと夕飯までに腹へらねぇよ」
「「「さんせ~」」ですわ…」
と言う事で、屋台巡りの次は露天巡りと相成った。
ガヤガヤと活気に満ちた露天街は、道が一本違うだけなのにさっきまでいた屋台街とは違った匂いで溢れていた。
屋台街は、ふんわりと料理とか香辛料とかの良い香りがしていたけど、此処ではん~、何て言ったら良いんだろう…。
一言で言えば、カオス?
だってさ?あっちでは香水売ってて、こっちでは煙草の葉っぱを売ってるんだもん。
あっ!?あそこで魔法薬も売ってる!
皆ゴザやリヤカーの上に商品を並べて【安いよ!】とか【うちのは質が良いよ!】とかそれぞれの売り文句で人を招いていた。
「これはまた、違った意味で目移りしますわね?」
「本当だね…。あっ!あそこで武器売ってる!!」
「何!?ブロンデ、見に行こうぜ!!シエロ達はどうする?」
「僕は遠慮しとく」
「私もですわ」
そっか!と言い残したルドルフは、ブロンデが見つけた武器を売る露天商の店まで走っていった。
2人とも元気だなぁ~。
◇◆◇◆◇◆
きゃ~!!
どうしましょう!どうしましょう!!
思わぬところでシエロ様と2人っきりになってしまいましたわ!!
ルドルフさんとブロンデさんに感謝ですわーー!!
「クレアさん、何処か見たいところはある?」
はぅ!
そっ、そんな可愛らしいお顔で見つめないで下さいまし~。
あぁ、顔が暑いですわ!
「とっ、特には…。どれもこれも興味深いお店ばかりでして…」
「そうだよねぇ~?何処見たら良いか分からな…。あっ!あそこにアクセサリー売ってるお店があるよ?一緒に行きますか?」
シエロ様とアクセサリーだなんて…。
あぁ、夢でも見ているのかしら…
◇◆◇◆◇◆
うわぁ!
クレアさん、そんなにほっぺたつねったら伸びちゃうよ!?
僕と2人っきりがそんなに嫌だったのかな?
「あっ、失礼致しました。私もアクセサリーを見てみたいですわ?」
「そっ、そう?じゃあ行こうか?」
別に嫌な訳じゃなかったのか…。
時々訳の分からない行動をする人だなぁ…。
少しビクッとしたけど、2人で並んでアクセサリーを売ってる若いお兄さんのお店を覗いてみる事になった。
お兄さんのお店は、ガラスに着色したものを散りばめた様な子供向けの安い指輪やペンダントから、冒険者向け、または貴族向けくらいしっかりした魔石や宝石を嵌め込んだアクセサリーも売られていて、意外にも品揃え豊富な店だった。
「あら、これ綺麗ですわね?エメラルドでしょうか?」
クレアさんが手に取ったのは、四つ葉のクローバーの形のペンダントトップ。
金属で縁取られた葉っぱ部分に、小さな緑色の石がはめられていて確かに綺麗だ。
「あぁ、それは宝石じゃなくて樹木属性の魔石なんだよ。魔石自体は珍しい物なんだけど、小さすぎて魔石としての価値はないんで、遊びで作ってみた品なんだ。どうだい?安くしておくよ?」
へぇ~、これ魔石なんだ…。
あぁ、確かによく視たら魔力の流れが見えるね?
でも微量過ぎて、お兄さんの言うとおり魔道具には使えなさそう。
だから【遊んでみた】何だろうなぁ…。
値段も確かに安いや。
銀貨2枚、2千円くらいだしね?
うん。さっきのお金もまだまだあるし、何だかんだクレアさんが1番魔石作りに協力してくれたんだし、いっかな?
「じゃあお兄さん、これ下さい。後こっちのブレスレットは何て金属で出来てるんですか?」
お兄さんにクレアさんの持ってるペンダントのお金を渡して、ついでに気になってた金属製のブレスレットについて聞いてみる。
クレイの影響で色んな金属を見てきたけど、こんな金属初めて見――――。
「はい、丁度ねぇ~。あぁ、お嬢ちゃんお目が高いねぇ~。それはミスリルのブレスレットだよ?元は何か魔石が付いてたみたいなんだけどさ、取れちゃったみたいなんだよねぇ~。傷物だし、良かったらそれも安くしとくよ?銀貨6枚でどう?」
みっ、ミスリル!?
ファンタジー金属キターーーーーー!!
っし!絶対手に入れちゃるぜ!
「それは凄いですが、僕は男です!心が傷ついたので慰謝料として銀貨3枚までまけてください!」
「流石にそれは悪かったけど、その値段だとにいちゃんも困っちまうから銀貨5枚!」
「なら、間を取って銀貨4枚!」
「ん~~~~…。分かった!それで良いよ!じゃあ持ってけ!!」
「ありがとうございます。それでは銀貨4枚です」
「はいよ、此方こそありがとさん。いや~、久しぶりにここまで値切られて返って面白かったわ!また来いよ兄ちゃん!!」
「はい、また来させていただきます」
そうして堅い握手をお兄さんと交わしてお店を後にした。
いや~、こっちも久しぶりに良い汗かかせてもらったぜ(笑)
「あっ、あのシエロ君?これ、本当に宜しかったんですの?お金を――」
「あぁ、いりませんよ。クレアさんには魔石作りに沢山ご協力頂きましたから、その御礼です。クレアさんの瞳の色とお揃いで良く似合っていますよ?」
「シエロー!何か良いのあったかぁ~?」
「あっ!ルドルフ、ブロンデ!見てみて!凄いブレスレットがあってさー」
こうして2人と合流した僕らは、そのまま少し露天街をブラブラした後で学園へと戻った。
その間、話しかけても何をしてもクレアさんが応えてくれなかったのには正直困ったけど、まぁ嬉しそうにペンダントを見つめてたから嫌ではなかったんだと思う?
まぁ、気に入ってくれたんだったら嬉しいな。
さて、寮に帰ったらさっき買ったブレスレットに、とっておきの魔石を嵌め込んで兄さんにプレゼントでもしようか?
女の子に間違われる事を武器にし始めたシエロでした(笑)
本日もお読み頂き、ありがとうございました。