百六話目 人工魔石の値段…の日
「じゃあ、改めて紹介するな?猫族の方がブロンデで、その隣がシャーロット。んで父ちゃんが女子と間違えたのがシエロな!」
変な空気になってしまった僕達は、取りあえず仕切り直す事になった…。
って言うかルドルフ!わざわざ蒸し返さなくて良いんだよ!?
「はじめまして、ブロンデ・フォールドです。いつもルドルフ君にお世話になってます」
「シャーロット・クレアと申します。ルドルフ君にはいつもクラスの雰囲気を明るくして頂いていますわ♪」
ブロンデがペコリと頭を下げ、クレアさんが軽くカーテシーをすると、ルドルフのお父さん――名前をアイゼンさんと言うらしい――は嬉しそうに目を細めた。
顔は怖いけど、子供が好きな人なのかな?
とか考えつつ、僕もアイゼンさんに向かってご挨拶をする。
「はじめまして、シエロ・コルトと申します。いつも兄共々、お世話になっております」
「ん?兄貴?コルトって言うと、お前さんプロクスの弟だったのか…」
「はい、プロクスの弟です」
僕がそう返事をすると、アイゼンさんは浮かべていた穏やかな笑みを消し、ジロジロと僕を品定めしている様な表情に変わった。
「えっ…と、何でしょうか…」
「ん?あぁイヤな?プロクスが此処に来るたんびにうちの弟は可愛いんだ!って自慢しやがるからよ?一度拝んでおきてぇなと思ってたんで、つい、な。悪い悪い」
急な表情の変化に訝しみながらそう訊ねると、思ってもいなかった方角から殴られたくらいの衝撃を与えられた。
アイゼンさんはまた豪快に笑い飛ばしてくれてるけどさ…。
僕の心情的にはちっとも笑えねーよ!!
やっぱりプロクスは一度埋めよう。
うん、そうだ、散策から帰ったら、プロクスを埋めよう(危)
「あっ、あぁシエロ?今回はあんまり自由時間ねぇし、早く父ちゃんに言わなくて良いのか?用事があって来たんだろ?」
はっ!?
そうだよ、今はプロクス兄さんの事何かどうでも良いんだよ!
今日の外出時間は5時間くらいしかないんだから、早くしないと!!
「あん?俺に用事?」
「あっ、はい。アイゼンさんに是非一度、此方を見て頂きたくて…」
僕は魔導袋(小)の方から人工魔石をいくつか取り出し、出来れば買い取りして欲しい旨を伝えた。
あっ、そうそう。
実は使用した袋の関係上、袋の大きさは2種類あってさ?
【大】の方は軽いトートバックくらいの大きさで、【小】の方は学生の上履き入れ(笑)くらいの大きさの袋を使って作ったんだ。
大の方はそれこそ口もトートバックくらい広いし、内容量的には馬一頭分くらいの荷物は入る。
小の方は、ん~…、アヒル10羽くらいなら入るかな?
とは言っても、この中に生き物入れると時間が極端に緩やかになるから、あんまりオススメはしないけどね?
まぁそれ以前に、袋の口が小さいから馬は入らないか(笑)
「魔導袋、は良いとして…。これは魔石、か?こんなに沢山どうしたんだ?まだ1年生は学園の外で採取出来ないだろ?」
「あっ、僕が作ったんです。えっと…、如何ですか?」
「はぁ!?作ったぁあ?これをお前さんが?嘘だろ…?」
アイゼンさんが目を真ん丸くして、僕と魔石を交互に見ながら大きな声で叫ぶ。
でっ、ですよねぇ~。
僕だって最初は驚いたもんなぁ…。
師匠に向かって、今のアイゼンさんみたいに叫んだのも良い思い出です。
「本当なんだよ父ちゃん。シエロの奴、ゴードン爺ちゃんに習って作ったんだぜ?」
はぁ!?だの、えぇ?だの言いながら何度も魔石を見つめていたアイゼンさんに、ルドルフが諭す様に説明してくれた。
心なしかドヤ顔なのはご愛嬌ってもんだよね(笑)
「あ゛?ゴードンのクソ爺に?あぁ、それなら何となく分かったわ。どれ…《スコープ》!」
師匠の名を聞いたアイゼンさんは、あっという間に冷静さを取り戻すと無属性の【スコープ】の魔法を唱えだした。
それだけ師匠が慕われているのか、それとも突拍子もない事ばっかりしてるのか…。
いや、深く考えるのは止めとこう。
もし後者ならうちの祖父さんと同じく泣けてくる…。
あっ、あぁ~なるほど。
ああやって持ち込まれた品をじっくり見て鑑定するんだね?
アイゼンさんは片目を瞑りながら、僕がカウンターに置いた人工魔石を手に取ると、光に翳したりそのまま角度を変えて石の具合を確認していた。
あっ、因みに【スコープ】の魔法は望遠鏡や拡大鏡の役割をしてくれる魔法で、遠くの物を良く見たい時とかに使う魔法で……。
ん?
あれ?
もしかして、この世界に眼鏡が無い理由ってこの魔法のせいだったりする?
え?
も、もう一回【スコープ】について考えてみよう。
んと、望遠鏡、拡大鏡替わりの役割をしてくれる魔法で、使用例的に、遠くの獲物を見つけたり小さな文字や物を良く見たい時に使われる魔法…。
あぁ~…。
眼鏡と使用例が被ってる~。
もしかしなくても、この魔法があるから眼鏡が発達していかなかったんだろ~…。
『ぴん、ぽ~ん…。大、正解~』
………。
何か中間子女神の声が聞こえた気がする…。
くそ~、そんな単純な理由かよ~。
確かにこの魔法は比較的誰でも使えるけど、全員が全員使える訳じゃないんだぞー!?
もっと真剣に考えろよなー!!
「シエロ、何頭抱えてんだか知らねぇけどよ、父ちゃん査定終わったってよ」
えっ…?
あっ、すいません(焦)
――――――
「火の魔石が5個、水の魔石が5個、風の魔石が10個で間違いないか?」
「はい。間違いありません」
一枚板のカウンターの上に、規則正しく人工魔石が並べられている。
僕が是を示すと、アイゼンさんは火の魔石から2つの石を摘み上げた。
「火の魔石の中でもこの2つは最高ランクの物だ。他の物も人口とは言え素体に使われている水晶も純度が高い物だし、天然物と同じ値段で引き取ろう。」
あっ、今アイゼンさんが取り出したのはプロクス兄さんに炎を吹き込んでもらったやつだ。
始めは風と土の魔力を素体の水晶に吹き込んでたんだけど、慣れてないから上手く行かなくて、結局兄さんや他のA組の皆にも手伝ってもらったんだよね?
特に兄さんは良く手伝ってくれて…。
うん、今回は兄さんを埋めるのは止めておこう。
とは言え…。
「本当に宜しいんですか?」
「あん?こんなとこで馬鹿な嘘はつかねぇよ。ちょっと待ってろ、それで良いなら金を用意してくるからよ」
「あっ、はい。宜しくお願いします…」
お金を用意してくるからと席を立ったアイゼンさんを見送る。
まさか天然物の魔石と同じ値段がつくなんて思ってもみなかった…。
確か、天然物の魔石って言ったら凄い粗悪な物でも銀貨2枚くらいの価値があったハズだ。
ここでちょっとこの国の貨幣価値について考えてみると…。
石貨=10円
鉄貨=50円
銅貨=100円
銀貨=1000円
白銀貨=10000円
金貨=10万円
白金貨=100万円
とまぁ、大体こんな感じだったかな?
因みに石貨は文字通り石のお金で、1番価値が低い割に1番デカい。
他のお金が100円玉くらいの大きさなのに対して、石貨は500円玉より若干大きいくらいあるもんだから、財布の中に石貨が沢山入ってるとすげぇ邪魔(笑)
物価的に言うと小麦粉が1kg銅貨1枚で、平均給与額は金貨1枚、つまり小麦粉が100円くらいでお給料は10万円くらい。
そう考えれば魔石の高さが良く分かるはず。
だってさ?使い捨ての電池に最低2000円だよ?
今時100均でも買える電池が2000円…。
うん、僕は無理(笑)
「おぅ、待たせたな。これが代金の白銀貨24枚だ」
「えっ?白銀貨?ちょっとそれはいくら何でも多すぎませんか?」
2000円の電池なんて自分だったら買わないわ~、なんて考えてたところからの白銀貨24枚は多すぎる!
白銀貨は1枚で1万円の価値がある硬貨だよ?
僕が持ち込んだのが20個だから、さっきの2つが1個4万円の価値がついたって事か…、うわぁ…。
兄さんのお礼何にしたら良いかな…。
んー、それにしてもどうしよう…。
元手がほぼタダの物を出してるのに、そんなに貰えないよなぁ…。
「ほ~れ、だから言っただろう?シエロ坊にそんな大金出したらビビるってなぁ?」
「しかしなぁ~?この坊主が持って来た魔石は最高ランクが2つに、高ランクが18だぜ?いくら人工だって言ったって、本当ならもっと金を積んだって良いくらいだ」
突如聞こえた聞き慣れた声に正気に戻ると、アイゼンさんの後ろから師匠が顔を出しているのが見えた。
あれ?師匠が何で此処に?
「あれ~?ゴードン爺ちゃんが何でここにいるんですか?スミスさん家は?」
「おぅ、ブロンデ。なぁに、大方お前らが此処に居るだろうとふんでな?先に話しをつけといてやったのよ。おぅ、エカイユこっちだ」
「何だよゴードンのとっつぁん?俺ぁ、まだ仕事中何だぜ?」
アイゼンさんの後ろの師匠から更に、アイゼンさん並みに厳ついドワーフが姿を現した。
師匠よりも身長が高くて、艶やかな黒い髪と髭がパッと目を惹く。
って言うか誰?
「シエロ、お前が会いたがってたエストラの父ちゃんを連れてきてやったぞ?」
えっ?あっ、エストラ先輩のお父さん?この人が?
全然似てねぇ…。
あっ、いや、そうじゃなくて…。
やったねクレイ!お友達にもうすぐ会えるよ!?
『おっ、おん…』
あ~、もう!ありがたいけど、驚き過ぎて何か疲れたよぉ~(泣)
シエロは小心者なので、目の前に大金を積まれるとパニクります(笑)
本日もお読み頂きありがとうございました。