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百四話目 師匠に出会った日



 スミスさんのお爺さんにして伝説の魔道具技師、ゴードン・マニュマさんに連絡を取ってもらってから一週間後…。


 何時もの様に部室の扉を開けると、部屋の中が見えないくらいの巨大な毛の塊が立っていました。



《バタン…》


 え?


 思わず閉めちゃったけど、え?今の何?


「何じゃ、此処に用があるなら入ってくればよかろう?」


「わーー!?」


 取り敢えず息を整えようと深呼吸をしたところで扉が開き、中の毛玉から声を掛けられた僕は、吸った息をそのまま悲鳴として吐き出した。



「何じゃ、失礼な()ちゃんじゃのう?まぁ良い。早く入ってこんか」


「あっ!じいじ!!早かったんスね?」


 え?じいじ?


 振り返ると喜色満面のスミスさんが、僕の目の前の毛玉に突進して行くところだった。


 え?じゃあ、この人がゴードン・マニュマさんなの?


 って事は、ドワーフ…。


 改めて目の前のスミスさんをヒョイと軽く抱き上げた毛玉を見る。


 あっ、よく見るとアレ、髪の毛と髭なんだ!


 髪の毛と髭、それに眉毛がモッサモサだから境目が良く分からなかったけど、眉毛と髭の境目から丸くてつぶらな瞳が此方を見ているのが分かった。


 黒い毛に、ピンク色の瞳。


 うん、間違いなくスミスさんのご家族だわ。


 配色がまるで一緒だもん。


「あっ!ご無礼を働き申し訳ありませんでした。スミスさんのお爺様のゴードン・マニュマさんだとは思いもよらず…」


「おぅ、おぅ。気にせんで良い。初めてドワーフを見た輩は皆似たような反応じゃ」


 僕がした無礼を豪快に笑い飛ばしてくれるその懐の大きさと、度量の深さに、僕は感動を覚える。



「特に、嬢ちゃんみたいな可愛くてチビッこいのにはよく叫ばれとるわい。ガーハッハッハッ!」



 撤回、何て爺ちゃんだ!!


 えっ?懐が小さい?ほっといてよ(泣)


――――――


「この度は、急なお願いを快く引き受けて下さりありがとうございます。僕はこの研究会部長の、マルクル・ソフィアと申します」


「顧問の、スクルド・ヘリアンと申します。この度は、我々の無理な要望をお聞き下さり、感謝の言葉もございません」


 少し窮屈そうに1人掛け用のソファーに座るゴードン爺ちゃんに、緊張を隠せない様子のマルクル先輩とスクルド先生が挨拶をした。


「あぁ、堅っくるしい挨拶は無しじゃ。早速本題に入ろうぞ?」


 それを爺ちゃんは一蹴すると、早く見せろとばかりに身を乗り出してきた。


 慌てて制作途中の機能について、試作品のステータスカードを爺ちゃんに手渡しながら説明を始める研究会のトップ2人。


 他の部員+1年生2人は、その様子を静かに見守っていた。


 だって専門的な用語とか話しがビュンビュン飛び交ってて下手に混ざれないし、他の先輩も伝説のゴードン爺ちゃんを目の当たりにして固まってるから今のどういう意味ですか?とか質問も出来ない。


 そうして暫く三者会談は続き、粗方話し終わったところで爺ちゃんが此方を向いた。


「うしっ!じゃあシエロの嬢ちゃ、じゃなくて坊主!どれくらい空間属性が使えるのか見るから、先ずはお前さんのステータスカードを見せてみろ!」


 急に矛先を向けられて少し焦ったものの、すぐに爺ちゃんにステータスカードを手渡す。


 今はトップページに戻してあるから、そのまま渡せばスキル欄が見られる筈だ。


「ふむ、【白】とは珍しいな。どれ……。むむぅ…」


 僕のカードを見ながら唸るの止めてもらえないだろうか…。


 堪らなく不安になるから…。


「ふむ、このレベルでは空間同士を繋げるのは無理じゃな」



 はいっ、予感的中!!


 僕のせいで計画が頓挫するとか、どうしようどうしようどうしようどうしよう。


 あ~、もう、いっそ殺してくれ~(混乱)



「おぉ、そんな顔するでない。お前さん、誰かに空間属性の使い方を習った事は?」


 混乱の嵐吹き荒れる僕に、ゴードン爺ちゃんが優しく話し掛けてくれる。


「だっ、誰からも…。僕の周りには使える方が誰も居なくて…」


「何じゃ、周りに鍛え方を教えてくれる奴がいなかったんだったら、しょうがあんめぇ!ワシが教えてやるから、そんなに気を落とすでない。男だろ?泣かんでやってみぃ!このレベルなら直ぐにでも覚えられるじゃろうて!」


「ご、ゴードンさん…」


 前略、前世のお父さん、お母さん、お兄さん。


 僕に生まれて初めて師と仰ぐ方が出来ました。



――――――


「《土操作:石英抽出、土変形:縦5、幅2》」


《ポンッ》


 良し、これで30個くらい水晶柱が出来たかな?


 えっ?何やってるのかって?


 今僕は、師匠に課された【人工魔石】作りに勤しんでいるんだ。


 んで、これはその前段階の魔石の素体である水晶を地面から抽出して作り貯めてるところね?


 僕らが住んでいる寮は、何処かの山だか丘の天辺付近に建てられているのは前にも話したけど、どうやら此処は元火山だったみたいで、石英を含んだ土だらけなんだよ。


 だから、思うように水晶が作れて…。



 あっ、ごめん。


 また話しがズレたね?


 あの後、空間属性能力のレベルを上げるために師匠から命じられたのは、今僕が出来る唯一の【閉じ込める】能力を突き詰めてみる事。


 そうすれば【空間把握】がレベル7もあるんだから、直ぐにでも【空間操作】を覚える事が出来るだろう、と豪快に笑いながらおっしゃっていたんだ。



 確かに、今思い返してみれば僕の箱庭】も【異空間リング】も、特定の空間を固定して、その場に閉じ込めてるだけだったんだよね?


 僕が作った全ての魔道具を見て、パッとその事に気がついた師匠がそう提案してくれたんだけど、流石は師匠だよな~。


 普通見ただけじゃこんなの分からないよ…。



 と、まぁそんな訳で、【閉じ込める】能力を突き詰める為に、【人工魔石】と異空間リングの簡易版、【魔導袋】を大量に作っている訳なのです!!


 うし、出来た水晶は異空間リングに仕舞ったし、次は部屋に戻ってこの水晶を魔石にする作業だ。


 たった今作った水晶の中に、属性を付加した魔力だったり魔法を閉じ込める事で【人工魔石】は出来上がる。


 天然物の魔石は長い年月を掛けてその土地の風土が育んでいく物だけど、これは謂わばその人工簡易版。


 勿論空間属性持ちがいなければ出来ない裏技だけど、昔の空間属性持ち達は、これでお小遣い稼ぎをしながら空間属性の修行をしたんだそうだ。


 とはいえ、空間属性持ちの数は年々減っているから、今では【人工魔石】って言葉自体が死語になってたんだってさ。


 何か勿体無いよね?魔導袋作りはまだ全然行われてるのになぁ~。



「あれ?シエロ、こんなところで何やってるの?」


「こんなところって…。兄様こそ寮の前の森の中で何やってたんですか?」



 人の気配に振り向くと、泥だらけのプロクス兄さんが立っていた。


 えっ?もしかして転んだ?


「アハハ、剣の素振りをしていたら木の根に足を引っ掛けちゃってね?転んじゃったんだ」


 危ないなぁ~。


 あぁ、眼鏡まで歪んでるじゃないか…。


 一体どんな転び方をしたらそうなるんだよ。


「取り敢えず手当てしますから、僕の部屋まで来て下さい」



――――――


「へぇ~、そんな修行方法があるんだねぇ~?」


 兄さんは手当てしているのとは別の手で、僕が作った人工魔石の試作品を掴み、観察し始めた。



 いや、もしもしお兄様?


 ちょっとじっとしてて頂きたいんですけど…。


「はい、これでおしまいです。傷はすっかり癒えましたよ?それと、眼鏡も…」


「ありがとう、シエロ。お礼に魔石作りを手伝わせてよ」


 直したばかりの眼鏡を掛けた兄さんは、唐突にそんな提案をしてきた。


 いや、それは有り難いけどさ…。


 このところ忙しそうな兄さんに頼むのは申し訳ないし、忍びないんだけど…。


「シエロ~、何か楽しそうな事をしてるってリペアちゃんから聞いたんだけど~♪」



 あ~、またややこしい人(姉)が来た…。


 僕は頭を抱えずにはいられなかったのだった。






すぐパニックになる系主人公です(笑)


本日もお読み頂きありがとうございました。



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