十話目 3ヶ月になった日
僕が産まれてから、今日で3ヶ月が経ったそうです。
何で分かるのかって?
今、いつも来る白髭の爺ちゃん先生がそう言ってたから。
「おめでとう、ぼっちゃんが産まれてから今日で3ヶ月じゃ…。よく頑張ったなぁ…、もう大丈夫じゃよ」
爺ちゃん先生は確かにそう言った。
一体どういう事だろう?
意味が良く分からず首を傾げていると、僕を抱っこしている現お母さんの体が小刻みに揺れ出した。
あれ?現お母さん、どうしたの…?
上を見上げ現お母さんの顔を覗き込む、その瞬間に雫が1つ落ちてきて、僕の顔にかかった。
うぉっ!?
思わぬ攻撃に一瞬怯んだけれど、改めて現お母さんの顔を覗き込む。
すると、現お母さんは大粒の涙を流して泣いていた。
現お母さんの綺麗な蒼い瞳から、次から次からポロポロと涙の雫が溢れて落ちてくる。
でも、現お母さんは辛くて、悲しくて泣いているわけではない様で、その表情は嬉しそうに笑っていた。
現お母さんは、その腰まで伸びたふわふわの髪の毛ごと巻き込んで、僕を抱きしめる。
あんまりきつく抱きしめるからちょっと痛かったけど、現お母さんの顔が凄く嬉しそうで、僕は少しも動く事が出来なかった。
「良かった…。良かったわね。シエロちゃん」
輝き弾ける笑顔のまま…、涙を流す現お母さんは、僕を抱きしめ続けた。
――――――
その後、爺ちゃん先生は僕の身体を文字通り隅々まで調べ、現お母さんに細かな診察結果を伝えると、その足取りも軽く満足気に帰って行った。
……。
お婿に行けなくなるかと思った。
いや、割とマジで…。
《バタンッ》
急に子供部屋の扉が開く。
爺ちゃん先生が帰った後、入れ替わるようにして現お父さんが部屋に入ってきた。
「どうだった?」
不安そうな顔をした現お父さんは、いつもはしてくれる帰宅の挨拶もなく、開口一番そう聞いてくる。
それに対して、さっきから笑顔が止まらない現お母さんは、僕を抱きしめながらとても嬉しそうに、さっき爺ちゃん先生と話した事を報告した。
「ベアード医師が仰るには、もう大丈夫なのだそうです。もう、心配いらない、と…」
嬉しそうに話しながらも、現お母さんの目からは、ポロポロと流れる涙が止まらない。
あぁ、現お母さん泣かないで。
顔が笑顔な分、余計に胸が締め付けられる気がするから…。
あの爺ちゃん先生から、現お母さんが報告を受けているときに知ったんだけど、僕は産まれてからすぐに高熱を出し、死にかけていたらしい。
生後1ヶ月前後辺りから、やっと容態は安定してきたものの、予断を許さない状態だったのだそうだ。
生後1ヶ月頃か…。
僕の記憶、というか意識が浮上してきたあたりだよな…。
たぶん、偶然じゃないんだろうな…。
これも、そのうち調べていかないとなぁ…。
あぁ、この事にしろ、魔法の事にしろ、色々と後回しにせざるをえない案件が多すぎるよ。
はぁ、早く大きくなりたいな…。
「そうか…、シエロはもう大丈夫か…。良かった…。リーベ、ありがとう。ありがとう」
「いいえ、私は何も、シエロちゃんが頑張ってくれたおかげですわ?」
まぁ、でも今は、僕の無事をこんな風に嬉しそうに祝ってくれる。
そんな両親の子供に、産まれてくる事が出来た事に感謝しよう。
これからも宜しくお願いします。産んでくれてありがとう。
お父さん(・・・・)、お母さん(・・・・)。