閑話 続々・とある日の出来事
荒れ狂う飛竜を手懐けた神父様を見つめるしかなかった私達でしたが…。
「ふむ、ブラザー・ランパート!」
「はい、神父様」
「彼は住処で寝ている所を何者かに襲われたそうです。私達もそこへ確認しに行きましょう。ランスロットも来るのなら、ブラザー・ランパート。爺さんに君の手を貸して上げて下さい」
飛竜さんとずっとお話しされていたと思ったら、今度はランスロット様を爺さん呼ばわりですか…。
神父様、余程先程の事を根に持っていらっしゃるんですねぇ?
だって、明らかにランスロット様の方が年下なんですから…。
「フフフ、同い年でしょ~?」
あれ?ランスロット様は全く動じていませんね。
それどころか笑ってらっしゃいます?
え?いつの間にか神父様も楽しそうに笑っていらっしゃるじゃありませんか…???
ん~?これは一体どういう事なのでしょう…?
僕は、まだまだ勉強する事が多い様です。
――――――
「こんなものでしょうか?」
「えぇ、ランパート君ありがとうございます。おかげで探索しやすいです」
私達は飛竜さんが住む地下洞窟の入り口に来ています。
彼自身は中に入るのが怖いそうなので、一旦此処でお別れです。
そして、流石に洞窟内は暗いため、ランスロット様の為に追尾型の光の玉を空中へ6発程飛ばしました。
追尾型とは文字通り、勝手に対象者の後を追う様に予め設定されている魔法の事で、私に1つ、神父様に2つ、そしてランスロット様に3つ付けました。
これで、少々離れていても位置確認がしやすくなります。
本来なら、私も神父様もライトなどいらないのですが、私は【人族になりきる】と言う修行中でもあるので、面倒ながら自分の横にも浮かばせています。
「流石はクラレンスの義息子さんですね♪無詠唱でこんなに素晴らしいライトをいくつも放てるとは…」
「当然です。ブラザー・ランパートは優秀ですからね。さぁ、地下へ進みましょう。心細いでしょうが、お留守番をお願いしますね?」
《クルルルル》
えへへ、神父様に褒めてもぅた…。
あっ!そっ、そうして、私達は地下へと入って行ったのです。
―――――
地下洞窟の内部は、流石はあの巨体が住処にしていたと言うだけあり広く、足が滑らない様にさえ気をつければ意外と歩きやすい場所でした。
これで何か手掛かりでも見つかれば最高だったのですが、残念ながら何も見つからず…。
「はぁ、無駄足でしたね?」
「何も無かった、と分かっただけでも上々ですよ」
【上々】、なるほど…そう言うものですか…。
「――と言う訳で、貴方の心を縛った者の痕跡は見つける事が出来ませんでした。申し訳ありません。その代わり、貴方の寝床を念入りに浄化して来ましたので、悪しき者は暫く貴方の寝床には入ってこれま――」
「クルルルル♪」
「これ、くすぐったいですよ。あはははは」
むぅ、何やら楽しそうですね…。
神父様は、すっかり飛竜さんと仲良くなったご様子です。
「では、私はこの辺でお暇させて頂きますね?一度学園へ報告に戻らなくてはなりませんので」
「えっ?もうお別れですか?」
神父様と飛竜さんが仲良く戯れているのを見ていると、ランスロット様が唐突に別れを切り出していらっしゃいました。
確かに早く報告した方が良いのでしょうが、何もそんなに急がなくても…。
あっ!そうか、彼らは私達精霊族と違って夜目がきかないのでしたね…。
まだお昼を少し過ぎたくらいの時間ですが、今から下山しても此処からでは人の足でも夕方くらいになってしまいますものね?
「あぁ、なら私も理事長にご報告したい事があるので送っていきましょう」
「本当ですか?それは助かります。実を言うとアイレがへばってしまったので、飛んで帰る事も出来なかったのですよ。あぁ!それでは帰りに私の部屋に寄って行きませんか?3人でお茶でも如何です?」
ランスロット様のお部屋、と言うと学園にあるのですよね?
私学園に入るのは初めてなので楽しみ―――
「あっ!ブラザー・ランパート。君は先に帰っていて下さいませんか?シスター・アメリアに黙って出て来てしまった事を思い出しました。心配していると思いますので、事情を説明してあげて下さい」
「え?あっ、はい?」
「では頼みましたよ?ランスロット行きますよ!」
「えっ?クラレンス?ちょっと!」
ランスロット様が何事かを言い掛けましたが、神父様はそれにはお構いなしとばかりにランスロット様の腕を掴むと、そのまま飛んで行ってしまわれました。
えっ、えーーーーー!?
《クルル》
ポカーンとお2人が飛んでいった方角を見つめていると、背後から声を掛けられました。
どうやら慰めて下さっている様です。
「ありがとうございます。慰めて下さるんですか?はぁー。神父様はいつもああなので、流石に慣れたと思っていたのですが、ね…」
《クルルル》
「あぁ、すいません。愚痴愚痴と…。さて、では私も行きますね?何かあったらお呼び下さい。直ぐに駆けつけますから」
《クルォー》
「はい、直ぐに来ますから安心して下さいね?それではまた!」
飛竜さんにご挨拶を済ませ、僕も空へと飛び立ちます。
《フワッ》
「またお会いしましょうね?」
《クォォー♪》
再度飛竜さんと軽く挨拶を交わし、私は一路雲の上まで上がりました。
ここなら多少速度を上げても大丈夫でしょう。
「はぁ~、しっかし神父様にも困ったもんやなぁ~…。あっ!」
しまった!思わず素が出てしもた…。
慌てて周囲を見渡しますが、当然誰の姿も無く、私を見ているのは太陽だけでした。
………ほな、少しくらいえぇよね…?
はぁ。
あぁ、ビックリさせてしもて堪忍な?
ほんまは光の妖精ってこんな喋り口調やねん。
光の妖精のいめぇじ?っちゅうのが崩れるとかで、普段はあないな丁寧語を喋っとるけど、エラいくたびれるしな?
僕らの話し方なんて、地域で少し訛り具合が変わってきよるけど、大体こんな感じやねんで?
何でも神父様が若い時に始めたらしいけど…。
っちゅーかほーよ!
神父様よ!?
何やの!?もぉ~、流石に置いてかれるとは思わんかったっちゅーねん!!
はぁ、かなんわ~。
あっ、ウダウダ言ってる間にいつの間にか教会の近くまで飛んできとったやん…。
あかんわ、朝飛んだ森くらいまで戻らんと人目についてまうやんな。
――――――
「たっ、只今戻りました~」
確かあの人、シスター・アメリアに内緒で出て来たっちゅーてたよな?
うぅ、僕滅茶苦茶怒られるんとちがうか…。
怖いよぉ~。
あっ、アカンわ。
頭の中で考えとる事も標準語にせなボロが出る…。
「あら、ブラザー・ランパート。お帰りなさい」
「ひゃう!!」
「何ですブラザー・ランパート。変な声を出して…?そうそう、神父様は無事にランスロット様に会えましたか?」
慌てて振り返ると、庭の方からシスター・アメリアが歩いて来るところでした。
何や、オバハン庭におったんかいな…。
あっ!いかんいかん。
「コホン。失礼致しました。はい、神父様はランスロット様とご一緒で――――え?」
今、シスター何ておっしゃいました?
ランスロット様とは無事に会えたか?って言いましたよね?
「シスター・アメリア?今ランスロット様っておっしゃいました?」
「えぇ、言いましたよ?今朝方、神父様にそうお聞きしましたから。あっ、さては神父様から私に言わずに来てしまったから、先に帰れ。とでも言われましたね?」
「何でお分かりになったんですか?」
もしかしてこの人、私の心の中でも見透かしたのでは?
この人族ならやりかね―――。
「あの学園には、貴方の様なノラ精霊は入れませんからねぇ?だからワザと神父様は逃がして下さったのでしょう…。だから何ですか?先程から変な顔をして」
「いや、だって…。今アメリアさん。僕が精霊だと…。えっ?何で知って…」
「おや?まだ神父様から聞いてなかったんですか?私もシスター・ララも精霊ですよ?でなければあんな突拍子もない方と付き合いきれませんよ」
そう言ってカラカラと笑うシスター・アメリア。
えっ?もしか僕だけが知らんかったん?
「ほなら、シスター・アメリアも光の精霊なんですか?」
「口調が元に戻っていますよ?注意なさい。私は樹木の精霊、ドリアードです。因みにシスター・ララは花の精霊ですね」
「あっ、失礼致しました。しかし、お2人ともが精霊だとは思いもしませんでした…」
「人の生活をし出して長いですからね?たかたが半年の貴方に見破られる様な猿真似はしておりませんよ」
むぅ、まだまだ修行不足だと言いたいのですね?
確かに、少し疲れたくらいでボロがでるくらいですから、何も言い返せないのが悔しいです。
うぎぎ…。
「さっ、何時までそんなところに立っているつもりですか?貴方もあの方に付き合って疲れたでしょう。シスター・ララも誘ってお茶に致しましょう。貴方の好きなハチミツケーキを作っておきましたよ?」
修行不足は致し方ないと思います!
明日から頑張ります!
ですから、早く食堂に参りましょう!!
「貴方も現金ですねぇ?フフフ、まぁ良いでしょう。行きますよ?」
「はい、シスター・アメリア!」
こうして、私のとある1日は終わりを告げました。
来年には神父様の後を継ぎ、立派な神父になる事を夢見て、明日も沢山学んで行く事でしょう。
いつか、また貴方にもお会い出来る日を楽しみにしています
それでは、また…。
――――――
☆オマケ☆
「誰が困った人何ですか?」
「ふぎゃあ!!」
「おっ、お帰りなさいませ。神父様…」
「誰が困った人、何ですか?」
「神父様、目、目が怖いです…」
「誰が、困った人、何ですか?あっ!お待ちなさい!ブラザー・ランパート!!」
逃げるが勝ちとは神父様が仰った言葉ですよ!?
ですので、これは戦略的撤退なのです!!
これにて閑話はお終いとなります。
お読み頂きありがとうございました。