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閑話 続・とある日の出来事



 森の木々を掻き分け、少し開けた場所に出た我々が見たものは、一言では言い表せない程の惨状でした。



 地面は元の色が分からない程赤黒く染まり、周りに立っている樹木にまで血や肉片が飛び散りへばりついて、異臭を放っていたのです。


 更に森はその先も破壊され、木が先の方までなぎ倒されいるのが見て取れました。


「こっ、これは…」


「先日ここで、大規模な掃討戦が行われたのです。リトルリザードが主な相手だった様ですが、イビルリザードまで現れたそうなんです」


 なる程、それでこの惨状ですか…。


 イビルリザードと言えば、闇属性を帯びたリトルリザードの変異体のはず。


 謂わばリトルリザードの親玉とも言える存在です。


 確かに厄介な相手ではありますが、我らに取っては取るに足らぬ雑魚でもあります。


 しかし、それを相手取ったのがか弱い人族では―――。


 今朝会ったアリエッタちゃんの顔が浮かびます。



「あぁ、イビルリザードは無事倒されたそうですよ?」


「えっ?」


「ですから、1人の死者を出すことも無く、倒されたのです」


「そっ、そうですか…。それは良かった」



 これがホッとする、と言う感情なのでしょうか。


 ドロドロとした胸の内側に流れていたものが、神父様のお言葉を聞いた途端にサラリと流されて行くのを感じます。


 と、そこへ―――



「誰かいらっしゃるのですか?」


 私達の話しを立ち聞きしていた人物がやっと(・・・)、声を掛けてきた様です。


 私達が敵かどうかを伺っていた様なのですが、思考を読む事が出来る私達相手ではそれも意味の無い事…。


 因みに妖精のモノでも読むことが出来ますが、人族のモノに比べ雑音が多く混じり、非常に読みにくくなります。


 神父様が仰るには、周波数がズレればズレる程読みやすく、周波数が近づく程共鳴を起こして読みづらくなるのだそうです。


 と言う訳で、相手が同族でなければ思考は読めるので、



《《カソックを来た2人組…。学園側が派遣して下さった方に間違いない様ですね――》》



 こんな感じに聞こえてくる訳です。


 さて、話しを戻します。


 姿を現した人物は土埃で多少汚れてはいたものの、賊の様な汚さではありませんでした。


 【学園側が派遣した】と言う言葉が何か関係している様です。



「おや、お久しぶりですねぇ?貴方が此処の調査をなさっていたのですか?」


「あぁ、何だ。教会から派遣されて来る神父様とは貴方だったのですね?クラレンス」


 私は見覚えの無い方でしたが、どうやら相手のエルフ族は神父様のお知り合いの方の様です。


 あからさまに体から強張りが消えたのが見て取れます。


 余程お2人は親しい間柄の様で…。


 あっ!まさかこの方がシエロ様では!?


「ブラザー・ランパート、ご紹介します。此方は私の友人のランスロット・フェザー様。イビルリザードの他に大きな魔物の気配を感じたそうで、その調査をなさっておいでだったのです」


「ご紹介に与りました、ランスロットです。学園から頼まれてこの辺り一帯の調査をしていました。一応学園では魔法学を教えております」


 残念、シエロ様ではありませんでしたか…。


 しかし、こんなに広い場所をたった1人で調査させるとは、学園も人手不足と言うやつなのでしょうか?


 いや、神父様を呼んだくらいですから、此処は【敢えて】なのかもしれませんね…。



「ランパート・ド・リュミエールと申します。ランスロット様、若輩な身故、足手まといになるやもしれませんが、宜しくお願い致します」


「おや、そこまで固くならずとも…。ふむ、【リュミエール】と言う事は彼が養子にもらったと言う少年ですね?いや~、貴方に似ず礼儀正しい子ではありませんか」


「貴方は相変わらず一言多いのですね?さっ、ブラザー・ランパート、ランスロットなど此処へ置いて、行きますよ」



 おぉ、いつもは少々の嫌みならのらりくらりとかわされる神父様が、感情を露わにされている!


 どうやら今日は、神父様の意外な一面を見る事が出来そうです。


――――――



「では、その炎の精霊が感じた気配と言うのは地底深くからなのですね?」


「えぇ、その様に聞いています。なので朝から地下に空洞が無いかを探っていたのですが…。中々見つからず、私も私の精霊もお手上げ状態でしてねぇ…」


 あぁ、だから彼女は疲れきっているのですか…。


 ランスロット様の右肩に、グッタリした様子の風の精霊さんが寝そべっていらっしゃいました。


 いくら探索能力に優れた風さんでも、地底調査となると勝手が違って難しかったでしょうに、それを朝からずっと…。


 頭が下がります。



「それで私が駆り出されたのですか…。ランスロットで駄目だったのなら後は私しかいませんからねぇ?」


 ふむ、と一息漏らされた神父様は、地面に向けて手をかざされました。


 なる程、神父様は探索能力が優れているという設定でランスロット様との時間をお過ごしになっていたのですね?


 私の様な精霊に成り立ての若造では方角しか分かりませんが、神父様程の大精霊になれば見ただけでも何処にいるのかが分かる事でしょう。


「あぁ、居ましたよ?此処から数km離れた洞窟の奥に居る様ですね」


 おぉ!流石は神父様です。


 私の思っていた時間の、何十分の一と言う短さであっさりと見つけておいでになりました。



「あっ!」


 え?


「あははは~、気づかれちゃいました♪」



 神父様ーーーーー!!



《バサッバサッ、バサッ》



 急に夜にでもなったかの様に、私の頭上に影が落ちました。


 まっ、まさか…。


 恐る恐る上を向くと、そこには目を疑うほど大きなドラゴンが羽ばたいていました。


 首と尾が長く、体も細く流線型のその体躯に似合わぬギラギラとした理性を持たぬ瞳。


 普通ならキラキラと陽光を受けて艶めくはずの鱗も、全ての光を吸収するかの様に赤黒く不気味としか言い表せない有り様になっており、ダラダラとだらしなく涎を垂れ流す様は、明らかに第三者に操られているのが分かります。


 そんな森の覇者の姿は、見ていて苛立ちすら感じさせるものでした。


「何故此処に飛竜が!?」


「落ち着きなさいランスロット。どうやらアレは誰かに操られている様です。早く、楽にしてあげましょう…」


 見た目には落ち着き払っている様にも見える神父様でしたが、その瞳からは怒りの炎が見て取れます。


 やはり、神父様も気高いはずの竜族が操られ、自分の意思も持たぬままに暴れ苦しむ姿には憤りを感じている様です。



「山の主よ!今、楽にして差し上げますからね!」



 今まで抑えていた魔力を、神父様が解放なさった瞬間でした。


 まさに閃光とはこの事を指すのでしょう。


 一瞬にして神父様のお姿が消え、次の瞬間には飛竜の悲痛な叫び声が辺りに木霊しています。



《クゥォォォー》



《ずぅぅうーーん…》


 高く悲しい一鳴きをあげた後、飛竜は力無く地面に倒れ込みました。


 あまりの巨大故に周囲の木々が少々巻き込まれましたが、被害と呼べるものはそれだけでした。


 まぁ、一番の被害者は目の前にいらっしゃる彼なのですが…。


 女神様の御身下へ彼が迷わず無事に行けるよう、微力ながら祈りを捧げましょう…。



「さっ、流石はクラレンスですね?竜族を一瞬で倒すとは…」


「何を言ってるんですか?殺してなんかいませんよ。浄化しただけです!全く、人聞きの悪い…」


「えっ?」


 えっ?



「2人とも、何呆けた様な顔をしているんですか?みっともない。飛竜を浄化する事くらい出来なくてどうします。私はこれでも【神父】ですよ?」



《クルルルル》


「あぁ、目覚めましたね?気分は如何ですか?」


《クォォーン、ルルル》


「おや、まぁ!それは気の毒致しましたねぇ?」


《クォォオー、ヴォ、ヴォッ!》



 そのまま話し込んでしまわれた神父様と飛竜を見て、私は益々尊敬の念を深いものにしたのでした…。


「ランパート君、彼らは何を話しているのですか?」


「申し訳ありません…。私にも判りかねます」



 それと同時に、私如きが神父様の後を継いでやっていけるのだろうか…、と不安感にも駆られたのでした。


 うわ~、これからどうなるんだろ…。


 不安だよぉ~。






皆様もお気づきの事と思いますが、前回の【聖ホルド学園、遠足の日】の続き物の様な形態になっております。


予めご了承ください。


本日もお読み頂き、ありがとうございました。



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