閑話 とある日の出来事
12月21日の更新です。
さて、閑話が続いて申し訳ありませんが今回は先日リクエストを頂いたお話しでございます。
リクエストに沿ったものとなっていると良いのですが…
本日も宜しくお願い致します。
朝の柔らかな日の光がステンドグラスを通過し、色とりどりの光を2体の女神像まで届けている。
その女神像を目地の細かな布を使い、丁寧に磨きあげている1人の青年が居た。
年の頃は16~17くらいだろうか?スラリと細身ながらも引き締まった体躯に、動く度サラサラと流れるプラチナブロンドの長い髪。
そして、キリリとした双眸から覗くは緑色の光。
余りにも整ったその顔立ちは、一見エルフとも見紛う程だが、彼の耳は短く、しかしヒューマン族にしては揺れる魔力の量が少ない―――――。
うん、今日も綺麗に磨く事が出来ましたね♪
あぁ。これは失礼、申し遅れました。
私、先日クラレンス様より【ド・リュミエール】の姓を授かりました、【ランパート】と申します。
今年17歳になりました。
と言う設定です…。
此処だけのお話しですが私、人族でも半妖精族でも、魔族でもございません。
主を持たぬまま精霊へと変じた元光の妖精でございます。
ですので、実は【ランパート】の名も初日にクラレンス様から頂いたものなのです。
今は女神様のお導きもあり、尊敬する光の大精霊のクラレンス様の下で日夜修行させて頂いています。
「ブラザー・ランパート、朝のお掃除は終わりましたか?」
「あっ、クラレンス様。はい、今終わったところです」
【噂をすれば妖精がやってくる】と言う格言通り、クラレンス様がフラリと顔を出されました。
しかし珍しいですね?
普段ならこの時間は執務室で書類の確認をなさっておいでの筈なのですが…?
「終わったのなら、少し出掛けましょう、共を頼みます。それと、此処では【神父】と呼びなさい。ブラザー・ランパート」
「失礼致しました神父様。して、お出掛けとはどちらに…?」
「付いてくれば分かります」
妖しい笑みを浮かべながら歩き出す神父様を、私は首を傾げながら追いかけたのでした。
――――――
「あっ!しんぷしゃま、らんぱぁとにちゃ、おはようごじゃましゅ!」
「やあ、アリエッタ。お早うございます。お爺さまのお身体の具合は如何です?」
「うん、ちょっとまっててにぇ?じぃちゃ~!しんぷしゃまきたぉ~!!」
家の前で1人遊んでいた小さな少女アリエッタちゃんは、私達の姿を見るとにこやかに挨拶をした後、家の中へと走っていきました。
アリエッタちゃんは、お祖父様とお母様の3人暮らしで、先日お祖父様が腰を痛めたと言うお話しを聞いてから、神父様がこうしてちょくちょく往診されているのです。
勿論この街にも腕の良い医師は沢山いるのですが、私達光の精霊程ではありません。
その為、人族では治せない、または治しづらいものに関してのみ、神父様自らが出向き、治療をなさっておいでなのです。
「おぉ、神父様。お陰様でこの通り、ピンピンしとりますじゃ。まだまだくたばりそうもありませんわい」
「フフ、まだ若いのに死なれては困りますねぇ?セドリックさん、治ったからと無理は禁物ですよ?特に貴方は腰の骨に罅が入っていたのですから」
「ははは、肝に銘じておきますじゃ」
神父様は、こうしてお話しをしながら診察をなさいます。
そして、手のひらに光魔法を纏い、腕や腰をさり気なく触りながら治して行くのです。
「はい、おしまい。セドリックさん、今日はこれでお暇しますが、あんまり無茶な計画で採掘作業をしてはいけませんよ?」
「ありえったみてぅかりゃ、らいじょうぶにゃの!じぃちゃあぶなくにゃいよ~に、みはるの!!」
アリエッタちゃんの頼もしい宣言を聞き、ひとしきり癒されたところで、私達はセドリックさんのお宅からお暇致しました。
いや~、子供は良いですねぇ?
可愛くて生命力で満ち溢れていて、見ているだけで此方を和ませてくれます。
「クラ…。神父様、次はどちらに?今日はこの後も往診に回るのですか?」
「いえ?今日は少し遠出します。セドリックさんのお宅は偶々通り道だったので、お寄りしただけですよ」
とっ、遠出…?
何の準備もなく出て来てしまいましたが、大丈夫だったのでしょうか?
人族と言うのは、様々な荷物を持ち歩く者だとは神父様のお言葉です。
神父様の言う遠出が、どの程度のものを指しているのかは分かりませんが、明らかに飛んで行こうとしてらっしゃいますよね?
神父様の事ですから、何か策がおありなのだとは思うのですが…。
あっ!だから町外れのセドリックさんのお宅が通り道だったんですね?
森に身を隠してから見つからない様に飛ぶおつもりなんですね!?
えっ?
あっ!神父様!!本当に何処まで行くおつもりなんですか!?
――――――
「はい、着きましたよ?おや?疲れましたか?」
「疲れてはいませんが、思ったよりも飛んだので、此処が何処なのか分からなくなりまして…」
本当です。
疲れてはいませんよ?
実際、神父様は何かを避けるかの様にクネクネと蛇行飛行をなさっていた為、まだあそこまでの高速飛行に慣れていない私は、すっかり現在地の場所の把握が出来なくなっていたのです。
所謂迷子、と言うやつです。
「あぁ、貴方はまだ精霊になってから日が浅いですからね。では貴方用に作ったステータスカードの中にある地図機能を使って現在地を確認してご覧なさい。使い方は先日教えましたね?」
「あっ!はい、教えて頂きました」
僕は首から下げたステータスカードを取り出すと、カードの地図記号の画像を押し、この辺りの地図を呼び出しました。
え~と、地図によると此処は聖ホルド学園から北に10km程行った所にある山の中と表示されていますね…。
その様に神父様にお伝えすると、
「正解です。きちんと私が教えた事を覚えていましたね?偉い偉い」
とお褒めの言葉と共に、軽く私の頭を撫でて下さいました。
妖精の時分には【頭を撫でる】と言う行為自体がありませんでした。
この動作は急所を相手に差し出しているのと同義の行為なので、相手を信頼しているからこそ成り立つものなのだと、神父様から教えて頂いたのを覚えています。
確かに、相手に気を許していないと出来ない行為ではありますが、私は神父様からのこの行為が嫌いではありません。
主を持たぬ私にとって、クラレンス神父様が私の主様の代わりをして下さっているからでしょうか?
とにかく、心に開いた隙間の様な物が埋まって行く気がするのです。
「さぁ、では先へ進むと致しましょう」
「はい、神父様!あれ?神父様、そのお顔につけていらっしゃる物は何ですか?先程まではつけていらっしゃらなかったですよね?」
いつの間にか神父様のお顔の目の部分に、黒くて四角い形をした物体がくっ付いていました。
仮面にも似ていますが、何か違いますね?
仮面とは違い、神父様のお顔を隠す為の物ではなさそうですが…。
あっ、何か嬉しそう…。
「フフフ、よくぞ気がつきましたね?ブラザー・ランパート!!これは【眼鏡】と言う魔道具なのです」
「眼鏡、でございますか?」
目につける鏡…、とは?
「これは、私の友人が先日送って来て下さったもので、本来は弱視などの奇病を緩和させてくれる魔道具なのですが、これは私向けに作って頂いた特注品なのです!」
弱視は、私達光の精霊にも治す事の出来ない難しい病の一種です。
それを完治とは行かないまでも、緩和させてくれる魔道具を作られるとは…。
流石は神父様のご友人であらせられます。
とは言え、度々神父様のお話しに出ていらっしゃるご友人の【シエロ・コルト】様なる方に、私はまだお会いした事がないのですが―――。
「神父様!」
「おや、ランパートも気がつきましたか?これは感心感心…」
口では軽く言ってらっしゃいますが、山道を進んだ先に表れた血の臭いの異常なまでの濃い臭いに、自然と神父様のお顔も歪みます。
段々と濃くなる血の臭いと障気…。
今はまだ木の影になって見えませんが、恐らくこの先にこの臭いの根源となるものがあるのでしょう。
神父様は、一体私に何を見せたいのでしょうか…?
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
明日も閑話は続きます。
予めご了承ください。