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閑話 続・聖ホルド学園、遠足の日



「チッ、此処まで散々な遠足は後にも先にもこれくらいなもんだろうな!」


 舌打ち混じりの悪態をつくエルドレッド。


 出来るなら僕も喚きたいものですが、どうやらそれも叶いそうもありません。



《グルルルルルルル》



 何故なら低い低い呻り声をあげ、森の木々を薙ぎ倒しながらイビルリザードが姿を現したのですから…。



 森の奥深くから姿を現したイビルリザードは、赤黒い鱗をギラギラと下品に光らせ、血走った目を此方に向けると、


《グォオオオオーン》


 と再び吼え、此方を威嚇してきます。


「ゴクン」


 思わず唾を飲み込んでしまう。


 くそっ、今までに無い程、死の気配を近くに感じますね…。


 奴の地響きが聞こえ始めた段階で、手早く剣にこびり付いたリトルリザードの血肉を洗い流しましたが、どれだけ切れ味が戻っているのか…。



「アリソン!この近くの魔物はこいつだけか!?」


「はい、クオン先生!先程から探っていますが、他の魔物はこいつに恐れをなして逃げ出した様です!!」


「よしっ!ならば非戦闘員はルルーナ先生とバルガシュ先生と共に後退!!まだ余力が残っている戦闘員も3分の1を残して怪我人と共に後退!!通信系のスキルを持っているものは学園に緊急連絡!!残りは俺と共に前方イビルリザードに対峙し、戦闘を行う!!分かったら行動開始!!!」


「「「「「了解!!」」」」」



「では、散開!!」




――――――


「はぁ、はぁ、はぁ…」


 イビルリザードとの戦闘が始まってから、体感で1時間は経ったでしょうか?


 流石に学園の巨大な時計塔の鐘の音も、此処までは届かないので詳しい時間は分かりませんが、太陽の位置的に昼は過ぎてしまった様です。


 イビルリザードに対し、クオン先生始め残った生徒全員でかかりましたが、未だイビルリザードを倒すには至っていません。


 どれだけ魔法を喰らわせても、これだけ剣技を放っても、イビルリザードの堅い鱗の表面に浅く傷を付けただけでした。


 残って戦ってくれていた仲間も1人2人と倒れ、僕らの後ろで回復役の生徒達からの治療を受けていますが、前線に戻れるまでの回復には至っていない様です。



「うらぁっ!喰らいやがれ!ウィンドカッター!!」


 それでもクオン先生の魔法詠唱が終わるまではと、エルが比較的短い詠唱で済ませられるウィンドカッターを放ちますが、イビルリザードの鱗に弾かれて霧散していきました。


「はぁっ!」


《ガギンッ、カァーン。ドズン…》



 僕もエルに負けじと向かって行きます。


 しかし、森の(ここ)では炎属性魔法を上手く使えない為、剣に炎を纏わせると言う方法を取っていたのですが…。


 イビルリザードが振り回してきた尻尾を弾いた時、騙し騙し使っていた剣が遂に根本から折れてしまいました。


 少しの間空を舞い、地面に深々と突き刺さる僕の愛剣だった金属の塊。


 余りに見事に折れたので、僕は一瞬そちらに気を取られてしまい…。


「プロクス、危ねぇ!」


「しまっ…」



 エルの言葉に正気に戻った僕が、慌ててイビルリザードに向き直れば奴の太い尻尾が目前に迫って来ていて…。


《ゴヅン!》


「ガッ!?」


《ドスン》


「グッ、ゴボッ!!」


 顔から腹の辺りにかけてモロに尻尾の攻撃を喰らってしまった僕は、そのままの勢いのままに吹き飛ばされ、木にぶつかってやっと止まりました。


 しかもその時、どこか体の内部を損傷した様で、咳き込んだ拍子に血を吐く始末。


 あぁ、これは鼻も折れたな…、視界が血で真っ赤に染まる…。


 あっ、眼鏡…。


「プロクス!」


「だぃじょぅぶ、【回復】…問題無い!今戻る!!」


 これしきの事で、エルやマルクル達まで怪我を負わせる訳にはいきません。


 シエロに貰ったブレスレットに向かい、彼に教わった言葉を呟きます。


 すると、ブレスレットに付いた魔石から温かい光が溢れ出し、傷口をふんわりと覆うと、あっという間に癒やしてくれました。


 曲がった鼻も、ジクジクと痛むお腹の中も、元通りに修復されていくのを感じます。


 こんなにも短い詠唱で、ハイヒール並みの回復力があるとは…。


 いつもシエロには驚かされっぱなしです、が今はそれに感謝ですね。


「すまない、心配かけた!」


「おう!」


 さて、再び前線に戻ったものの、頼みの剣はもうありません。


 眼鏡も片方のガラスが外れてしまったようで、イビルリザードの体が歪んで見えます。


 こうなったら、さっき使ってみた水の石の力をまた借りてみるしかないのでしょうか?


 それとも山火事覚悟で一度、炎を放ってみるべきか…。


 エルもマルクルも、そして他の皆も、魔力は残り少なくなっているはずです。


 ここは何としても、まだ余力がある僕が時間を稼がなくては…。



「すまん!皆待たせたな!!喰らえ蜥蜴!シャイニングボルトー!!」


《ドォオオオン!》


 僕が目くらましの魔法を放ちながら時間を稼ごうかと考えていた、その時でした。


 頼もしい先生の声が後方から聞こえ、その次の瞬間には眩い閃光と凄まじい轟音と共に、イビルリザードの頭上に光の槍が幾本も落とされました。

 クオン先生の必殺技、【シャイニングボルト】は一本でさっきまで苦戦していたリトルリザードを10体は消し炭に出来るくらいの威力がある光魔法です。


 流石のイビルリザードも、あれだけの本数のシャイニングボルトを落とされてはひとたまりもないでしょう。


 この場にいた、誰もが勝利を確信しました。



 しかし…。



《グルルルルルルル》



 倒したはずのイビルリザードの低い呻り声が聞こえてきたのです。


 場の空気が一瞬にして凍り付きました。


 そして、シャイニングボルトが巻き起こした砂埃が晴れると、そこにはイビルリザードがしっかりと立っていました。


 流石に五体満足とはいかなかった様で、片翼と僕を薙払った尻尾の先端を落とし、右の前足を引き摺ってはいましたが、

まだ奴の目には光があり、まだまだ戦闘が可能な事を示していました。


「くそっ、これでも倒せないと言うのか!?どんだけ化け物何だ、こいつは…!」


 クオン先生が悲痛な叫び声を上げながら崩れ落ちました。


 魔力を全て使い切ってしまった様で、倒れた先生はピクリとも動きません。


 今までどんな魔物も葬って来た先生の魔法も効かないなんて…。



《「手負いの魔物程厄介なモノは無い」》



 昔お祖父様が言っていた言葉が、フと思い出されます。


 今までも充分厄介な相手だったイビルリザードが、これ以上厄介になったら……。


《グルルルルルルル…》


 血混じりの涎を口からダラダラと流しながらも、ジリジリと近付いてくるイビルリザード…。


 僕らの脳裏に【絶望】の二文字が過ぎります。


 此処を突破されれば、次は先に逃がした仲間達が襲われる。


 そしてその次は学園か、その近辺の街が…。


 出掛けに見たシエロの心配そうな顔が浮かびます。


 ゴメンね、シエロ…。


 兄さんは約束どころか君を守る事すら出来ないみたいだ…。


 でもせめて、コイツに一矢報いてから死のう!


 出来るならこの魂を生贄に、倒されてくれれば…。


 1つ深呼吸をして、眼前まで迫りつつあるイビルリザードを睨み付ける。


「我が内に燃え上がりし炎よ、我が命を糧に……」


 そして、父から教えられていた最後の魔法の詠唱を、其処まで唱え終えた時でした。



「インフェルノ・ジャベリン」


 本当にポツリと呟いた様な小さな、しかし何処までも通る声が響き――――。



《ズドグァアアアアン!!》



 先程クオン先生が放った魔法とは比べ物にならない程の轟音が辺りに轟き、イビルリザードの体を穿ちました。


「うわっ!?」


 余りの衝撃波に軽く吹き飛ばされながらも何とか受け身を取り、そのまま体制を整えながらイビルリザードの方を見やる…。


 すると…。


《クォオオオーン》


 断末魔の叫び声を上げながら、ドロドロと焼け落ち、融けていくイビルリザードが目に映りました。


 豪々と音を立て、イビルリザードだったものは、あっと言う間に周りの地面ごとそのまま融けて無くなっていきました…。



《バサッ、バサッ》



 そして火の気が消えた頃、空から一体の魔物が降りてきて、何もなくなった地面に降り立ちました。



「そっ、そんな…。イビルリザードの次はドラゴン?はっ、ハハハ…。僕達が何をしたって言うんだ…!!!」

 マルクルが腰を抜かしながら泣き笑いの様相で叫びます。


 エルは声すら出せずに後ずさりをしては転びを繰り返していますが、足が震えていて殆ど進んでいません。


 プラウディアも、ユーゴもフォルクスも、そしてアリソンさんも、僕の周りで一緒に闘ってくれていた皆は全員、ソイツが地面に降り立った姿を見た瞬間に気を失ってしまいました。



 かく言う僕も、余りに強大な覇気にあてられて体の震えが止まりません。


 僕が決死の覚悟で唱えようとしていた攻撃魔法の、何百倍もの威力の炎属性魔法を放つモノが相手では、いくら僕が命の炎を燃やして攻撃魔法を放ったところで、微塵のダメージも与える事は出来ないでしょう。


 それどころか、下手をすれば相手の力を倍増させる事にも繋がりかねません。



 【死】



 死ぬ。


 僕は、何も出来ずに此処で死ぬ。


「はっ、はっ、はぁはぁ…」



 心臓が早鐘の様に鳴り、汗が噴き出す。


 シエロ…、ルーメン…、フルスターリ、父様、母様…。


 家族の顔が浮かび、涙が溢れる…。


 ゴメン、ゴメンナサイ。



 僕は、涙に滲む目蓋を閉じた。


 二度と会えぬ家族の姿を目蓋の裏に映しながら…。





さぁ、プロクスの運命や如何に!!


すいません、終わりませんでしたorz

明日もお読み頂ければ幸いです。


本日もお読み頂きありがとうございました。



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