閑話 聖ホルド学園、遠足の日
12月18日の更新です。
リクエストを頂いた物よりも、100話記念の閑話の方が早くなってしまって申し訳ありませんが、100話続けさせて頂いた感謝の閑話で御座います。
いつも筆者の稚拙な小説をお読み頂きありがとうございます。
これからもお読み頂ける様、精進して行く所存です。
宜しくお願い致します。
どうもこんにちは、プロクス・コルトです。
いつも弟のシエロがお世話になっております。
本日、僕達は聖ホルド学園主催の遠足…と言う名の魔物狩りに来ています。
一応、学園の裏山に登り、頂上で食堂のおばちゃん達に作って頂いたお弁当を食べる、と言う遠足要素も入っているのですが、そこに至るまでに裏山に湧いた魔物を間引くと言う行為が入る為、担任のクオン先生曰わく【一石二鳥】なんだそうです。
確かにこの遠足では、足場の悪い場所での戦闘行為や、魔物が何時何処から来るとも知れぬ緊張感、周りを森に囲まれた狭い空間でどう仲間達と連携を取るのか、非戦闘系のスキルを持つ仲間をどう守るのか等学ぶ所が多いので、今から楽しみです。
ただ、前回の遠足からひと月なかった事が、気にかかると言えば気にかかるのですが…。
「プロクス、昨日弟に何か細工してもらってたみたいだけどよ?また眼鏡の性能上がったのか?」
「あぁ、エルとマルクル、アリソンさんには伝えておかなくちゃね?そうなんだよ、昨日シエロが改良してくれてね?戦闘中でも外れなくなったんだ♪」
そうなんです。
前回の魔物狩りの時、眼鏡が戦闘中に外れてしまい、パーティーメンバーに迷惑を掛けてしまった事をシエロに相談したらすぐ対策を練ってくれて、今回戦闘行為の様な激しい動きでもズレない、外れない様に改良してくれたんです。
顔にピッタリと吸い付く様な感覚にはまだ慣れませんが、今回の改良で眼鏡のツルと言われる耳当ての部分が無くなったので、激しく動いても耳が痛くならないので助かります。
後、それとは別にシエロから不思議な色の石が付いたブレスレットを貰いました。
水色と黄色が混ざった様な縞模様の不思議な色合いの石が、リング状のブレスレットにはまっています。
こんな石を見るのは始めてだったのでシエロに聞いてみると、これは【光】と【水】の属性が混ざった珍しい石なのだと教えてくれました。
《「これを着けていたら、飲み水と回復魔法にはある程度困らなくなるとは思います。ですが、あまり無理はしないで下さいね?兄様が怪我をするところなど見たくないですから…」》
シエロはそう言って渡してくれました。
こんな事を思ってはシエロに申し訳ないのですが、心配してくれるシエロは凄く可愛いので、時々ワザと困らせたくなってしまいます。
そのせいでシエロから叱られる事もあるのですから、反省反省、ですね?
「と言うわけで、僕も少しなら回復魔法が使えるから頼りにしてくれて大丈夫だよ?」
「おぅ、まぁこんな学園の裏山で出る様な魔物相手に怪我何かしねぇから、使わずに終わるかもしれねぇけどな?」
「ちょっとエル、油断大敵だよ?先日この山でイビルリザードが出たって騒ぎになったんだから、ちゃんと注意してよね?」
いつも調子に乗りやすい僕とエルドレッドを諫めてくれるマルクルには本当に感謝しています。
その事で先日、実技担当の先生にも注意を受けたばかりなのですから、油断と過信は禁物です。
さて、そろそろ山の登り口が見えて来ます。
気を引き締めて行かなくては!
――――――
「おらぁ!20匹目ぇー!」
エルドレッドが20匹目のリトルリザードの首を切り落としました。
「はっ!」
僕も飛びかかってきたリトルリザードを切り倒しますが、斬っても斬ってもリトルリザードの数が減る様子はありません。
「おかしい、数が多すぎる!」
マルクルが得意の闇魔法を放ちながら叫びますが、確かにここまでリトルリザードが繁殖しているのはおかしすぎます。
今日は職人志望の生徒を除く、A~D組のまでの生徒を総動員しての魔物狩りなので、回復役、魔物の解体役の非戦闘員を含めなくても魔物の相手をしなくてもいい、いわば非戦闘員の護衛係りが出るはずでした。
それなのに、結果として護衛係りに回れない程の魔物が僕達に襲いかかってきているのです。
今のところは何とか非戦闘員を守りながら戦えていますが、いつその均衡が崩れるとも分かりません。
何せ、いつもは監督官として見ているだけの先生方のお手を煩わせても、戦闘が終わらないのですから…。
「プロクスさん、前方右斜め2時の方角から魔物の気配10!その奥、10時の方角から5!何れもリトルリザードと思われます!!」
周囲に目を配ってくれている、アリソンさんから指示が飛びます。
彼女は額に第3の目を持つ多目族で、僕達普通のヒューマン族と比べてとても広い視野を持っている為、こういう時にとても力強いパーティーメンバーです。
くっ、しかし本当にキリがない!
かと言って木が生い茂るこの森の中で、僕が攻撃魔法を放つ訳にもいきません。
本当に凄い方になると、目標だけを焼き尽くす事が出来るそうなんですが、僕にはまだそこまで精度の高い魔法は使えない為、下手をすると山火事を引き起こしてしまいます。
仕方なく攻撃魔法はエルとマルクルに任せ、僕は剣のみで応戦していたのですが、だんだんリトルリザードの血肉が剣に絡みつき、切れ味も機動力も落ちてきました。
「てやっ!はぁ、はぁ…。まずいな…」
上がる息に紛れ、ポツリと弱音が零れます。
はっ!?いけない!
パーティーのリーダーでもある僕が弱音を吐くなど許される事ではありません。
「すまない。ちょっと弱気になった!」
「気にすんな!お得意の攻撃魔法も封じられて、今まで弱音の1つも出ない方がおかしかったんだ!!うぉー!風よ刃となりて我が敵を切り刻め!ウィンドスラッシュぅぅー!!」
《ギャッ、グギャアア!》
エルが放った幾筋もの風の刃が、右斜め前から来ていたリトルリザードの体を6体まとめて切り裂きました。
僕らが今立っている森の中の少し開けた場所に、むせかえる程の濃い血の臭いが立ち込めます。
「ありがとう。エルドレッド」
「礼は良いから手動かせ~?」
照れ隠しからか茶化す様に話すエルドレッドに、思わず笑みが零れます。
ふふ、こんな時仲間の励ましは本当に心を軽くしてくれるものですね?
僕も頑張らなくては。
しかし、どうやって…?このまま戦闘が長引けば、近い内に剣の切れ味は限りなく0になる事は間違いないでしょう…。
「あっ!そうだ、これがあった!!」
僕はシエロから貰ったブレスレットの石に魔力を込めました。
石が僕の魔力を吸い込み、ブレスレットからは僕の属性的に正反対の青い光が溢れ、輝きを放ち始めます。
「シエロ、使わせてもらうよ!アクアショット!!」
《グギャアアアアア!?》
本来アクアショットは水の球を作り出し飛ばす魔法です。
しかしそれではリトルリザードの堅い鱗を穿つ事は難しく、敵の鱗を悪戯に濡らして終わりになるところなのですが、魔法を放つ際に水の球を回転させ、面積を極力薄くする事によって巨大な円盤状の水の刃を作り出す事に成功しました。
《ドサッ、ドサドサッ》
「よし…!」
とにかく今ので左から来ていた5体と、エルが取り零した4体を回転する刃で倒す事が出来た様ですね…。
「今のプロクスさんの倒したリトルリザードでとりあえず最後の様です!敵影、周囲にありません!!」
「ぶっはぁ~!今のはしんどかったな…。つーかプロクス、最後の魔法何だよ!?お前、水属性持ってたっけ?」
アリソンさんの言葉に、動きっぱなしだったエルが崩れ落ち、尻餅をつきました。
とりあえず、大きな怪我を負ったメンバーもいない様で、僕もホッと息をつく事が出来ました。
「シエロのくれたブレスレットに水属性の石が使われていたのを思い出してね?一か八かやってみたんだよ。何とか上手くいって良かった…」
「んだよ、ぶっつけ本番だったのか?流石は天才様だな?そんなの思い付きもしねぇよ…」
あー、と天を仰ぎ見ながらそんな事を言って僕をからかうエル。
どうでもいいけど、そんな血まみれの場所に良く座れるよね…。
そんな事を思える程、気持ちが少し弛んだ瞬間でした。
《グギャオオオオオオ!!》
森の奥深くから覇気を含んだ凄まじい鳴き声が聞こえてきました。
森の中から、今の鳴き声に驚いた無数の鳥達が慌てて逃げて行きます。
その鳴き声に、弛緩した僕達の気持ちも一気に引き締まり、それぞれが構えを取り直します。
「今の声はもしやイビルリザードか?マズいな、戦闘員は円を描く様に非戦闘員を囲む布陣を取れ!この声がもしイビルリザードだとしたら、いつ何処から飛んで来るか分からないぞ!!」
先生の怒号が森の広場に木霊します。
イビルリザードは、リトルリザードが何らかの要因により、闇属性を持った魔物の事を指します。
しかしイビルリザードの厄介なところは、ただ闇属性を持ったと言う事だけではなく、体の大きさも保持魔力もリトルリザードの3~4倍になっている事でしょう。
先日見かけられたイビルリザードは、偶々そこに居合わせた冒険者達の手によって倒されたハズでした…。
普通イビルリザードと言うのは長い年月を生きたリトルリザードが進化して生まれるモノで、群れに一匹見つかればすぐに冒険者協会や学園に連絡が行って、討伐隊が組まれるクラスの魔物です。
それがここ最近の間に2度も出現している…。
この森の中で、一体何が起こっているんだろうか…。
僕は森の奥深くを睨み付けながら、そんな事を考えていました。
閑話が毎回血塗れで申し訳ありませんorz
本編に戦闘シーンが無いのでねじ込んでおります(笑)
本日もお読み頂きありがとうございました。