その6
六限もぼーっと過ごして、ホームルームも終わり、下校の時間となった。
「寂しいよ……、かぁ」
「なになにぃ~、寂しいのかいかずはぁ」
「おっさんみたいな口調だね」
「む、おっさんとは失礼な。それよりなんかずっと考え込んでる風に見えたけどなんかあった?」
「いや、特に。それより、早く帰らないと同じ係の人に捕まるよ」
「おっといけない。今日はやけに気が利くねぇ。じゃ!」
といって川嶋はダッシュで教室を出ていった。
その背中を見送って、私も教室を出る。
「昨日」と続いて、予想外の二連勤である。
昨日も来たんです、とか言っても、周りの人にしてみれば昨日は日曜日だし。何言ってんだコイツみたいな目で見られること間違いなし。
仕方ない、どうせ人はほとんど来ないし、といつも通りカウンターに座る。
しかし暇だ。他の小説は持ってきていないし。今図書室で適当に漁って読み始めるのも、家に読みかけがある状況では好ましくなかった。
カウンターから見える本棚をひたすらぼーっと見て過ごす。
そして、活字で頭を使っていないと、脳はいろんなことを考え出す。
(さっきのテレパシー、誰の声なんだろ……?)
少なくとも私の声ではない。
人間、自分の声は自分で聞こえるのと録音したのを聞くのとでは違って聞こえるらしいが、カラオケでも私はあんな風な声ではない。酷いという意味ではなくてね。
じゃあ誰?
思い出す限り、あの声と似たような声の知人は心当たりがなかった。少なくとも中学までははっきり覚えている。
声変りの可能性もあるので、小学校の頃を思い出しても……というか覚えてないし。
「ん?」
声の心当たり、というわけではないが、一人だけなぜか浮かんできた人物がいた。
小鳥遊 夏美。なつみ。
私たちが小学四年の時に、交通事故で亡くなった幼馴染だ。
小学校を卒業するまでは、あの場所に行くたびに思い出したものだが、最近はなつみを思い出すことなんてめったにない、ないはず―
「!」
脳内で、無関係に思えた二つの事象が突然つながった。
四限の読書中、私に語りかけていたあのテレパシーの声は、少し低かったけれどなつみにそっくりな気がする。
なつみが、もし、この世を去らなければ、私たちと同じ年になっていたら、あんな声なのではないだろうか。
もちろん、すべてはとっさの思いつきからの推測にすぎない。
死者の霊とかは、あくまで小説の中の話であって、現実には起こり得るはずなんてないし。
じゃあ、現状はなんだというのか。
この一日が、「昨日」が繰り返されているこの現状は。
なんにもわからなかった。わからないことだらけだ。