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僕らの時間は指輪と廻る  作者: 高山 和義
第2章 「時間軸」 ~澤本和葉の場合~ 
8/15

その5

なぜだ。

タイヤの空気が抜けてちょっと重い自転車をこぎながら、学校を目指す。

私の記憶が間違っていなければ、今日は九月二十四日、火曜日のはずだ。

だって、テレビのじゃんけんコーナーの人変わってなかったし、出した手も同じだったし。昨日ちゃんと月曜日の時間割で授業受けたし。

確かに、「月曜日」はちゃんと一日過ごしたはずだ。

結局いろいろ考えてみても、疑問は減るばかりか、頭の中を埋め尽くしていった。

学校に着いてから駐輪場に自転車を入れ、校舎に向かって歩いていくと、「昨日」と同じように溶剤の臭いが漂ってきた。

これは……、文化祭準備真っ最中だから別に不自然じゃないし?

頭の中でよくわからない言い訳をしつつ、上履きに履き替えて、教室に向かう。

教室に入って、自分の席に座ると、「昨日」と同じように川嶋が絡んできた・

「おはよーかずはぁ。ねぇ聞いてよぉ、あたし―」

「大道具係にされた」

「っえ、なんで知ってるの?」

「いや、別に」

やっぱりか。

「そおなんだよ。もうだるい。やだよスプレー塗料とか板切るのとかー」

だが、「昨日」と違って会話はそこで途切れた。

私が余計な口をはさんだからだろうか?

担任が教室に入ってきて、川嶋が席に戻っていった。

家を出る前に慌てていて正解だった。

そもそも慌てていて正解、という表現自体が謎だが、月曜日の支度をしておいたおかげで、授業そのものに困ることはなかった。

とはいえ、一回は受けた授業だ。教師の言っていることも板書も問題も全部同じ。

普段からあまり真面目に受けてない授業は、もう話すら聞いていない。どうせ一度聞いた内容だし。


ちゃんと聞いてなかったけど、確実に次回の物理は自習だ。


                  *

本棚に戻したはずの「昨日」読み終わったはずの小説も、元のように鞄に入ってるし、栞も元の位置に戻っている。

もう一回読む気にもなれず、「今日」は鞄から出していない。

気づいたら四限は終わり、昼食の時間となっていた。

疑問は相変わらず。腹の底でくすぶっているのレベルの表現では足りないほどあったが、解決なんて無理そうだ。「昨日」も全く同じな「今日」も、現実として受け入れて過ごすしかないんだろう。

朝もそうだけど、会話を先回りしたりして、相手が驚くのを見るのはなかなか興味深いが、あまりやりすぎると騒がれそうなのでやめておこう。

おっとそろそろ……

「―の読みを答えてください。え~と、澤本さん」

ゆるっとした雰囲気の国語の教師が私を指名した。

黒板には「過去との邂逅」と書いてある。

「かことのかいこう」

「はい正解。次は~」

だろうと思ったよ。

今のところ私は、「昨日」の記憶があることを利用して、「今日」をちょっと先回り気味に過ごすという一人遊びをしている。

それで、今の状況に対する疑問を少しでも和らげようというのが狙い、だ。狙いというほど考えてもいないけど。

そして、ちょっとひっかかってること。

昨日、四限前の休み時間に聞こえた謎の声だ。

聞こえた、という表現はちょっと違うかな。

頭に響いてきた?

テレパシー?

……とりああえず、テレパシーということにしておこう。

「寂しいよ」

「みんなが離れて行ってしまう。私から」

「離れていかないで、気づいて。お願い」

とテレパシーの声は言っていた。

(寂しい、離れてしまう……かぁ)

どういうことなのだろうか。

この声が言うことが私を示しているとなると、私は過去に何かを置いてきた、もしくは忘れてきた。

そしてそれが原因となって今の状況が引き起こされている?

短絡的と言われたらそれまでだが、それ以外に思いつくことがかない。

でも何を忘れたか……、そこまでたどり着くにはあまりにもヒントがなさすぎて。

結果、よくわからないままだった。

五限の終了を告げるチャイムが鳴った。


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