その1
「『グー』でしたー」
ああ、今日も負けた。
ちっ、とテレビに向かって悪態をつく。
朝のニュースのじゃんけんコーナーに最近はまっていて、朝起きてから登校するまで二回、日替わりでいろんな人が出てきて、ジャンケンポン。
昔はこんなコーナーがあっても画面に向かってホイして終わりだったろうけど、今はリモコンのボタンを押して実際に勝負できる。勝った回数に応じてポイントが貯まるなど、現代技術とはすごいものだ。
だけどここ三日くらい負け続けで、ちょっと悔しい。
おっと、もう家を出なければならない時間だ。
「いってきまー」
っと、今日は誰もいないんだった。
両親は共働きで、父親は出張、母親は「今日は早いから」とさっさと出かけて行ってしまった。
昔からなので慣れてはいるものの、たまに誰もいない家に向かって声をかけてしまうこともある。
玄関の施錠を確認し、今度は自転車の鍵を外してまたがる。
高校までは自転車通学だ。別に電車でもよかったのだけど、わざわざ二・三駅のために電車に乗るなんて、そっちの方が面倒に思えたのだ。
雨の日は二十分くらい歩くことになるけど、それはそれだ。天気が酷いときには電車を使うからいい。
鞄を前籠に突っ込み、ゆっくりと加速をつけて走り出す。
ここ二日間くらいは荒れ模様で、電車で通学から自転車に乗ったのはちょっと久しぶりだった。
「ひぇっ」
思わず変な声が出てしまった。
普通にハズかった。
そして、お尻がちょっと冷たい。
ああ、雨水がサドルに染み込んでいるのか。ちゃんと面倒くさがらずにカバーをかければよかった。
ちょっとサドルからお尻を浮かすようにして自転車を漕いでいく。
電車通学組とは違って、特に知り合いに会うこともなく、学校に到着。
空気も抜けてきているのか、いつもより余計に足が疲れた。
駐輪場の空いているところに適当に突っ込んで、校舎に向かう。
校舎の外では、早くも文化祭に向けて着々と準備が進んでいた。
各ブースに飾るのであろうベニヤ板を使った看板、中には四枚組み合わせて柱のようにしているのもある。あれは校門に置くやつだろうか?
ちょっと苦手な溶剤の臭いに顔をしかめつつも、上履きに履き替え、教室に向かう。
教室に入ると、川嶋が絡んできた。
「おはよーかずはぁ。ねぇ聞いてよぉ、あたしなぜか大道具係にされちゃったよー。やだースプレー塗料とか板切るのとかー」
「あ、いつのまに担当決まってたんだ」
昨日のホームルームでの話し合いは完全にスル―していたから、そもそも自分の役割を覚えていない。本読むほうが楽しい。
「というか、今朝『部活が被るからムリになった~』って交代させされちゃってさぁ。もうやだ帰りたい」
「まあまあ、誰かがやらないと終わらないんだし」
「だよねぇ。というか、かずはは自分の担当覚えてるの?」
「……なんだっけ?」
「おいおい……。かずはは当日の受付だろー。時間は級長に確認しとけぃ」
正直文化祭は乗り気ではなかった。言い訳ではないけれど、クラス自体もそんなに乗り気な雰囲気ではない。
「おっと、ティーチャーのお出ましだ」
担任が教室に入ってきて、朝のホームルームがはじまった。