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僕らの時間は指輪と廻る  作者: 高山 和義
第1章 「時間軸」 ~磐田啓輝の場合~
3/15

その2

いつもどおり、朝七時の目覚ましの音で起きる。

昨晩と続き、重い瞼をこすりつつ、リビングに降りる。

コールスローは今日で変わると思っていたが、同じであった。

気でも変わったのだろうか。

テレビは気象予報をやっていた。

『九月十九日木曜日、本日は雲ひとつない快晴となるでしょう―』

ん?

木曜日?

「母さん、今日何日?」

「んー、ちょっと待ってね」

料理の手を止めて、母親がカレンダーを見に行く。

「今日は十九日ね、木曜日」

「えっ?」

「どした?」

「……いや、なんでも」

木曜日?

今日は金曜日じゃないのか?

俺の勘違いか?

もやもやとしたものを抱えながら支度をして、家を出る。

駅についてちょうど来た電車の空いている席に座る。いつもは何気なく出すスマホだが、今日はスマホの画面を見るのが少し怖かった。

制服のポケットからスマホを取り出す。

ロックを解除すると、SMSアプリのアイコンの上に新着メッセージを示す数字が「1」と出ていた。

ごくり、と唾を飲み込む。なんだか強烈に嫌な予感がした。

アプリを起動すると、メッセージの主はクラスメイト、

「今度カラオケいかない?」

これは…なんなんだ?

スマホを操作し、クラスのグループを開く。

メッセージをさかのぼっていくと、朝早くに登校した生徒によって、二時限目が自習である旨が書き込まれていた。

どれも昨日読んだはずのメッセージだった。

朝からずっと感じていたもやもやが、はっきりとした疑問に変わった。

ニュースでは今日は木曜日だと言っていた。母親もそう言っていた。

そして十九日朝のメッセージも新着扱い。

これらの事象は偶然に偶然が重なり、俺がそれらにデジャヴを感じているだけ、と考えるには都合がよすぎる。

考えてはみるものの、結局答えは導き出せず、たった五分乗っていただけの電車は、あっさりと学校の最寄駅に到着する。

駅から学校までの道のりで、コンビニから出てきた知り合いに会った。

                     *

朝礼の時、担任からあった連絡事項は昨日と全く同じで。

金曜日の一時限目は古典のはずだが、教室に入ってきたのは科学の先生で。

号令がかかると、授業が始まる。昨日と全く同じ所から解説が始まって。

疑問を通り越して、もうわけが分からなくなってきた。

                     *

二限が自習、三限が古典、四限が英文法。

木曜日の時間割だった。

教師の話を聞いても全く頭に入ってこない。

諦めて、現状を把握すべく思考を巡らす。

まずおかしかったのは、今朝のニュースだ。まさかニュースキャスターが日付を間違えるとは思わない。

今日は間違いなく、九月十九日木曜日なのである。

でも、木曜日は昨日なんじゃないのか?丸一日授業を受けた記憶も、知り合いと何を話したかの記憶もある。

だけど、ノートを開いても昨日書いたところは白紙に戻っていて、プリントは手元になく、クラスメイトは昨日と全く同じ話をしている。周りの反応まで同じだ。

俺に何が起きているのかはさっぱりわからない。もしかしたら偶然にも一日を完璧に再現してしまった正夢なのかもしれない。

ただ、つねった頬は痛かった。

だからというわけではないけれど、この二回目の「木曜日」は、どうしようもないくらい現実そのものであると認めるしかない、認めざるを得ないけれど。

明日も続くのか、今日で終わるのか―そもそも今日明日という表現もおかしいが―まったく分からない。

ああ、どうかすべてが夢であってほしい。

現状を、現実を、認めたくはなかった。

                   *

家に帰り、制服のままベッドに倒れこむ。

下校途中にもいろいろ考えたが、無駄だと思いもう思考は放棄した。

いくら考えたって、現状を把握したって、仕方ない。解決策を見出したところで、何に対して抗えばいいんだ。

そんな無気力感が全身を支配していた。

そのまま昨日と同じ夕食を食べ、風呂に入り、寝る。

学校でまともに授業を受けていないのに、一丁前に眠気は訪れた。

かばんの中には、図書館で借りた本が入りっぱなしになっていた。

                     *

夜中、突然目が覚めた。

ふと意識が浮上してきてたというよりは、何かに起こされたと考えたほうが自然なほど、意識がはっきりとしていた。

見えるものは自室の天井なので、夢の中ではなさそうだ。

半身だけ起こし時計を見ると、二十三時五十八分。

なんでこんな時間に目覚めたのかが疑問だった。

―五十九分

そして、なんだか強烈な予感めいたものを感じる。

何かが起こりそうな、そんな予感が。

三・二・一



                    *

磐田が気絶したようにベッドに倒れこむ。

まるで意識というコンセントを引き抜かれたように。

それを待っていたかのように、再び目覚まし時計の秒針が動き出す。

目覚まし時計に表示されている日付は「九月二十日 金曜日」になっていた。

当然磐田は、それに気づくはずもない。

「木曜日」は終わり、正常に時が動き始める。

全てが、正常に戻る。

                  *

翌朝、目覚まし時計のアラームで目が覚める。

スヌーズボタンを押して止め、画面を見る。

「九月二十日 金曜日」

ちゃんと日付が進んでいた。

一体あれはなんだったのだろうかと思うほど、時間は正常に戻った。

そういえば、夜中に一度目が覚めたような気がするが、なぜかそこから再び寝た記憶がない。

まあ、寝落ちしたんだろう、と結論付け、ベッドを出る。

朝食のサラダは、コールスローから春雨サラダに変わっていた。

朝の天気予報は、

『九月二十日金曜日、前日までは大雨との予報が出ておりましたが、来週までは天気が持つようです。ただ、一日中曇りで、昨日とは打って変わり、どんよりとした空模様になりそうです。この天気は週末一杯続く予報です。』

ちゃんと日付が進んでいた。

制服に着替え、家を出る。

近くの路線が人身事故で運転を見合わせているとかで、乗った各駅停車はいつもより混んでいた。

座るところもなく、ドアの脇に立つ。

混雑が影響した遅延も特になく、いつもどおりに学校の最寄り駅に着く。

通学路を歩いても、途中で知り合いには会わなかった。

学校に着き、教室に入ると、今日から始まる文化祭準備の話題で盛り上がっており、手伝う気がない俺も何故かその話題に巻き込まれる。

しばらくして教室に担任が入ってきて、朝礼が始まった。

連絡事項は、今日から下校時間が延長されること、文化祭前日まで泊まりは禁止であること、文化祭でのブースごとの予算、買い出し時の注意、作業時の注意など、文化祭関連の連絡事項がたくさんあった。

一時限目開始時間ぎりぎりに朝礼が終わり、担任と入れ替わりで古典の教師が入ってくる。

いきなり板書が始まり、急いでルーズリーフを開く。

念のため化学の教科書等を準備しておいたが、杞憂に終わったようだ。急いでページを変え、シャーペンを走らせる。

鞄の中の小説はなくなっていた。

結局、なんてことはなく日々は過ぎていく。

                   *

昼休み、別の本を借りるため図書室に向かった。

前々から目をつけていた本はすぐに見つかった。カウンターに手続きをしに行く。

カウンターには、図書委員であり、豊嶋と同じく俺の小学校からの幼馴染である澤本和葉がいた。

だからといって特に会話もなく、澤本が貸し出しカードと本のバーコードを順にスキャンし、パソコンのエンターキーを数回たたくと、「はい」と本を渡される。

渡された本を小脇に抱え、図書室を後にした。

五・六時限と授業を受け、放課後、足早に帰路につく。

小説の内容が多少気になったが、電車の時間ではあまり集中して読めそうになかったので、諦めることにした。

家に着き、私服に着替えてから、夕飯までの間読書にふける。

リビングから、夕食にするよー、という母の声が聞こえ、本にしおりをはさんでからリビングに向かう。

夕食の味が、いつもよりおいしく感じられた、気がした。

なぜかは、わからなかった。

夕食を食べ終わり、麦茶を入れたコップを片手に、自室で読書を再開する。

                 *

結局これらの出来事はなんだったのだろうか?

俺の思い込みでないとしても、じゃあそんな、時間が巻き戻るなんて事が、現実に起こり得るものなのだろうか?

小説の読み過ぎが原因でそう思い込んでいるだけじゃないか?と言われたら反論のしようがないが、でも思い込みと実体験は違う。

なんだかんだと考えてみても、最終的には「よくわからない」にたどり着く。

よくわからなくても、あの一連の出来事は、俺の胸に強烈な違和感を残していった。



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