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てがみ




 いつもの場所から、死んだ樹を見つめていたけれど、白衣の優男はやって来なかった。

 そして、――二度と私が彼に会うことはなかった。

 彼は私に短い手紙を残し、去った。



「きみに、ひとつだけ祈りを託していいだろうか」



 手元に残されたのは、折りたたんだ跡の残る、メモ帳から千切り取られた一枚の紙。

 私はそれを小さく千切り、病室の窓からそれを散らせた。

 風に乗って散るさまは桜にも似ていてどこか名残惜しく、破片が見えなくなっても私はしばらく宙を眺めていた。

 寂しさはない。たとえこのとき彼が去らなくても、遠くない未来に私のほうがこの世を辞さなければならないのだ。だからどんなに重いものを託されたところで、今なら許せる。私がそれを背負って歩かなければならない時間は、あと少しだけ。


 彼のことは、深く考えないままでいようと思う。人生の終わりに、ほんの短い時間を共有した人。彼が見せた表情、彼と交わした言葉、それらをただ覚えている。




            *





 ――きみが、幸福であるように。ぼくの愛した全てが、幸福であるように。







 お読みいただきありがとうございました。

 


 もとはとある長編の番外として書いたものだったので、これだけだと全体がぼんやりしていると思います。

 本編にあたるものは個人サイトに掲載していますので、よろしければおいでください。 http://momentmusical.kagennotuki.com/


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