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Phase 011:「コスト管理?」

計画の段階での見積もりコストの精度が悪いと、後で大変なことになります。

また、すでにある資源をどのように活かすのか計画することも、コスト管理の重要な要素です。

「どーういーう関係なんですかっ!?」


 クリッとした(まなこ)を見開いて、彼は吼えるように詰問してきた。

 前のソファに腰かけているが、いつでも立ちあがれるぐらい前屈みだ。


どーいう関係(どぅひゆはんへい)と言っても(ほひわへてほ)……」


 正面の席に腰を降ろす俺は、激しく腫れ上がった頬で、何とか言葉を紡いだ。

 なにしろあの直後、古炉奈から平手でおうふくビンタを何往復もいただいた。

 まあ、素敵体験もできたし、バットじゃなかっただけマシだと思うことにした。


「僕の生徒会長に、なんでそんなに親しそうにしているんです!?」

「あなたのではありませんわ」


 しっかりと俺の横をキープした古炉奈は、ため息まじりに、七三分け頭の男子生徒を叱る。


「だいたい、なんでここに来たのです、塩沢書記」

「そんなの決まっているじゃないですか! 僕の生徒会長が心配だったからですよ!」

「だから、あなたのではありません!」


 また、古炉奈は大きくため息。

 これはなかなかウザそうなキャラクターの登場だ。

 遠巻きに見ている他のPM部員にも、唖然とした空気が漂っている。

 (ちなみに、華代姉は一瞬で委員長モードに変身済み)


 塩沢と呼ばれたのは、つい最近、新しく生徒会書記となった2年生らしい。

 元書記が急に転校していなくなり、しばらく書記は空席だったそうだ。

 そこで古炉奈は、華代姉を書記に迎えたかったらしいのだが、なんだ、かんだあって、その話は流れた。

 そして、書記となったのが、この塩沢という2年生ということらしい。

 ちなみに、書記は選挙ではなく、生徒会長の権限で決められるそうだ。

 つまり、このうざキャラを選んだのは、古炉奈ということになる。


「今日一日、生徒会長の様子がずっと変でした。そわそわしたり、落ちつきがなかったり」

「ちょっ、ちょっと、塩沢書記……」


 俺はその塩沢の言葉に、「ほほう」と口角をあげた。

 それに反応して、古炉奈が視線だけこちらに一瞬間だけ向け、「もう」と小声をもらす。

 その様子に気がついたのか、塩沢の頬がプクッとふくれる。


「それに放課後になったら、逃げるように消えてしまうし……」

「休み時間のたびに、あなたがわたくしの所に来るから、それは逃げたくもなりますわ」


 つい、「ストーカーそのものじゃんかよ!」と、ツッコミをいれたくなるが、藪蛇になりそうなので押し黙る。

 祖父が教えてくれた格言がある。


――見えぬなら、歩まず黙考せよ。


 状況が掴めない時、流れがわからない時は、下手に動かず、喋らず、情報収集して、よく考えることが大事であると。

 つまり、こういう時は、ツッコミまずスルーしろということだろう……たぶん。


「わたくしは、あなたのやる気を見こんで、書記を任せたのですわ。わたくしを追いまわす前に、やることはたくさんありますわよね?」

「僕は、愛しい生徒会長の力になるために書記になったんです! 僕にとって一番大事なのは、生徒会長なんです!」

「…………」


 丸い輪郭の少し幼さを感じさせる顔で、「ドヤ!」と語る塩沢は、自分の言葉に完全に酔いしれている。

 自分は、なによりもあなたが大事なんですと、剛速球のストレートを投げこんだわけだ。

 あのアルトな声の副会長の言によれば、こういうのは古炉奈のストライクゾーンである。

 しかし、この剛速球ストレートは、ストライクゾーンに入っていない。

 完全にボールだ。

 むしろ、暴投だ。

 その証拠に、古炉奈はため息しか出さず、こめかみにかるく指をあてて困っている。


「人選を失敗しましたわね……」

「……え? 生徒会長!?」


 古炉奈の宣告に、塩沢が一気に青ざめる。


「ぼ、僕は生徒会長のために……」

「生徒会は、全生徒のためにあるのです!」


 金髪チョココロネを揺らしながら、古炉奈の凜とした声が響く。


「我々は、全生徒が楽しく学園生活をおくれるために活動しているのですよ」

「もちろん、わかっています! 会長がそのために頑張っていることを。だから、僕は会長のために……」

「わかってませんわね……」


 古炉奈が、がっくりと肩を落とす。

 この反応は、当たり前だ。

 古炉奈は、少し変な奴だけど、生徒会長として真剣にがんばっている。

 まだ少ししか一緒に仕事をしていないが、それでも彼女がどれだけ真摯に取り組んでいるかは、痛いほどわかった。

 そして、そんな彼女が求めているのは、同じ目標を見つめて歩ける仲間のはずだ。

 それをわかっていたから、俺は彼女とどんなに仲良くなろうと、仕事では甘えは見せなかった。

 彼女と約束したスケジュールを守るためなら、無理をしてでもがんばった。

 だからこそ、俺は彼女とここ数ヶ月で、さらに仲良くなれたんだと思う。


 どうやら、塩沢書記殿は、それがわかっていないらしい。


「それがわからない人は、生徒会に必要ありませんわ!」

「そ、そんな……生徒会長……」


 どちらかというと、塩沢は男らしさより、かわいらしさのある顔をしている。

 その顔を今にも泣きそうに歪めだした。

 わなわなと手を震わせ、なにかを懸命に耐えてている。

 なんというか、これだけ盲目的に「愛に生きる!」みたいなことができる彼が、ちょっとうらやましくもある。


 まあ、この状態は完全に自業自得なんだが、ちょっとお節介してもいいかな。


「なあ、古炉奈」

「なんですの?」

「俺が口を出すことじゃないけど、まだ始めたばかりの書記の仕事だし、もう少しだけ様子を見てやってもいいんじないかな?」


「――ふざけんな!」


 まるで弾けるように、塩沢書記が立ちあがった。

 その勢いは、まるでポップコーンが出来上がる瞬間のような勢いだ。


「きさま、生意気言うな! 後輩の情けなど受けない! だいたい、なんでお前は、会長を呼び捨てにしているんだ! 先輩の上に、全校生徒の憧れと尊敬を集める、わが校の誇りたる、大守生徒会長をきさまごときが呼び捨てにできる権利などない! きさま、僕の生徒会長とどういう関係だ!?」


 その後に飛びだしてくる文句も、ポップコーンのように次々と破裂して出てくる。

 そう言えば、まだ関係を答えていなかったな。

 と言っても、俺もうまく説明できないのだが……。


「関係……う~ん…………。俺は古炉奈の兄貴分らしい」

「なんでだよ!? お前のが年下じゃないか!」

「ごもっとも……」


 俺としては、同意するしかない。

 すると、横にいた古炉奈が、楚々と立ちあがる。

 彼女の振る舞いも、桂香さんに負けず劣らず、やはり優雅で威厳がある。

 頭を撫でられている時とは大違いで、腕組みした小さい身体からは大きな迫力を感じさせる。


「ロウは確かに年下ですわ。しかし、彼はわたくしより大人な部分が多々あり、それに感銘を受けましたのよ」

「大人……」

「そうですわ。気配り、深慮、勤勉、そして責任感。なにより、彼はわたくしに真っ直ぐぶつかり、わたくしを理解してくれようとし、わたくしと同じものを見ようとしてくれますわ。一緒に仕事して、それがよくわかりましたのよ。それは、わたくしの新たな力となり、おかげでいろいろと学ぶこともできましたの」

「そ、そんなの僕だって……」

「あなたが見ているのは、自分のことだけですわ」

「ぼ、僕は会長だけを見ています!」

「いいえ。あなたが見ているのは、そのままのわたくしではありませんわ。自分の心というフィルタを通して見た、偏り(バイアス)のあるわたくしなのです。だからあなたは、わたくしが何を怒っているのか、理解できないのではなくて?」

「……それをあいつは、理解していると?」

「ええ。そう思いますわ」

「だから、兄貴分……。で、でも、ただの兄貴分なら、『おにいちゃん』なんて呼ぶことないですよね!」

「き、聞いていましたの!?」


 不意を突かれて動揺する古炉奈は、紅潮しながらもなんとか平静を保とうとする。

 いったい、いつから廊下に身をひそめていたんだろう。


「会長が、こいつを呼び捨てにするのはわかりますが、義理の兄妹でもないのに……おにいちゃんなんて……」

「そ、それは……それは…………そう! 義兄妹(ぎきょうだい)の契りを交わしたからですわ!」

「なっ!?」

「そ、そうですわ。わたくしとロウは、(さかずき)を交わした仲なのですわ!」


 ……おいおい。

 どこの組のヤクザさんですか?

 それに俺たち、未成年だから酒は飲めませんよ。

 ああ、もう……。

 適当過ぎるでしょ、言い訳が。

 そんなの信じる奴、いるわけない。


「ほっ……本当なんですかあぁぁぁ、それえぇぇぇ!?」


 訂正。

 いました。

 くそっ。お約束キャラめ!


「じゃ、じゃあ、2人は、もっもっもっもっ……もしかして、間接キッスした仲ということですか!?」


 気にするのは、そこかよ!

 ってか、杯を交わしても、別に間接キッスするわけじゃないぞ。

 なんか儀式を勘違いしているぞ、こいつ。


「そっそっ、そうですわよ! もちろんですわ!」


 顔を真っ赤に沸騰させながら、古炉奈が腕を組んで胸をはる。

 ……って、こいつもよくわからないで言っているな。


「じゃっ、じゃあ、もしかして……く、口移しで、の、飲みあったりもしたんじゃないでしょうね!?」

「もっ……ももももっ、もちろん済ませていますわ!」

「くっ……そおおおおぉぉぉっ!!!」

「おっほほほほほ!!」

「おほほじゃねー! あおるな!」


 思わず突っ込む。

 話がそれてるぞ。


「おい、きさま! もう、許さないぞ!」


 真っ赤に怒張した顔で、塩沢がいきりたつ。

 これも赤面化スキルの一部と言えるのか……と、くだらないことを考えている場合じゃないな。

 かなり、本気でお怒りのようだ。


「きさま、僕と勝負しろ!」

「へっ? 勝負?」


 予想外の挑戦状に、俺は顔をしかめてしまう。


「そうだ! 勝負だ! もし、その勝負に僕が勝ったら……」

「……勝ったら?」

「僕も、会長に『おにぃちゃん』と呼んでもらう!」

「勝手に呼んでもらえよ!」


   ◆


「ふううぅぅぅ……」


 俺は、ふかく、ふかーく、大きいため息をついた。

 それはまるで、部屋にたまった粗大ゴミをやっと追い出せたような気分だ。


 台風一過。

 さんざん叫びまくって、最後に勝負を吹っかけてきた塩沢は帰っていった。

 最後は蒸気機関車の煙よろしく、鼻息荒く部屋を出て行った。

 「見てろよ」「後悔させやる」「僕も呼び捨てにするんだ」とか、いろいろ捨て台詞を言いながら去っていった気がする。

 だが、俺も古炉奈も、最後の方は「はいはい」としか応えなくなっていた。

 すっかり精神的に疲れてしまって、今は2人でソファでぐったりだ。


 ……あ。

 さりげなく、古炉奈の小さな後頭部が、俺の左肩に寄りかかってきている。

 おかげで、すぐ目の横に金髪チョココロネ。

 近くで見ると、そのきれいな渦巻きが大迫力だ。


「ロウ。変なことに巻き込んでしまい、ごめんなさい……」


 俺の肩に寄りかかったままの古炉奈は、いつもと違って少し弱々しい声だった。


「ダメです。『おにぃちゃん、ごめんなさい』と言ったら許します」


 別に古炉奈が悪いわけではない。

 でも、「気にするな」というのは簡単だが、それでは芸がない。

 だから、ちょっと冗談を言ってみた。

 いつも通り、ツンを発揮して「調子に乗らないで」とか言ってくれば、元気も少しは出るだろう。


「…………」


 ところが、古炉奈の反応がない。

 どうしたんだろうと、声をかけようとした……とたん、彼女が開口する。


「お……おにぃちゃん、ごめんなさい……」

「許す! すべて許す! たとえ世界を滅亡させたとしても、おにぃちゃんだけは許す!」


 発揮したのは、デレの方だった。

 琥珀色のぱっちりした明眸を横目上目づかいという微妙な角度で、少しウルッとさせながら向けてくる。

 いつもツンツンした感じの美少女がデレる、その愛くるしさに俺はスッカリ降参だ。

 おかげで、俺の方が元気になってしまったよ。

 妹って、こんなにいいものなのか。

 萌えるわ、これ……。


「――で、2人で盛りあがっているところを悪いけど、受けちゃった勝負はどうすんの?」


 華代姉が、パソコンの向こうから冷めた声で水を差す。

 そうだ。それを相談しないといけない。

 だが、まったく俺はやる気がでない。


「そうですねぇー。どうしましょうかねぇ~」


 その気持ちを隠さずに、だるそうに答えた。


「こら!」


 と言ってきたのは、桂香さんだった。


「ロウくん」

「なんですか~ぁ?」

「勝負を受けたんだから、しっかりやらないとだめでしょう?」

「あのぉ……桂香さん……」


 キッときつい横目で、俺は桂香さんを睨む。


「勝負を受けたのは俺じゃなく、け・い・か・さんでしたよね?」

「あら?」

「あら? ……じゃねーよ! あんたいきなり、『話は聞かせてもらったわ。わたしは通りがかりのただの美しい淑女。この勝負、わたしがしきらせてもらいます!』とか、わけのわからん登場シーンを演出して、勝手に話を進めたんでしょうが!」

「あら。そうだったかしら」

「かわいらしく首を傾げてもダメ。……まあ、桂香さんもなにか思うところがあって、勝負を受けたんだと考え、俺も黙ってていたんですけどね」

「そうね……」

「それで? なんであんなこと言ったんです?」


「一度……一度でいいから、言ってみたかったのよ、あの台詞」


「それだけかよ!」

「大丈夫。冗談よ。ちょっとだけ、思うところもあったわ」

「ちょっとだけなのは、冗談の方にしてくれよ!」

「あら」


 ちなみに、勝負の内容は、「7月下旬の終業式後に行われる納涼会【七夜会】のイベントをどちらがより成功させることができるのか?」というものになった。

 判断が難しいが、これは参加者アンケートによって勝敗を決することとなった。

 七夜会は、いつからか伝統行事となっていたが、かなり特殊なイベントらしい。

 なにしろ、そのままだと、期末テストの勉強期間が準備期間と重なってしまう。

 そこで通常は、6月中にほとんどの用意を終わらせておき、テスト休み中に仕上げをする。


「だけど、PM部主催として、イベント参加を企画なんてしていませんよね?」

「そうね。普通の会社のPMは、プロジェクトの指揮官で主役だけど、我がPM部は違うわ。うちはあくまで、主役たる他のクラブや委員会の裏方をする部。だから、PM部の名前が表立って活動することは、まずないわ」

「じゃあ、今から企画しないといけないわけか……」


 そこで華代姉が、「はーい」と手を挙げる。


「あと、もうひとつ問題があるよ」


 彼女は「ほい」といいながら、VWB――バーチャルホワイトボード――に、計算表を表示させた。

 それは、PM部の帳簿だった。


「うちはね、予算があまりないんだよ。機材と交通費以外の費用は、手伝う先のクラブや委員会の予算で行動するからね。それに社会で活動するPMたちは、プロジェクトを成功させて収入を得ているでしょ。それに対して、うちは部活動だから無報酬。たまに現物支給や労働奉仕とかはあるけど、お金をもらうわけにはいかないからね」

「そうか。ボランティアみたいなもんだもんな……」

「そうなんだよね。だから、イベントやるにしても予算がほとんどない。如何にコストをかけずにやるのか、というのがポイントになってくるなぁ」


 なるほどと、俺はうなずく。

 俺のスキルだけで言えば、コスト管理とか、金の計算とかは問題ない。

 特に少ない資産を増やすなどは、得意分野だと思っている。

 が、金銭を受けとるわけにはいかず、期間もそれほどあるわけではないとなると、話は簡単ではない。

 うーん。もう少し情報が欲しいな。


「古炉奈。生徒会は、イベントをやる予算あるのか?」

「ええ。もともとイベントは企画されていましたので、ある程度の予算はとってありましたわ。ただ、うちは毎年、意見交換会なので、お金はほとんどかかりせんの」

「意見交換会?」


 寄りかかっていた頭をあげて、古炉奈が俺の方にコクリとうなずく。


「簡単なパネルディスカッション形式で、参加者に意見を言ってもらうようなイベントですわ。参加者は20名ぐらい。使う予算は、その方々に配る資料と飲み物代ぐらいですわね」

「……それ、納涼になるのか?」

「さあ? 生徒会役員は、よくその質疑応答で、肝を冷やしたりしていますが」


 ちょっと2人で苦笑。


「でも、今回のイベントは、塩沢書記に一任していますの。あの様子だと、素直にいつも通りのことをやるとは思えませんけど」

「あのタイプは、なんか派手そうなことをやって『見返してやる』ぐらいは、思っているかもしれないなぁ」


 そういう思いつきは、失敗しやすいんだけど……という言葉は呑みこんだ。

 そこは俺が言うべきことじゃないかもしれない。

 とりあえず、問題はPM部がどうするかである。


「桂香さん、俺はぶっちゃけ忙しいんで、七夜会はスケさんに任せて……あれ?」


 俺は部室の中を見わたす。

 だが、そこにはさっきまでいたはずのスケさんの姿がない。


「スケさんは?」

「す、すいません。さ、さっき、これを置いて、こそ~っと出て行ったですぅ」


 なぜか、柑梨がまるで自分のことのように、申し訳なさそうに謝る。

 そして彼女がさしだしたのは、一枚の紙切れだった。

 見れば、なぜか筆ペンで一言だけ文字が書いてある。


――アディオス!


「英語じゃねーよ! しかも、無駄に達筆でむかつくわ!」


 そう言えば、さっき「おにぃちゃん、ごめんなさい」を古炉奈に言わせた時、スケさんがいれば横槍がはいったはずだ。

 あの時には、すでに逃げていたのか。

 今度、見つけたら、背後から蹴り倒して、踏みつけてやる。


 ……あ。スケさんにはご褒美か。


「まあ、スケさんにPM部の大事な勝負を任せるわけにはいかないわ。でも、確かにロウくんは、七夜会にイベント参加する他の部のプロジェクト管理もやってもらっているし。まったく面倒なことになったわね」

「だから、その面倒を背負いこんだのは、桂香さんでしょうが!」

「大丈夫。なんとかなるわ。がんばって、ロウくん」

「結局、俺なのかよ!」

「PM部は、金銭は受けとらないけど、報酬として現物支給や労働提供など、他の部や委員会の力を借りことはできるわ。今までの貸しもあるしね。そういう、つながりを使うのも手よ」


 なんか、俺がやること決定で、アドバイスし始めたぞ、この人。


「もし、俺がやるとしてですが――」


 半分ぐらい諦めが入りながら話す。


「――俺の主義的に、折り合いをつけるとか、妥協するとかはないので、やるなら完膚なきまでに叩きつぶして、最後は逃げ道なくして自殺に追い込むぐらいやりますが……それでいいですか?」

「……本当にロウは極端ですわね。というか、本当にやりそうで恐ろしいですわ」

「もちろん、本気だぞ。まあ、自殺されるのはあとあと面倒だから、一生逆らえないぐらいの弱みを握って、下僕として奉仕させ、犬畜生どころか、おもちゃのように扱ってやろう」

「……外道ですわね……」


 ちょっと引く古炉奈。

 それに対して、その横でなぜか柑梨が、「ロウくんの下僕」「ご奉仕……」「おもちゃのように」とボソボソこぼして、瞳をとろけさせている。

 心なしか、息も荒い。

 ……柑梨、本物か……。

 気がつけ。スケさんと特性がかぶっているぞ……。


「ロウくん。まあ、本当はわかっていると思うけど」


 と、前置きして、桂香さんが前のソファに腰かける。

 きれいな足を優雅に組み、そこに頬杖をして俺の顔を覗きこむように見つめてくる。


「生徒会とは、これからも一緒にいろいろとプロジェクトを行っていくことになるわ。だから、変なわだかまりは残したくないの」

「ええ、まあ、わかっていますが。……ああ。それが、桂香さんが勝負を受けた理由ですか? 最初にいろいろと、はっきりさせておこうと?」


 桂香さんの悪戯っぽい微笑は、俺の言葉を肯定している。


 確かに、今までの多くのプロジェクトで、生徒会が噛まない案件はなかった。

 その時に、今までは生徒会長か副会長が窓口となってくれていた。

 しかし、書記やまだ見ぬ会計などと、これからもやりとりしないとは限らない。


 やっかいだな。

 期末試験もあるのに期間はない。

 そして予算もない。

 如何にコストをセーブしていくか……。

 そう言えば、コスト管理では過去の資産の活用も考えるべきだったな。

 しかし、それにしても、勝負の内容が……まてよ……。


 そこで俺は、根本に戻ってからキーワードを並べだす。


 勝利条件……。


 生徒会とのわだかまり……。


 派手なことを企みそうな塩沢……。


 PM部の過去の資産……


 PM部の立場……。


 俺の本来の仕事……。


 これらが、くるくると頭の中を巡り、そして一つに集約される。


 ……そうか。

 これからも、付き合ってかなければならない生徒会と勝負して、ハッキリさせなくてはならないのは、勝敗ではないんだ。

 だから、桂香さんは勝利条件をあんな風に言ったのか。

 彼女が、ハッキリさせたかったのは……。


「……古炉奈。頼みがあるんだけど」

「なんですの?」

「スパイしてくれ」

「ちょっ。塩沢書記のやることを報告しろと? これでもわたくし、生徒会長ですのよ」

「わかっているよ。だから、生徒会を勝たせるために、情報をくれと言っている」

「……負ける気ですの?」

「負ける気。それも徹底的に負ける。0vs100ぐらいで負ける」

「……わたくし、塩沢書記を『おにぃちゃん』なんて呼びたくありませんわ」

「俺も呼ばせたくない。古炉奈の『おにぃちゃん』は俺だけのものだ。もうこれは、スケさんにも譲らん」

「なっ、なに言って……なに言ってますの……まったく……」


 古炉奈が、にやけながら赤面する。

 うーむ。すごい勢いで、妹萌え暴露してしまった。

 まあ、今さらか。


「そうね。今さらね」

「読むな!」


 俺のツッコミを相変わらず、さらっと流して桂香さんは続きを話す。


「で、本当に負ける気なの? 負けたら、『おにぃちゃん』は取られちゃうし、そもそもPM部として負けたら、罰として市中引き回しの上、獄門よ」

「厳しいな!」


 それを聞いた柑梨が、また手をあたふたさせながら、心配そうな顔をする。


「ど、どうするんですかぁ?」


 よしよし。心配かけてごめんな。

 お詫びにあとで、おもちゃにしてやるからな。

 ……という内心を隠して、俺は立ちあがって、その柑梨の頭をかるくポンポンと叩く。


「まあ、ここはさ、彼を選んだ古炉奈の目を信じてみようよ」


 首をかしげるメンバーに、俺はニヤリと笑って見せた。


「ぴん☆ぼっく」は、かなり見積もりが甘く、多くのコストがかかっています。

その割に利率が低い作品です(笑)。

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