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Phase 010:「ToDo?」

タスクをもう少し細かくわけて、具体的にやることを確認するためのリストが、ToDoリストです。

通常は簡単にやることを箇条書きに、やったらチェックを入れていったり、完了日をいれたりします。

普段から、やるべきことが抜けがちな人は、作ってみると良いでしょう。

「いろいろご迷惑をおかけしました」


 部室に入ってすぐに、俺は頭をさげた。

 昨日はいなかったスケさんも加わり、部員全員(3年の幽霊部員を除く)がそろっていた。

 口々に、「大丈夫?」「心配したよ」と声をかけてくれるのがありがたい。


 どうやら俺は昨日、疲労で倒れたらしい。

 これは、かなり恥ずかしい。

 自分の体力を過信していたということだろう。

 若ゆえの過ちは、すでに俺の得意技となりつつあるな。


 ちなみに昼に倒れて、そのまま午後の授業をぶっちぎって寝ていたそうな。

 放課後になって目が覚めたが、ちょうど家から迎えが来て、そのまま自宅に強制送還。

 本当は残りたかったのだけど、仕方ない。


 ちなみに、救急車を呼ぶという話もあったらしい。

 だけど、保険医の先生が「若いんだから寝かせとけば大丈夫でしょう」と判断したそうな。

 見た目に反して、豪気だな……。

 ふつう、点滴コースじゃないのか……。

 若くして過労死したらどーするんだよ。

 まあ、確かに目が覚めたら元気になっていたけど。


 とにかくその日は、午後を無駄にしてしまった。

 午後の授業の方は、英語と数学。

 ならば、誰かにノートでも見せてもらえば問題ないだろう。

 問題は、昨日の放課後にやらなければならなかった、PM部のToDoリスト――やることリスト――の消化だ。

 演劇部とサッカー部への催促やら、他にも色々とあった。


 しかし、その心配は不要だった。

 どうやら、スケさんと柑梨が、すごくがんばってくれたらしい。

 すごくありがたいことだ……けど、考えてみたら二人にも責任の一端はあったんだよな。

 特に、スケさんには、絶対に感謝などしない!

 してやるものか!


 ……まあ、ちょっとぐらいはしてもいいけど。


「ヘーイ! トゥディはミーに感謝アニバーサリーだよ、ロウくん!」


 うん。やめた。

 とりあえず、感謝は柑梨にだけしよう。

 俺は柑梨に笑いかける。


「柑梨。いろいろ頑張ってくれたんだって?」

「う、ううん。もともとあたしの仕事でもあるし……」

「ちょっと柑梨。こっちに」

「……?」


 柑梨がチョコチョコと歩み寄ってくる。

 目の前に来たので、おもむろにかるく頭をなでてやる。


「ありがとう、柑梨」


――なでなで


「――!?!?!?!?」


――なでなで


 おお。やわらかい髪が、ふさふさしてるな。


――なでなで


 うん。本当に髪質がよくて気持ちいいぞ。


――なでなで


 ん? 根元がちょっと茶色っぽいな。


――なでなで


 だんだん、猫でも撫でている気分になってきた。


――なでなで


 なんか、ずっと撫でていたくなるなぁ。


――なでなで


「ちょっと、ロウくん」


――なでなで


 桂香さんに呼ばれても、そちらに顔を向けるだけで手を動かし続ける。


――なでなで


「そろそろやめないと、柑梨が気絶しそうよ」


――なでな――


「え? ……あっ!」


 俺は、あわてて手を引いた。

 ピーンッと、気をつけ状態の柑梨。

 その顔が、沸点を突破して大変なことになっている。

 まん丸の目が緊張のためか見開いているのに、頬から口元までが「にやっ」と弛緩した形で固まっている。

 なんという複雑な表情だろう。


「……そこまですると、もうセクハラね」

「そ、そんなことは……」


 ちょっとあるかもしれない。

 なにしろ柑梨は、手が離れたことに気がつくと、ハタッとした顔で疾風のごとくソファの裏側に隠れた。

 こちらからは見えないが、たぶん頭を抱えて真っ赤な顔で座りこんでいるはずだ。

 恥ずかしさで、「あうあう」ともだえているに違いない。


 うーん。

 また、いじめてしまった。

 ふふふふふ……。


「ロウくん、Sね……」

「こういういじめ方なら、いいじゃないですか」


 桂香さんに、ニヤリと笑って返す。

 柑梨のあれは、ぜーったい困りながらも喜んでいる。

 そして、そういういじめられ方が、柑梨のツボだと思う。

 そして、俺もツボった!

 うーん。

 やっぱり楽しい……。


「ちょつと。柑梨ばかり、かまいすぎじゃなーい?」


 華代姉が、前触れもなく左腕に抱きついてくる。


「ちょっ、ちょっと華代姉……」

「そ、そんなに照れないでよ……。こっちも恥ずかしくなる……」

「なら、やらなきゃいいでしょうが!」


 俺は内心の動揺を抑えて、強気で言い返す。

 このぐらいじゃ、負けないぞ。


「あ、あう……」


 しかし、予想外の敵援軍が現れた。

 さっきまで隠れていた柑梨が、ソファの背から頭半分を出してこちらをうかがっていた。

 かと思うと、きっと立ち上がって、赤面のまま俺をにらむ。


「なっ、なに?」

「う~~~~…………えいっ!」


 なんかよくわからない気合とともに、柑梨は走り寄ってくると右腕に抱きついてきた!

 顔を見せないように下をうつむいたままだが、なんかプルプルと震えながらも離そうとしない。


 敵の奇襲による、はさみ打ち!

 退路が途絶えた!


 なにこれ?

 なにこれ?

 なんか、どんどんスキンシップが激しくなっている気がするよ!


 これ、我慢が大変だよ、いや、マジで。

 だって、当たっているもの!

 当ててきているもの!


 彼女たちの【柔らかき双丘(リーサルウェポン)】……。


 1つじゃなく、2つなんて、さすがに新体験!

 今、俺の全神経が、上肢に集中している!

 服や下着という防壁があっても、こんなに素晴らしいものなのか。


 しかし、こうなると、華代姉の言う「ラノベの主人公」って、本当に超人だな。

 こんなこと、たくさんのかわいい女の子たちにされて、それで欲望をおさえているわけ?

 ファンタジーとかだと、服がすごく薄かったり、まれに生だったりするよね?

 本気で尊敬するわ……。

 俺、このままなら近々、禁忌(タブー)を犯すよ?

 そういう面では、普通の高校生だからね……。


「え、えーっと…………」


 だからと言って、人前で今すぐ何かやるわけもなく。

 普通の高校生たる俺は、理性を保つためにも話題を考えてみる。

 なにか話題を……。


「あっ! そういえば、みなさん、順番にわざわざ保健室に様子を見に来てくれたんですって? ありがとうございます」

「え? あ。う、うん。ま、まあーね……」


 ……あれ?


 突然、うわずりながら、視線をそらす華代姉。

 まるでそれに同期するように、ほかのメンバーも顔をそらしている。

 どういうことだ?


 あ……。

 そう言えば、気になることがあったな。


「……ところで、みなさんに確認したいことがあるんですが」


 その一言で、なぜか緊張感が漂う。

 華代姉と柑梨が、すっと腕から離れて、そっぽを向く。

 その様子に、嫌な予感を感じながら説明する。


「実はですね……」


 俺が目を覚ますと、そこは保健室だった。

 清潔感ののある真っ白な天井、壁、そして白衣。

 そう、まさに白衣の天使がいたのだ。

 もちろん、それは保険医さん。

 短くきれいに切りそろえた髪が艶やかで、天使の輪ができていた。

 飛び抜けて美人というわけでもないが、全体的に清楚で、誰からも好かれそうな女性だった。

 そんな清らかなイメージの彼女が、気がついた俺をみて、最初のかけてきた言葉がなんだったと思う?

 普通なら、「大丈夫?」や「具合は?」というような、俺の体調を案ずる問いのはずだろう。

 でも、違った。


「きみ……スケコマシ?」


 まるで、汚いものでも見るような見下した目で、天使がそう聞いてきたのだ。


「しかもそのあと、なんて言ってきたと思います?」


 俺が事情を説明したあと、そう質問した。

 すると、やはり目線をあわせないまま、華代姉が「な、なんて?」と促してくる。

 だから、俺はニコヤカに笑いながら、ゆっくりと言葉をかみしめるように言った。


「きみの貞操、わたしがいなかったら、かなり危機だったんだよ……と」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


「えー……っと。ちょ、ちょっとみなさん? なんで無言? 詳しいことを教えてもらえなかったんで、すごい不安になるんですけど……。俺が寝ている間に、みんなそろいもそろって、俺になにしようとしたの? ……ってか、他の3人はまだしも、スケさんまで無言になるのはやめて!」


――コンッ、コンッ


「あ、はーい」


 俺の追求を逃げるように華代姉が、これ幸いとドアに向かう。

 ほかの三人も、まるで「すべてなかったこと」と言わんばかりの態度で、そそくさと解散していく。

 こんちくしょう……。

 俺、まだ、きれいな体のままだよな……。


「し、失礼しますわ! はぁ、はぁ~。ロ、ロウは……あっ! はぁ~……。い、生きていましたわね。ま、まあ、心配なんてしていませんでしたけど……ふぅ……」


 乱した呼吸と、満面の笑みを一生懸命に隠しながら、顔をひきしめて腕を組んで虚勢をはる古炉奈。


――わたくしは心配なんてしていません。


――ましてや、早く会いたいから、息がきれるぐらいの勢いで走ってきた……なんていうことはありません。


 そんな態度。

 なんというか、ツンデレはツンデレで、いろいろと大変なんだなと思う。

 これは、かまわないと失礼だな。


「なんだ。古炉奈は、心配してくれなかったの?」

「も、もちろんですわ。どうして、このわたくしが、そこまでロウのこと……」

「じゃあ、なんで目が赤いんだ?」

「――えっ!? えっ? う、うそっ!? 今日は泣いてないし、ちゃんと来る前にかく――」

「ぷっ!」


 そのあわてっぷりに、俺は我慢できずに吹き出してしまう。

 それで、古炉奈も気がついたのだろう。

 適当にかまかけたのに、本当に泣いていたとは思わなかった。


「ロ、ロウ……」


 こういう時、柑梨ならばソファの後ろに逃げるところだが、古炉奈はそうじゃない。

 金髪チョココロネをプルプルと振動させ、照れと怒りで真っ赤になりながらも、鋭い目つきでにらんでくる。

 その迫力は、かわいいのだがすさまじい。

 下手すると、またどこからともなく、金属バットを取りだしてフルスイングでもされそうだ。

 ツンデレをからかうのは、命がけだな……。


「あ・な・た・ねぇ……。このわたくしを……」


――ポンッ。なでなで


「――!?!?!?!?」


 とりあえず、対応策として柑梨と同じことをしてみた。

 古炉奈の方が身長が低いので、撫でやすいな。


――なでなで


「なっ、なっ、なっ、なにするんですの!?」

「いいこ、いいこ」

「な、なんで……そんな…こ……と……」


 なんかこちらも、にやけながら怒っているぞ。


――なでなで


「わ、わたくしを……子ども扱いする…なん……」


――なでなで


 文句を言うわりに、手をどかそうともしないし、逃げようともしない。

 もしかして、「なでなで」はかなり素晴らしい技なんじゃないか?


――なでなで


「…………」


 黙った。


――なでなで


 ふと気がつくと、そそと横から柑梨が近寄ってきて、さりげなく頭をこちらに向けている。


 ……また、撫でろというのか?

 なに、その対抗心。


 でも、だめだ。順番だ。

 それに、髪質は柑梨の勝ちだけど、金髪を撫ぜるなどレア体験はなかなかできない。

 今は、こっちを楽しもう。


――なでなで


 だけど、これもやめるタイミングが難しいな。

 やめたとたん、ツンが発動して攻撃されるかもしれない。

 なんか、こう、ツンが発動しない大義名分が必要だな。


「古炉奈は、妹分になってくれたんだよな?」

「い、一応……そうですわ……」

「なら、兄が妹の頭を撫でるのは、ごく普通のことだよな?」

「そっ、そうですわね! ……ええ。普通のことですわ」


――なでなで


 これで、一安心。

 でも、安心したら、もう少しワルノリしたくなってきた。


「ところで、古炉奈」

「な、なんです……の……」

「古炉奈は俺のこと、『おにいちゃん』って呼んでくれないの?」

「――なっ!?」


――なでなで


「よ、呼んでほしいのかしら……」

「そうだね。俺、ひとりっ子だし。呼ばれてみたいな」


――なでなで


 古炉奈が顔を上げるので、俺も視線を向ける。

 朱色の唇が、静かに丸く形をつくりだす。


「お……おにぃちゃん……」



――うっ…………うおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!! 



 なななな、なに、この攻撃力は!?


 ヤバイ!


 ヤバイよ!


 ツンデレの金髪美少女が、頬を染めながら上目づかいで「おにぃちゃん」と……。


 リアルでやられると、本気ですげえぇぇぇ!!


 これか……これなのか!


 やっと真に理解したぜ!


 これが「妹萌え」ってやつなんだな!


 俺は興奮を抑えながらも、華代姉を見た。

 すると、華代姉が「すべてわかっている」と言わんばかり、サムズアップを突きだして深くうなずく。

 俺も同じく、サムズアップ。

 今、俺は確かに、華代姉と心が通じあった。


「ズルイよ、ロウくん! ミー トゥ、ミー トゥ!」


 突然、スケさんが忍耐の限界と言わんばかりに、横からとびだしてくる。


「ミーも、なでなでプレイしたいよー! ミーも『おにぃちゃん』とコールミー!」


 そう言いながら、スケさんは古炉奈に突撃――あ、迎撃された。

 どこからか出た金属バッドが、すごい勢いでフルスイング。

 画面殴打。


――ベキッ! バキッ!


 なんか古炉奈が、超怒っている。

 豹変した怒りの面相で、「せっかくの余韻を――」とか言いながら、倒れたスケさんをタタキにしている。

 峰打ち……じゃないよね、あれ……。


「ところで、ロウくん。今日の予定なんだけど……」


 そう言いながら、何事もないように話題転換したのは、桂香さん。

 無表情で、タブレット端末を操作している。


「相変わらず、マイペースですね……。隣で殺人事件が、今まさにおこりそうなんですが……」

「それは、それとして」

「それとしてなの!?」

「今日の君のToDoリストだけど……」


 そういえば、今日は部活に来てから、何も作業をしていなかった。


「ああ。すいません。今日のToDoもたまって――」

「今日のToDoは、あらかた片付いたわね」

「――え?」

「ほら、見て」


 驚く俺に、桂香さんは持っていたタブレットを向けた。

 するとそこには、ToDoリストとして項目が並んでいた。



☑ 柑梨とイチャつく

☑ 華代とイチャつく

☑ 古炉奈とイチャつく

□ 桂香とイチャつく

□ 本日のラッキースケベ

□ ツッコミ10本



「……これ、なんのToDo!?」

「もちろん、ロウくんのハーレム活動ToDoよ」

「もちろんなの!? もっと大事なToDoがいっぱいあるよね!?」

「これは、うちの最重要プロジェクトよ」

優先度(プライオリティ)設定が間違っているから! ってか、それにしても最後の2つは何!?」

「あ。これで、ツッコミ10本もクリアね。……チェックっと」

「ちょっ! 毎日、10回もツッコミノルマがあるの!?」

「ロウくんには、余裕でしょう?」

「そうさせているのは、あなたたちだけどね!」

「さて。問題は、わたしとのイチャイチャだけど……ベッドルームにでも行く?」

「どこにあるんだよ、それ!」


――ベキッ! バキッ!


「ちょっ! 古炉奈、いい加減にやめないと、マジ死ぬから!」


 俺と桂香さんの会話を無視して、横で未だに行われていたバイオレンスをとめにはいった。

 なんか、スケさんはすでに、R-18指定でモザイクがかかっちゃうぐらい、悲惨な状態になっている。


「ほら。落ち着いて! 暴れるなって!」


 言っただけではとまらなかったので、古炉奈の小さな体を後ろから羽交い絞めにする。

 でも、まだ暴れるから、体に腕を回して、無残な肉塊となりかけているスケさんから引き離す。


 と、その時だった。


「きさま、離れろ!!」


 空きっぱなしだったドアの向こう、廊下から1人の男子生徒が駆けこんできた。


「このハレンチ男め! どこを触っている! 僕の大事な生徒会長から離れろ!」


 鬼神のごとく怒りながら、こちらを指さしている。


「どこを触っているって……別に――あっ……」


 俺の右手の指が、ふわりと食いこむ。

 ソフトないい感触。

 見れば、右掌の中には、いつの間にか古炉奈の胸がきれいに収まっていた。


「あら。『本日のラッキースケベ』は、これでクリアね」


 そう言いながら、桂香さんはToDoにチェックを追加していた。

ラブコメとして、やることやりました!

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