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第8話

たくさんのブックマーク、ありがとうございます。


「んー!」


 伸びをする。気持ちのいい朝……とはいかない。蝉だ。蝉が大音量で鳴きまくっている。

 家の近くには、ちょっと大きめな公園があった。夏には、あの憎たらしい虫たちの最大生息域となって、近隣住民を苦しめる。そこそこ緑があって人気スポットでもあるが、今の時期は近づきたくない。


 どうしようかなー。

 ゲームにインするには、少々早い。空は明るいが、まだ両親が起きてくるような時間ではなかった。

 ……ちょっと散歩でもしてくるか。


 時間が早いせいか、人影は無い。空気も澄んでいる。しかし、蝉の音は当社比3倍くらいに強くなった。


「夏真っ盛りだなー」

「そうですね、榊さん」


 おわあっ!? 誰だっ!

 後ろをとられて、飛び上がってしまった。


「って、あれ。雲雀ちゃん? 朝っぱらから何やってんの」


 勘九郎の妹。小さな頃から知ってる相手だ。


「いや、それはこちらの台詞なんですけど。ビックリしすぎです。ファイティングポーズまでとっちゃって」

「あ、いやあ」


 ポリポリ頭を掻いて誤魔化す。アカン、エルドラドの世界に囚われすぎだ。背後とられた瞬間、迎撃体勢を思わずとってしまった。ぬうう、恥ずかしい。


「変な人ですねえ。私はこの子の散歩ですよ。ほら、ハバネロちゃん。ご挨拶」


 この独創的な名前をした大きい毛玉は、里崎家の愛犬、ハバネロちゃんだ。犬種までは聞いていないが、かなりの老犬にも関わらず、いまだ子犬のように落ち着きがない。


「おーう、こらこら。そんな舐めるって、ハハハ」


 ベロンベロンと顔を舐められる。嫌では無いのだが、舐められたところが乾くと臭い。服にも、茶色の毛がたっぷりと付いた。


「はい、ハンカチです。ハバネロちゃん、そこらへんにしなさい。まったく。家族といる時よりもはしゃいじゃって」

「おう、サンキュー。ほーらハバネロちゃん。おすわりだ」


 更に詰め寄ってきたハバネロちゃんの顎を撫でてやる。やっぱ動物は、いいなー。

 家では飼ってないが、その分、この子を可愛がってる。

 その後、自然に2人と一匹で、一緒に散歩をすることになった。


「にしても、兄さんったら。最初の街を教え忘れるなんて。信じられない!」

「いやあ、俺も気づかなかったし。あいつも初心者だから仕方ないんじゃない?」

「榊さんにイロイロ教えてあげたかったのに。昔っから、あの人は抜けているんです!」


 何故か、勘九郎の弁護をすることになった。この兄妹相手だと、自然にこちらが抑え役になることが多い。

 ちなみに兄妹仲は、憎まれ口を叩いているが、意外といい。なにしろエルドラドをプレイして、わざわざ同じ街を選ぶくらいだ。かなりのお兄ちゃん子である。

 チラリと横の少女を見やる。名前こそ"雲雀"だが、どちらかというと猛禽の方が近い気がする。

 美少女であることは間違いないが、目付きは鋭い。髪の毛は、バレー部にいた頃は後ろで括っていたが、最近伸ばしている。既に部活は引退して、受験にまっしぐらな筈だ。


「ていうか、エルドラドもいいけど受験は大丈夫なの? 今、大事な時だと思うけど」

「榊さんに心配されることはありませんよ。推薦もらえますし、大丈夫ですって。模試の方も学年5位ですよ?」

「ありゃ、そりゃすごい。……で、ウチ来るの?」

「県内の公立だと、結構イイですからね。進学希望ですけど、いざという時の就職も強いですし」


いつも思うけど、すげえしっかりしてる。本当に年下かよ、この子。

 まあ、見た目的には身長もあいまって、コッチより年上に見えるけど。顔立ちも美人タイプだしな。

 さぞナンパがうるさいだろう。……いや、隙がなさ過ぎで、手を出すにはハードルが高いか。

 ホント、勘九郎とは似ていない。……身長除く。まだ、勝ってるけど、目線の位置がおんなじなんだよなあ。抜かれたら流石に泣く。


「そんなことより、エルドラドです。どこまで進んでます?」

「森を進めてる所。あ、そうだ。昨日は、すげえモンスター発見した」


 鹿とゴリラの頂上決戦を説明する。


「……エリアボスっぽいですね。こっちでも似たのが確認されてます。もうちょっと有名どころですけど」

「有名?」

「グリフォンです。鷲の上半身とライオンの胴体もった」

「おお、ファンタジーっぽい!」


 鹿にしても、ゴリラにしても、元ネタはいるんだろうけど、実際なんて名前なのかは分からなかった。

 知ってるモンスターには興奮する。


「ただ、結構、好戦的なんですよね。まだ相手に出来るレベルじゃないから、気を使わないといけないんで困ってるんですよ」

「へえー、草原オオカミと似た感じだな。鹿は見逃してくれたっぽいけど、あっちの方は人間襲ってるし」


 ん? ていうか。


「ステージ構成はどうなってんの?」

「オーケアノスはジャングルですね。道を逸れると、高い山があって、グリフォンはそっちにいます。鉱石掘りにいった生産者が、よく獲物になるんで困ってるんですよ。ジャングルの方はジメジメしてて、蛇の名産地になってます。後は猿系も多いですね。ジャガーがいるみたいですけど私は見たことないです」

「へえー。始めた街によって結構差があるんだな」


 こっちは、どちらかというと乾いていて、涼しい。森にしても針葉樹が多いし。


「よし、決めました」

「うん、なんだい?」

「私、ニョルズの街を目指します!」

「うぇええ!?」

「ワフッ!?」


 叫び声に、ハバネロちゃんがビクッとした。


「ああ、ゴメン。驚かす気はなかったんだ」


 驚いたのは俺だけどな!


「でも、なんでだい。雲雀ちゃんって、トップの攻略組だろ。メリット無いんじゃない?」

「いいえ、メリットはありますよ。一旦たどり着けば、街の中心部にある転移結晶で街同士を移動できるんです。各街で取れるものも違いますから、交易でウハウハです」


 ハルさんも似たこと考えそうだな。


「でも、パーティの人は納得してくれるの?」

「いえいえ、私だけの考えじゃ無いんですよ。ニョルズの方向に坑道らしき穴があるんです。まだ、発見してるのはウチだけでしょうから、そこを探索しつつ街を目指します」


 おおう。これは決意が固そうだ。やるといったら、やる子だし。


「じゃ、辿り着いたらイロイロ案内してあげるよ」

「ええ、楽しみに待っていてください」


 なんか、色んな意味で賑やかになりそうだなー。ま、通路が確保されれば勘九郎も来るだろ。たまには、知り合いと冒険するのもいいかもしれない。うん、楽しみだぞ。



 朝ご飯の後にインしたが、エルドラドの中は夜だった。うーん、入る時間失敗したかな。

 ジュージューと焼ける鹿肉を見ながら、考える。

 焼いてる肉を二枚まとめて口へ入れる。うん、塩だけでも全然イケるなこれ。臭くないし、柔らかい。ご飯があればなー。父さんなら、ビールが飲みたいと騒ぎ出すような味だ。


「あのー、キサカくん。私にも貰えない? さっきからイイ匂いがして、お腹空いてきたんだけど……」


 木箸で掴んだ肉を、頭上に掲げてみる。バクンと飛び上がって、ハルさんは食いついてきた。


「うお!? 野性的ですね、ハルさん」

「んっふふー。肉を前にした女は獣になるのよー。というわけで、もっと頂戴。調味料と野菜出すから♡」


 現在、空腹度が強まっていたため、一人焼肉祭りだ。本当はケンさんやスイレンちゃんも誘いたかったが、あいにくログインしていなかった。

 で、どこから嗅ぎつけたのか、ハルさんが、気づいたらいたのである。


「いやあ、ご馳走さん。鹿肉って食べる機会ないけど美味いもんだねー」

「こっちは、現実の方でも食べたことありますよ。親戚にジビエ料理出してるレストラン、経営してる人がいますから」

「うわっ、羨ましい。……ま、こっちで食べられたし、いいか。満腹、満腹」


 さも、満足そうにお腹をさすってるハルさん。しかし、デザートのサンの実を出すと、満腹は何処へやら、シャリシャリと齧ってる。


「そういえば、ハルさん。【調教】って今どんな感じですか?」

「んー、とりたいのかい?」

「いや、現実の方で犬を愛でてきまして。んで気になったんですよ」


 馬、手に入れるのに使うとか言われたら困るし。


「将来性は間違いなくあると思うけど、今んとこ微妙かな。ウサギとネズミはいけるんだけど、肝心要の草原オオカミが無理なのよねー。いや、噂によると成功した人もいたっけ?」

「どっちなんすか」

「その例ってのが特殊でさ。群れからはぐれた子供に、餌やって成功したってやつ。条件が特殊すぎてどうにもならないよね。子オオカミならイケるのかと挑戦した連中が、軒並み、お腹ん中で消化されちゃったし」


 うへえ。半イベント限定だな、そりゃ。


「じゃあ【騎乗】はどうです?」

「もしかして遊牧民のキャンプのこと聞いた? 草原にでっかい集落があるんだけど、珍しいものイロイロ持ってったら馬と交換してくれるんだって。ただ、今んとこ攻略トップ限定。レア4複数は流石にキツイわ」

「れ、レア4……」


 トライホーン素材くらいしか持ってないし、そっちに手をつけるわけにもいかない。むぐぐぐ、手に入れるのは、ちょっと先だな。


「さて、私はそろそろ行くけど、キサカくんは?」

「うーん」


 どうしょっか。暗闇、狩り。よし、やってみるか。


「ちょっと狩り行ってきます。夜間戦闘がどうなるのか、早めに経験しときたいんで」

「おー、チャレンジャー。あ、草原はやめといた方がいいよ。オオカミが2.3倍くらい活発になるから」

「なんすか、その微妙な数字?」


 2.3倍かは、分からないが、モンスターが活性化してるのは事実のようだ。空を見上げると、大きな半月が輝いていた。他にも数多の星が、鮮明に見える。

 田舎の婆ちゃん家並みに見えるな。完全な暗闇を想定していたせいか、思ったよりも明るい、という結論に達した。

 しかし、その感想が続いたのも、森に入るまでだ。……暗い。星明かりも此処までは届いていない。

 ……もしかして草原の方がマシなんじゃね? ま、行けるトコまで進んでみよう。


 道中何度か転びそうになった。昼間とは雲泥の差である。周囲からは獣らしき叫びや唸りが聞こえる。ホーホーという鳴き声は、もしかしてフクロウでもいるのか?

 鳥らしき影が薄っすら見える。これ、どうしよ。戦うか? 幸い、弓で狙えそうな感じだ。障害物も無い。

 キリキリと弦を引き絞る。ギリギリまで、狙いをつけて……そこだ!

 影がガサリと地面に落ちる。よっしゃ、仕留めた!


「えーと、この辺に落ちたは、ず、と」


 おいおい、倒しても剥げなくちゃ意味が無いぞ。どこだ、どこだ。……いた!

 そこに落ちていたのは、フクロウっぽい鳥だった。見ると、そのすぐそばに、ネズミの死体もある。ハハーン、お食事中だったのね。通りで簡単に仕留められたはずだ。

 よっしゃ、なにが取れるかな?


  茶フクロウの羽×20 レア度3

  小型のフクロウの羽

  矢羽として、よく利用される


  茶フクロウの肉 レア度2

  小型のフクロウの肉

  肉食のためか、臭みがあるので注意


 肉はともかく、羽はいいな。こいつ夜にしか出ないのかな? もう何羽か狩っておきたいんだけど。

 よし、探してみよう。

 

 駄目だ。あんまり見つからないし、見つかっても矢が当たらん。暗すぎて、発見するより、相手に見つかる方が早い。弓で射っても、当たる直前に避けられる。

さっきのは、相当運が良かったみたいだ。うーん、一応刺さっていれば回収できるとはいえ、基本的に、矢は消耗品だ。この羽使った矢は、大切に使おう。


 切り替えて、他の獲物を探す。気配はするのだ。息を潜めて、ジックリと追って行く。

 暗闇の中、目を凝らす。……狒々だ。

 けして、美味しい相手では無い。しかし、今は良い要素がある。

 へへへ、グッスリ眠ってやがる。コソ泥とかこういう感覚なのかな。まあ、今からやるのは、血塗れの狩りな訳だけどな!

 さて、得物はどうしよう。槍を使うのはマズイ。流石に気づかれるだろう。けど、弓で倒せるかな? マクシムと倒した2体目よりかは小さいが、1体目とは同じ程度のサイズだ。

 急所狙いしかないか。腕の勝負になる。

 経験上、エルドラド・オンラインにおける急所への攻撃は、かなり有効だ。

 目だな。視界を奪って嬲り殺しにしてやろう。それしか勝ち目は無い。

 弦を引き絞る。動かない的にはかなり当たるようになってきた。大丈夫な、はずっ!!


「キョキョアーッ!?」


 よし、ビンゴだ。悪いが、もう片っぽも貰っていくぞ。

 素早く第二射をつがえる。狙って狙って、そこ!


「ホキャッ」


 その後は、なんの大過なく仕留めることが出来た。強敵も、隙をつけばこんなもんよ!


  ピロリン


  【隠密】が、ランク3になりました


  【暗視】の取得条件を満たしました。取得しますか?


  Y/N


 おお、ちょうど欲しかったスキルが! ははーん、夜間の狩りがトリガーか。イイぞいいぞ。

 もちろんYを選択する。すると、周囲がより鮮明に見えるようになった。昼間の視界には遥かに及ばないが、活動に支障が無い程度ではある。

 これで、夜間戦闘も捗る。このスキルだけで、今日の収支は大黒字だ。


 いい気になって、ホクホク顔で進軍を再開する。すぐに、新しい影が視界に入った。

 ん? あんまり見ないような形のやつだな。……オオカミか? いや、四足ではあるが、サイズが違う。大きさはそんなでもないし、追ってみよう。


 追っている間に、違和感がこみ上げていた。もしかして、誘われているのか? こちらが近づくと影は離れるが、けして離れすぎることはない。罠の中に引き寄せようとしている。そんな考えが脳髄から離れない。

 だからといって、押せ押せモードのキサカは引くことを知らない。というか、引き際を完全に見失っている。

 もう、罠でもいいや。頭使って来る敵って初めてだし。いい経験になるさ。

 さらに先へと進む。おいおい、何処まで連れて行く気だよ。 かなり深くまで入っている。

 ん、アレはなんだ?

 光だ。森の中に、ぼんやりとした明かりが見える。段々ホラーになってきたな。

 木々に隠れつつも接近する。……小屋だ。丸太で作られた小屋がある!

 どうも、見えていたのは、窓から漏れ出た明かりのようだ。

 ……怪しい。既に追っていた獲物からは目を離してしまっている。代わりにこれだ。

 いや、ほんと、これどうしよう。は、入るか? 入っちゃうのか? よし、毒を食らわば皿まで。いってやろうじゃないか。

 弓を仕舞い、槍をいつでも使えるように準備をする。

 そして、コンコンと、ドアをノックした。


「おはいり」


 嗄れた声がノックに反応を示した。思わずビクッとする。……本格的にホラーゲームになってきたな。

 ドアを開いて中に入ると、民族衣装っぽい服を身に纏った、小さな老婆がそこにいた。

 老婆は火にかけた鍋をかき混ぜながら、チラとこちらを見やる。


「なんだ、海渡りの連中か。最近、増えてきたねえ」

「え、あ、どうも」


 海渡り? ああ、船に乗って入植してきた設定だった。てことはNPCか、この人。


「まあ、いいさ。道に迷ったのかい? もうすぐ鍋ができる。明るくなるまでは、おいてやるさ。ほれ、その物騒なもん仕舞いな」


 う、どうしようか。ええい、しゃあない。死に戻り覚悟で槍を仕舞う。そして、ドカッと腰を落とした。

 しばらくすると老婆は煮えた鍋を、椀に盛りこちらへやって来た。


「ほれ、お食べ」

「……いただきます」


 鍋は結構美味かった。獣肉に山菜、臭みを消すための香草。野趣溢れる風味である。


「ご馳走様、美味かったです」

「ふん、こりゃまた、たっぷり食べたもんだ。坊主、チョイと聞きたいんだがね。草原の方は今どうなってる」

「草原? 遊牧民の人のことですか?」

「それもある。けど聞きたいのは変な化け物が出てきてないかってことさ」


 変な化け物って言われても、あまり草原で狩っていないキサカには分からない。


「オオカミやウサギくらいしか、自分は見てないです」

「ふん。ならまだ大丈夫そうだねえ。ほれ。森の方は、最近ここらにおらんかった、邪悪なのが湧いてきておるわえ。あの忌まわしい二つ面どもが」


 二つ面? 鹿と戦ってたやつか。


「どうも、大地の中心の方が乱れとる。あの辺りは、昔は国があったんじゃが、内乱やら飢饉やらで滅びてしもうた。妄念が染み付いとるのさ。あの土地には。それが段々と生き物も汚染しとる」

「その結果があの化け猿ですか?」

「なんじゃ、見とったんか。そうじゃ、アレよ。ただ、この森の三本角は、二つ面に輪をかけて強靭じゃからな。まだまだ、森は静かなもんさ」


 ほうほう。つまりは中央で変質した魔物と、この森原産の鹿が、縄張り争いしてた訳ね。モンスター同士も敵対関係があるのか。いや、そういやネズミは、よく餌になってたな。ちょっと違うかもしんないけど。

 つうか、やっぱトライホーンは、かなり格上の存在なんだな。

 ……俺が倒した方が、弱い個体で、二つ面と戦った方が、平均のやつだったらどうしよう。無い無い、それはない……と信じたい。


「ほれ、もう夜もふけとる。寝床を用意するから、お眠り」

「うす。何から何までありがとうございます」


 ホントは狩りもしたいが、一回ここでログアウトしようか。ちょっと外で宿題でもして、中が明るくなるのを待とう。


「それじゃ、お婆さん。お休みなさい」

「はい、お休み」



 カリカリと鉛筆を動かす。どうも、ボールペンより、この先っちょが尖った鉛筆の方が好きだ。削った木の匂い。たまらないね、これ。

 ガリガリと頭を掻きながら、高校の課題を仕上げていく。量多すぎんだろ、これ。

 榊は、チョクチョクやってくスタイルだが、勘九郎は豪快な一夜漬けだ。……絶対、手伝わされるな、これ。もう、アイツは雲雀ちゃんに手伝ってもらったらどうだろ。

 まあ、何とかキリのいい所まで出来た。そろそろ、エルドラドは朝だろう。よし、入るか!


「どうも、イロイロ世話になりました」

「いいって、いいって。ワシも久し振りに人と話せてよかったよ。ほれ、お土産」

「うわ、いいんすか? 有難く頂戴します」


 くれたのは、綺麗に染色された紐を組み合わせたミサンガだ。

 おおー、男よりは女の子の方が好きそうだ。民芸品っぽくていいな。

 ドアを出て最後の礼をするため振り返る。


「ホントにありが……え?」


 先程まであった小屋が無い。そこには切り株だけが、デンとあるだけ。

 え、ちょっ! えっ?

 急いでミサンガを確認する。


  狐のミサンガ レア度5

  対霊体(弱)

  キツネの毛をより合わせた、美しい飾り紐

  年経たキツネは、人に化け驚かすという

  中には協力的な化け狐も存在するので、戦う時は注意


 やっぱ化かされてんじゃん!!

 どこかで、コーンという鳴き声が聞こえた気がした。

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