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第4話

取り敢えず、書き溜め分はこれで全放出です。これからは数日おきになると思います。

 湿った空気の中を進む。どうやら、ゲーム内では雨が降っていたらしい。曇空の下、森は暗い。


「いた。あの鳥だ。空気が湿ってるから休憩でもしてんのかな?」


 緑の羽根をしたアイツだ。昨日は散々煽られたが、こちらには新兵器がある。

 息を潜めながら矢をつがえる。

 ん、やっぱ初期のやつよりも引きづらい。威力が増した分、引くにはSTRが必要みたいだ。

【騎乗】も視野に入れると、騎馬民族のような、取り回しのしやすい複合弓が理想である。当然、引くには剛力が必要なので成長分はSTRとDEXを優先すべきだろう。

 弓を引き絞る。昨日は死に戻りしてもペナルティは無かったが、今日からは別だ。より、一層の慎重さが狩りには求められる。

 ピシュッと弦が空気を裂く。矢は、少し逸れたが、無事に鳥の羽を射抜いた。


「よっしゃ、これで飛べないだろ」


 ギーギーと騒ぐ鳥に近づいて、槍で止めを刺す。リベンジ成功!


「フフフフ、ざっとこんなもんよ」


 さーて、何を落とすのかな?


  翡翠鳥の羽×20 レア度2

  森に住まう、翡翠鳥は狩人の最初の試練

  その羽は、よく矢羽に利用される


 おお、矢の素材ゲット。あれだな。蜂のことも考えると、森だけで一通りの狩人素材は揃うんだな。よし、こいつら狩りつくしてやる。

 あ、まだなんか残してた。


  翡翠鳥の肉 レア度1

  とにかく臭くて、人の食用には適さない

  中には、これを好む獣もいる


 ざ、残念なアイテムだ。罠用だな、これ。うーん、ちょっと仕掛けてみるか。

 弓で狙いやすそうな、視界の通っている場所に肉を置いてみて、直ぐに離れる。ここまでに拾った枝を加工しながら待つと、そいつはやってきた。


「オイオイ、洒落になってないぞ……」


 影はでかい。黒々とした体毛は如何にも固そうだ。見た目はゴリラっぽいが、顔が二つある。全身の筋肉が盛り上がっており、どう見ても格上である。威圧感はトライホーンよりも上だ。


 フハハハハ、罠は罠でも、初心者嵌めるための運営の罠だこれ!?

 か、風下へ。風下へ逃げるんだ。ここまでの経験で、敵の中には嗅覚で索敵してる奴がいることは分かっている。肉の臭いを嗅ぎつけてる時点で、あいつの鼻の確かさは、お墨付きだ。

 そーっと、ソーっと。足元に気をつけながら、静かに遠のく。

 たまに振り返って動いていないことを確認する。

 よ、よし。何とか視界外まで逃げられた。

 は、離れた位置で張っといて良かった。昨日も思ったけど、このゲーム難易度まあまあ高いぞ。

 ピロリとシステム音がなり、思わずビクッとする。


  【隠密】がランク2に上がりました


 お、脅かすなよ。けど、これが上がるってことは、やっぱ索敵範囲に入ってたんだな。くわばら、くわばら。

 さて、切り替えて獲物を仕留めよう。


 ゲーム内で5時間ほど、ホクホク顔でキサカは街へ帰った。

 あの後、トライホーンではない、普通の鹿を見つけて、見事仕留めたのだ。トライホーンが別格だったみたいで、こちらは比較的簡単に仕留めることができた。

 後は、昨日、吸血樹に捕まっていたのと同じ鼠を4匹。鳥がもう2羽。そして、林檎っぽい"サンの実"という果物も収穫。ふふふ、圧倒的じゃないか我が軍は。

 さて、どうしよう。バイトまでは、ゲーム内時間で3時間はある。

 では、弓の強化をしようかとも思うが、これも駄目だ。

 今のSTRで、更なる弓の強化を行ったら引けなくなってしまうのだ。

 うーん、矢でも量産しようか。いや、それだけだと時間が余る。よし、それならギルド依頼を受けてみよう。

 鼠素材はレア1だし、サンの実もレア度は2。鹿素材は、取り置きしたいから、今だ金欠だ。

 ギルド依頼で稼いで、この状況を好転させよう。


「すいませーん。依頼ってどうやったら受けられます?」


 ギルドの受付は眼鏡の女性だった。銀のショートカットが目に眩しい。ナカナカの美人さんだ。


「依頼でしたら、そちらの掲示板に張ってあります。気に入った依頼票があれば、剥がしてからこちらにお持ちください」

「分かりました、ありがとうございまーす」


 行くと矢鱈でかい掲示板に、人が群がっている。おおーう、みんな依頼も確認せずに、貼られたヤツから剥ぎ取ってやがる。あそこに飛び込むのか……。

 いいさ、男は度胸。やってやろうじゃないか!


「うおおおおお!!」


 叫びをあげながら、キサカは依頼争奪戦へと出陣したのであった。


「な、なんとか勝ち取ったぞ。うう、顎がいてえ」


 争奪戦の最中に、いい肘を顎に食らってしまった。今日一番のダメージである。


「えっと、内容は?」


  ロッキングチェアーの制作

  報酬 2500G

  推奨スキル

  【細工】ランク2or【木工】ランク1

  うちの婆様に新しい椅子を送ってやりたい。

  プレゼントだから綺麗な模様のやつを頼む。


 な、なんか難しそうな……。ていうか、椅子とかも作れるんだ。【細工】のランクは足りてるけど、これって結構センスがいるぞ。

 しかし、もう一度あの戦場に飛び込む勇気はキサカには無い。これで妥協しよう。


「す、すいませーん。この依頼、受けたいんですけど」

「はい、こちらの依頼ですね。設計図はご利用されますか?」

「ええ、それはもちろん!」


 無いと詰む。


「こちらの依頼。納める品質は5以上で、お願いします。最初の1台分の材料はこちらで出しますが、それ以降は材料費500Gで買っていただきます。よろしいですか?」


  うげっ、品質5は結構難しいぞ。再挑戦可能なのは、1回だけか。だけど、ここは受けるしかない。


「はい、大丈夫です」

「分かりました。契約成立です。ちなみに依頼を取り消しなさると、違約金として、報酬の1割が取られますから気をつけてくださいね?」

「ええええっ!?」


 さ、先に言ってくれよ。いや、テヘッてイタズラっぽく笑われても……。まあ、美人だし、いっか。

 うん、成功すりゃいいだけだ。


 ぬう。結構、工程が多い。

 もちろん現実に比べれば簡略化されているが、それでも元が複雑なのか槍とは比べものにならないくらい難しい。

 ……まあ、槍に関しては穂の部分を自作してないからだけど。実質作ったのは棒だけっていうね……。


 木材を切り出して、設計図と照らし合わせながら削って行く。表面をヤスリがけして仮組みしてみるが……。か、傾いてる。

 現実の職人さんって凄いんだな。まさか、ゲームの中で実感することになるとは。

 取り敢えず分解してから、左右対称になるよう、調整を加える。

 で、仮組み。微調整。仮組み。微調整。

 き、キツイ。しかし、何とか傾きは無くなった。

 後は目の細かいヤスリで、改めて磨いていく。んでもって、一通り終わったら、更に細かい目で。おお、スベスベだ。手触りが半端ない。ここまで、磨いたら仕上げに入ってもいいだろう。

 パーツの表面にニスを塗っていく。ムラが出来ないように気をつけて……。


「出来たー!!」


 天に拳を突き上げ、喜びの叫びをあげる。

 おお、美しい。美しいじゃないか俺の椅子! ゲームの生産職って、専門にしてまですることかと思ってたけど、この達成感は凄い。


  レベルアップしました

  ステータスを1点成長させられます

  【細工】がランク3に上がりました


 なんと! 生産でもレベルアップするのか。よし、ステータスはSTRに振ろう。次はDEXにしようかな。いや、初期値のVITを上げる手もある。

 気がはやるなあ。一旦棚上げ。次までに考えとこう。

 さて、椅子の確認がまだだったな。これだけしたんだから、品質5いってないかなー。


  ロッキングチェアー レア度1 品質6

  HP自動回復(極小)

  MP自動回復(極小)

  丸みを帯びたロッキングチェアー

  静かな時間にぴったりの優美な品である


 うおおおおお!? 品質6!?

 やばい、嬉しい。レベルアップより嬉しい。ああ、なんか納品するのが勿体無くなってきた。しかも、回復効果までついてるし。

 ……いや、流石に納品しないのはまずい。今度、ハルさんから素材仕入れて自分用のをまた作ろう。今度は品質7以上を狙ってやる。

 ……ちょっと乗るくらいはいいよね? うん、お婆さんが乗るんだから強度を確かめないとね?


 堪能した。座り心地が非常に良かった。これで、品質6なのか。決めた。いつか、宿じゃなくて専用の部屋が出来たら、お手製の家具で埋めつくしちゃる。


「依頼品の納品でーす」

「まあ、品質6ですか? 一度目で、これは素晴らしいですね。この出来でしたら、報酬に色を付けることが出来ますよ」


 おおっ、プラスされるのか。


「はい、3000Gです。生産ギルドは新しい才能を歓迎しますわ」


 褒められて、ニヤけてるのが自分で分かる。


「ありがとうございます。また、来ます」

「はい、今後ともよろしくお願いしますね、キサカさん。因みに私の名前はレーヴァンと申します」

「は、はいよろしくお願いします、レーヴァンさん。それじゃ」


 おお。名前覚えてもらった上に、教えてもらえた。幸先いいぞ、これ。さて、時間は……。もうちょい大丈夫だな。所持品捌きたいから、ハルさんとこ行ってみるか。



 露店街を見回っていると、ローブ姿の店主が。ちょうど、お客さんも帰るところらしい。


「あ、いたいた。おーい、ハルさーん!」

「おー、よく来たね。キサカくん。買取かい?それとも何か買ってく?」


 いつもの狐っぽい笑い顔だ。胡散臭いけど、この人がやると毒気が抜ける。


「両方っす。繁盛してますか?」

「ボチボチかなー。β時代のお客さんとも結構会えたし。生産への卸しは結構儲かるんだよー。キサカくんはどんな感じ?」


 売るものを出しながら、生産ギルドでの一件を話す。


「へえ、名前覚えられたんだ。君、結構集中力ある方なんだね。生産はDEXやスキルランクも重要だけど、地味な作業が多い分、プレイヤー自信の集中力が大事なんだ。うん、生産専門になる気は無いんだよね。勿体無い」

「あはは。褒めてくれるのは嬉しいんですけど、やっぱ獲物を追ってる時も楽しくて」


 隙を伺って矢を射る。こっちはこっちで楽しいのだ。折角のエルドラド。色々な事に手を出したい。


「ははーん。成る程なるほど。狩人プレイも足跡追ったり、獲物が罠に嵌るの待ったりで集中力がいるからね。それはそれで向いてるのか」

「かもしれないっすね」


 昼間は、罠かけようとして、運営の罠に引っかかったけどな!


「あ、清算ね。ゴメン、鼠は人気なくてあんまり高くは買い取れない。自分で使った方がいいと思う」

「ありゃっ、そうですか」


 まあ、ネズミだし。どうしても、不潔な印象はあるよなー。実際はそんなでもなく、毛皮もツヤがあって、見た目はプリティーなんだけど。……容赦無く槍で突き刺したけどね。


「代わりにサンの実は1個300で買い取るよ。これ、 回復薬に転用できるのよね。全部で12個。3600Gだね。それでいい?」


 ふむ、レア度の問題もあるけど、やっぱ肉よりは安いな。いや、個数が取れるからこんなもんかな。因みに自分用で2個残してある。ふふふ、生で食べてもいいけど。焼いてもいいな。


「で、買う方はどうだい? 素材は結構そろってるよー。ポーションも夜時間使って量産したから、在庫はある。どうするー?」

「えっと、じゃあ……」


「ハルさん、商売上手いっすね……」


 また、イロイロ買い込んでしまった。特にポーションは、【錬金】持ってるだけあって性能が良いのだ。

 

  回復薬 レア度2 品質6

  HPを一定量回復する


 これが300G。おっちゃんとこよりも高いが、小回復との差は歴然。買い込んで損は無いだろう。

 ま、今回は、4000は残してある。これでも、初期金額よりは下なんだけどな!


  「あはは、ご贔屓にどうも。【錬金】上がったら、矢に塗るための毒薬とかも用意したげるから、これからもよろしくね♡」

「おおーう。どんどんハルさんに利益が吸い込まれて行く」

「貢げー、もっと貢げー」

「貢ぎはしないですけど、商品は買わせてもらいますよ。他の店も見ましたけど、意外とハルさんとこ安いですからね」


 うん。一応騙されてないか、チェックするため、他のとこも回ってみたのだ。


「βプレイヤーだから、仕入れも卸しも安定してるのよ。扱ってる量が多い分、利益は低めの薄利多売ね」


 おー。しっかり商人プレイしてるなハルさん。あ、そうだ。これ聞いておかないと。


「ハルさん。防具新調したいんですけど、腕のいい職人知りませんか?」


 ゲーム内は加速時間だ。2日目といっても、実際には、その3倍は時が流れている。そろそろ周囲の装備も初期から変わって来ている。それに森を進むなら、防具の更新は不可欠だろう。


「え、ああ。うーん。うん、キサカくんならいっか」

「あ、キツイならいいですよ」


 職人と直でやったら、ハルさんの利益も減るかもしれないし。無理には言えない。


「あ、大丈夫だいじょぶ。私が扱うのは、素材と薬品が基本だから。武器も扱うけど、そっちはお小遣いみたいなもんだし。でも素材ってトライホーンのだよね? もうチョットしないと準備が整わないかも。スキルランクの問題もあるし、主素材は良くても、副素材がショボくちゃダメだしね」


 あー、そっか。どれくらいのスキルランクからいけるんだろう。トライホーン。


「ま、顔つなぎだけは、先にやっといてもいいでしょ。今から時間ある?」

「あ、スンマセン。ちょっとリアルでバイト入ってて。5時間くらいログアウトするんですよ」

「リアル時間でそれって事は、ゲーム内だと朝になるね。うん、それだったら次にログインしてから、狩りとかいった後ぐらいかな。フレンドメールくれたら準備するから」

 おお、要望が通った。トライホーンは後回しとしても、通常の鹿素材もある。ハルさんには頼りっぱなしだな。


「恩に着ます」

「いいよ、いいよ。納品が、あるからそのついで。それに……」


 ニヤリとハルさんが笑う。わ、悪い顔してる。


「いいやつだけど、チョーっと癖のある奴だからね? フフフフ。君も被害者になるがいいのだー」


 えっ、何それは?

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