第2話
目を開けると人の群れでした。2回目だなこれ。
先程いた街の風景だ。まだまだ、人が増えてる気がする。やはり死に戻って来たらしい。
ああー、くそ。最後の最後で味噌ついちまった。色々回収したかったのに。
首を振って気分を入れ替える。うん、移動時間を短縮できたと考えよう。取り敢えずは、肉の処分だな。これが売れてくれないと、どうにもならない。
で、肉って何処で売れるんだろう? と、取り敢えず、生産ギルドに向かってみよう。売れなくても、そこで聞き込みすりゃいいや。
混んでるなー。先に寄った時よりもごちゃっとしてる。ムー、受付までたどり着けそうにないな。他に売れそうな人いないかな?
「兄ちゃん兄ちゃん、こっちおいでー」
呼び込みも激しいな。思わずキョロキョロと周りを見てしまう。
「そこの茶髪のお兄ちゃんだって、灰色の目の兄ちゃん、こっち見てかない?」
え、もしかして俺呼ばれてんの?
自分を指差すと、呼んでた魔術師風の人は大きく頷いた。
人をかき分けて寄ってく。
「いやー、流石に初日の人出は凄いわ。兄ちゃん、お名前は?」
「えっと、さか……キサカです。何か用すか?」
よく見るとこの人、女だ。フード被ってて、声もハスキーだから気がつかなかった。
「アタシはハル。商人やってる。一応βプレイヤーなんだ」
「あー、どうも」
そういうとハルさんは、目を細めて二カッと笑った。狐っぽい感じがする人だ。歳はちょっと上かな? 顔はそこそこ整ってる。
「キサカくんって呼んでいいかい? 君、大物食いしてきたでしょ」
「うえ、分かります?」
「大方、デスペナ無いうちに奥に進んで、イイもん採ったはいいけど処分に困ってるクチでしょ?」
な、なんだこの人。エスパーか?
「アハハッ。警戒することないよ。朝からずっとログインしてるから、君みたいな子、何人も見てるんだ。で、アイテム見せてくれない? ものによっては、色つけて買ったげるよ」
うーん、どうしよう。ま、いいか。値段が気に入らなければ断ればいいし。
「それじゃ、これです」
「へー、肉か。レア3はいいね。βん時は見たことない肉だし。4000でどう?」
は、判断がつかない。初期が5000と考えると、どうなんだろ。いや、結局は消費アイテムだし、かなり高く買ってくれてるのか? よし、売ろう。まあ、宿にさえ泊まれりゃいいや。
「分かりました、その値段でよろしく。えっと、ちなみにこいつらだったら、どんなもんですか?」
試しに他の素材も見せてみる。
そうすると彼女は目を見開いた。
「レア5!? すごっ! βの時は4が最高だったよ。……ごめん、ちょっと今の段階だと値段つけらんない」
おお、誠実な対応だ! この人、結構いい人かも。
「あ、いえ。、ちょっと聞きたかっただけなんです。俺、【細工】持ちなんで、自分用に使うつもりなんですよ」
「へー、【細工】持ちか。生産と冒険、半々で進める気?」
「そのつもりです。ソロなんで、なんでも出来る構成にしたくて」
「あ、じゃあ作っていらないものできたら売ってくれない? フレ登録しようよ。私も【錬金】持ってるからポーションとか売ったげるよ」
「え、フレ登録いいんですか?」
おお、初めてのフレンドだ。
「やり方は分かる? インベントリ開いて、下の方。私の方から申請送っとくから」
プレイヤー名 ハル からフレンド申請が来ています。
受理しますか?
Y/N
「あ、来ました。えっとYっと」
ピロリと音がなって、申請が受理される。
「うん、改めてよろしくね、キサカくん。で、売りものも見てかない? 細工するなら素材もいるでしょ」
「えっと……。木材あります? 弓と槍、新調したくて。あと、細工の練習用に低ランク素材があれば」
「あるある、見てってよ。結構仕入れてるんだ」
そう言って、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
気づけば残金が500Gまで減っていた。
「か、買いすぎた?」
「大丈夫だって。加工して売ったら、十分元とれると思うよ? それでもお金が足らないなら、ギルドクエスト、練習がてら受けてみたらいいよ。まあ、並ぶことになるかもしれないけど」
「あはは、どうも。じゃ、これで。また、色々揃ったら来ます」
「良き開拓者ライフを! 待ったねー」
ブンブンと手を振りあって、別れた。うん、こういうのはイイな。また、いい出会いに巡り会えるといいと思う。
首をグルリと回してから、腕を伸ばす。よし、生産やってみるか。
そして、ギルドの作業台を借りて、出来たのがコレである。
木の矢×30 レア度1 品質4
ダメージ値2
何の変哲もない、木の矢
うん、まあ、こんなもんだよな。ていうか、やっぱ、おっちゃんの魔法の矢って別格だったんだな。
さて、つぎだ次。
先程、ハルさんから買い込んだ本命素材である。
モモの木材 レア度2
モモの木は硬く割れにくい
邪悪なものへの特攻効果がある
よっしゃ、気合いを入れて作るとしよう。まずは槍だな。初期槍から、穂だけ転用して作り変えよう。
穂を砥石で研いで行く。金属は【鍛治】の領分だが、研ぐくらいなら【細工】でもいけるっぽい。
おお、ピカピカ光ってる。よし、次は柄だな。
モモの木材を細工セットで整えて行く。鉋で削り、鑢がけして表面を滑らかに。持ち手に紐を巻いて滑り止め。最後に先ほどの穂を差し込めば……。
「よし、初めてにしちゃ、いいんじゃねぇか?」
モモの槍 レア度2 品質4
ダメージ値3
魔物特攻(微弱)
柄にモモを使った槍
丁寧に研がれた穂は、意外に鋭い
【細工】が、ランク2に上がりました
お、上がったか。いいね。順調そのものだ。次は弓だな。
これにも、モモを使う。弦は初期装備の流用。薄く切った木材を膠で三つ貼り合わせ、張力を強くする。持ち手は削り、打ちやすく。火で炙って折り曲げる。
火を使うのが一番難しかった。曲げすぎたり、貼り合わせたモモが分解したりと悪戦苦闘である。更には弦を張るのに手間取った。壁に弓を当て、全体重をかけて押し曲げる。やっとの事で、弦が張れた。
「で、出来た。いや、槍と比べて難易度に差がありすぎんだろ」
桃弓 レア度2 品質5
ダメージ値4
魔物特攻(弱)
邪を祓う神聖な弓
貼り合わせることで威力を増した
うおっ、槍よりも強い。なんだこの差は。手間暇かけただけはあるな、コレ。
た、試し打ちがしたい。あの、煽ってきたクソ鳥をぶち抜いてやりたい!
伸びをしてから、意気揚々と外に出ると、夕焼け空だった。洋風な街と夕焼けのオレンジ。記憶に残る風景だ。きっと今の自分は、目をキラキラと輝かせていることだろう。
ハッとして我に返る。夕闇の時間は終わり、深い夜を迎えようとしていた。
今から、狩りにいくのは自殺行為だな。しょうがない。宿に泊まってログアウトしよう。また、明日。一時さらばだ、エルドラド。