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第1話

 

 目が覚めると、そこは美しい世界……では無かった。

「パーティー募集ちゅうううううっっ!!」「イケイケ! デスペナ無いの後、1時間だぞ!! 格上に挑みまくれええ!」「おう、肩ぶつかっとるぞワレ。賠償金支払えや!」


 か、カオスだ。てか、人多すぎィッ!

 予約者で50万人か……。そりゃこうなるよ。街とか凄い作り込みなのに、そっちに目が行かない。……今、デスペナって聞こえたような?

 インベントリを開いて、お知らせを見る。


 この度はエルドラド・オンラインをご購入いただきありがとうございます。ゲーム内時間で初回プレイ3時間の間はデスペナルティが削除されます。それ以降の死亡は、ランダムでアイテムが削除され、ゲーム内時間で3日の間ステータスがマイナスされますので、ご了承下さい。

 今の間にゲームに慣れるための行動をお勧めします。

 今後ともエルドラド・オンラインをよろしくお願いいたします……か。

 

 ……よし、急ごう。呑気にしてる場合じゃねえ。


「ポーション〜ポーションいらんかねぇ。今なら3割引だよ〜」


 ピクリと耳が動く。所持金確認。5000Gか。多いか少ないかは分からないが、取り敢えずは、あるんだな。

 んで所持物は、っと。


 初心者の槍 / 初心者の革鎧 / 初心者の弓 / 木の矢×50


 武器と鎧しか無い!? よし、ポーションだ。ポーションを買おう。先ほど声が聞こえた露店へ駆け込む。


「おっちゃん、ポーション幾ら!?」

「おう、一本200のとこ、割引して140だ。何本いっとく?」

「取り敢えず、サンプル見せて。何本買うかはそれから」

「ほー、意外と冷静だな、坊主。ほれ、見ていいぞ」


 回復薬(弱) レア度1 品質3

  HPを少量回復する


 か、回復量に数字が無い。


「おっちゃん、これ今の俺ならどんくらい回復する?」


「んー、お前さん、港についたばっかのペーペーだろ。そんなら致命傷でも無い限り大概治るぜ。どうよ、5本買ってくれたら他のも割引してやるぜ」


 うーん5本で700か。まあ、許容範囲かな?


「他に何置いてんの?」


「おう、お前さん弓使いだろ。チョイと値が張るが、掘り出しもんの魔法の矢もあるぜ。他にも保管用のバッグに、火打石。遠出しないなら要らんかもしれんが、テントもある。どうだい?」


 うむむむむむ。ど、どれも結構するな。テントが1000、バッグが500、魔法の矢も一本1000!? あ、だけどこれダメージ値10もある。手持ちの木の矢を見ると1だ。槍も弓も初心者用だからか2しかない。これ、切り札に使えるんじゃないか?

 他にも水筒っていうか皮袋もある。これが100。これまでのに、火打石も合わしたら3400。残り1600か……。必需品だけで吹っ飛ぶなこりゃ。


「おっちゃん、全部買うから3000にまけとくれ!」

「流石に400引くのはキツイぜ。3200が限度だ」

「じゃ、それで包んでくれ。後、細工用の工具って置いてない?」

「毎度あり。なんだい、細工師さんかい? 生産ギルドなら大通りの左だよ。でっけえし、鍛治の音がうるっせいから直ぐわかる」


 後ろを振り向くと、人ひとヒトの群れ。……こ、これを掻き分けるのか。いや、なんとかデスペナが無い内に戦闘を経験しときたい。

 バチンと頬を叩いて、気合を入れる。あ、なんかHPが減った気がする。


「気合い入ってんねー。頑張りなよ若人」

「おっちゃんもありがとな! じゃ、ちょっくら行ってくる」

「また、ご贔屓になー」


 片手をあげてから、踵を返す。

 ……アレ? 今のプレイヤーじゃないよな?

 昨今のAI進化に戦慄しつつも、人海に溺れて行くキサカであった。


 真逆、本当に100しか残らないとは……。細工師セットが1500もしたのが予想外だ。うん、後の200はどうしたって?

 気づけば、串焼きと果実水が手に握られていた。お祭り気分で財布の紐が緩みすぎた……。宿にも止まれんぞ、どうすんだコレ。

 あ、でもこの串焼きマジでうまい。これ、現実世界での買い食い、しなくてもいいんじゃないか? VR最高だね。

 噴水広場でムグムグと口を動かす。はて、何か忘れているような。けどここ涼しくて気持ちいい。あ、皮袋に水入れとこ。


「ラストセット行くぞー!! これが、最後のチャンスだ! あのクソッタレな狼に、人間サマの力を見せつけてやれい! 時間切れ連中は、サポートに徹しろ。鉄砲玉の諸君! 死を恐れず立ち向かえ! こんなの出来るの今だけだ! はやくしろっ、間に合わなくなっても知らんぞー!」


 ……思い出した。何シテンダ俺。

 残った串焼きを、口に詰め込み、果実水で流し込む。出口、街の出口はドッチ!?

 あ、前の連中追えばいいじゃん。



 門から出ると其処は地獄絵図でした。美しい草原が広がり、左手には海に流れ込む大河が。右手には深い新緑が広がる。ホントいい風景。絵心があったら、1枚描いてみてもいいかもしれない。

 現実逃避してる場合じゃないな。目の前の草原を【遠望】すると、其処彼処でヒトがケモノに食われまくってる。あれ、絶対今の段階で喧嘩売っていい相手じゃないだろ。

 あ、さっき扇動してた人が食われた。うん、一応デスペナのこと思い出させてくれてありがとな。

 他の堅実派の方々は、チョット大きな鼠や兎に挑んでる。けど、中には群がられて、蹂躙されてる人もいる。見なかったことにしよう。

 河の方では、溺れてる人も見えた。……水泳スキルとってなかったのか。

 いかんいかん、見てる場合じゃなかった。けど森の方はちょっと人が少なそうだな。そっち行ってみるか。



 深いな、この森。草もボーボーで歩くのがキツイ。そのせいか、見かけるプレイヤーも少な目だ。やっぱりパーティー組んでる連中が多くて、ソロはあんまりいない。

  チチチという鳥の声。それに獣が吠える様な音も聞こえる。

 ……鳥だ。結構大きくて、緑の羽が鮮やか。それが、数羽並んで木に止まっている。羽って矢に使えるよな? 狙ってみるか。

 始めての弓矢、結果は……。


「うん、ハードルが高すぎた。ぜんっぜん当たらねえ」


 しまいには、近くに寄って来てはピーピー鳴く始末。煽ってる、煽ってやがるよこいつら。

 気づけば矢が20本を切っている。ざ、材料だ。枝を集めて加工するんだ!


  木の枝 レア度1

  良くも悪くも普通の枝。

  加工しやすいが、出来るもののランクは低め


 まあ、レアなもんがいきなり拾えるわきゃないしな。地道だ。地道にいこう。欲張っても損しかない。


  吸血樹の太枝 レア度3

  動物の血を吸う、吸血樹の枝

  強度は高く、しなやか


 おお!? レアもんキタコ……。まて、吸血樹? 枝が落ちてるってことは……?

 嫌な気配としか呼べないものが、首筋を伝う。咄嗟に前に飛び込んだ。

 ブシュッという貫通音が背後から。恐る恐る振り向くと、予想通りの光景がががが。

 一際太い大樹が、其処にあった。その枝が先ほどまでいた場所に突き刺さっている。よく見ると、森ネズミが枝に刺し貫かれ、段々に干からびていっている。……嫌な死に方ベスト3には入るな、コレ。


「どーも、失礼しましたー」


 ペコリと頭を下げてから、速攻で逃げ出した。デストラップ多すぎだ炉、マジで。……いや、デスペナ無いからって、こんな深いとこまで来た自分が悪いんだけど。

 ハーっと溜息をついてから顔を上げる。ふと、視界の端を、なにかがよぎった。【遠望】してみると、なんか鹿っぽい。だけど角が三本ある。おお、レアっぽい。ていうか毛並みが艶艶している。綺麗!

 よっしゃ、狙いはあれじゃ! 何としても成果を持ち帰って、勘九郎に自慢してやろう。



 そして、話は冒頭に戻る。


「よっしゃ! 初めて、矢が当たったー!」


 木の矢は、寸分違わず鹿の首を貫いた。よっしゃ、獲物キタコ……。さっきも似た様な事を思った気がする。で、その後にしっぺ返しがきたのだ。


「ぴ、ピンピンしていらっしゃる?」


 やっぱ、魔法の矢を使うべきだった! やっちまった。

 怒ってる、アレは怒ってるよ。

 首を振り回し、角を地面に打ち付けて威嚇の音を出している。後ろ脚で土を蹴っているのは、間違いなく突進の前準備だろう。

 あの角を喰らったら、間違いなくポーションを使う間も無くお陀仏だろう。

 い、いや、まだワンチャン残ってる。魔法の矢を素早くつがえて、鹿へと向けた。頼むよ1000G! 倒せなくてもいいから、せめて当たって一矢報いさせてくれ。


 遂に鹿が突進してくる。さっきの感覚だ。あの感じで射つんだ!

 ヒョウと魔法の矢が放たれる。美しい軌跡を描き、鹿の額へと吸い込まれて行った。火事場の馬鹿力すげえ! ふはは、これなら例えあの強敵といえど。


 そのまま、突っ込んでいらっしゃいました。

 だ、駄目か。レベルもスキルも低すぎたか。そのまま、横っ飛びに回避する。避けられたのが、まず奇跡。けど、掠っただけでなんか、死にそう。

 ま、まだだ。粘るんだ。バッグからポーションを取り出して飲み干す。よし、まだ動けるぞ。で、あいつは?


 弾丸のようなスピードで、駆け抜けて行った鹿はUターンの体制である。もう一度避けられるかは不明だ。ならば、やることはただ一つ。


「っらあ!!」


 突っ込んでくる鹿に、槍を合わす。これが駄目なら死に戻るだけだ。そんなら死中に活を見出すまでよ!

 体が衝撃で宙に舞った。背中から落っこちて、大ダメージをくらう。しかし……。


「ぽ、ポーション。ポーション」


 二本一気飲みである。目の前には美しい獣が倒れていた。腹に半ばまで槍が食い込んでいる。槍の柄はぼっきり折れていた。こいつの圧倒的な力が、逆に勝機となった形である。先の、魔法の矢のダメージも大きかったのだろう。


  レベルアップしました。

  ステータスを1点成長させられます

  【弓】がランク2に上がりました

  【槍】がランク2に上がりました

  【遠望】がランク2に上がりました


 お、おおおお!?


「いよっしゃあああ!! 初勝利じゃー!??」


 天に拳を振り上げる。しかも、初レベルアップだ。スキルのランクも、いろいろ上がってやがる。うわあ、楽しい! 楽しいよこのゲーム!

 えーと、ステータスはどうしよう。STRでいいよな。よし、これで8だ!


 ひとしきり喜んだ後、獲物を見やる。


「で、倒したらどうすんだこれ。……細工師セットにナイフあったな。剥ぎ取れないか、こいつ?」


 ナイフを鹿の角に当ててみる。

 ポーンとシステム音がした。


  【解体】の取得条件を満たしました。 取得しますか?

  Y/N


 おっ?ああ、ナイフ当てるのがトリガーか。えっとスキル説明は、と。


  【解体】

  仕留めた獲物を効率良く素材に変換する。ランクが上がるとより多く剥げ、レアな素材が手に入りやすくなる


 取得するに決まってんだろ!

 YだY!


  改めてナイフを鹿に突き刺す。


  トライホーンの角×3 レア度5

  鹿の王族、トライホーンの優美な角

  通常より、硬く長い

 

  トライホーンの毛皮 レア度4

  鹿の王族、トライホーンの毛皮

  優美かつしなやか

  貴族の服にも使われる


  トライホーンの腱 レア度4

  鹿の王族、トライホーンの脚の腱

  強靭であり、トライホーンの速度の決めてである


  トライホーンの赤身 レア度3

  貴族の食卓にも供される、トライホーンの赤身

  焼くと絶品である


 す、すげえ。レア度5ってなんだよ。た、たしか角とか腱って弓に使えるよな? 曲がってるから槍は無理かもだけど、細工すればチート級装備がいけるかも……。あ、駄目だ。まだ細工したこと無いから、失敗が怖すぎる。と、取り敢えず保存しとこう。

 毛皮は結構でかい。弓や槍の持ち手にもいいだろう。防具にもしたいが加工はわからないので、生産の人に頼んで……か、金が無い。

 ということは、だ。じーっとトライホーンの赤身という文字を見つめる。ああ、貴族の食卓に出るってことはうまいんだろーなー。ここに来る前の串焼きも美味かったし。

  ……うう。グッバイ俺の肉。鍛え上げてから、またあいつを狩って絶対食ってやる!

  何にしろ夢は広がりまくり。フハハ、勘九郎に自慢しまくってやろう。



 ひとしきり、喜んだり、唸ったりしてから立ち上がる。余は満足じゃ。いっぺん街へ帰ろう。


「ぉーぃ」


  ? 何か聞こえたような。


「助けてー」


 あ、誰か助け呼んでる。インベントリを見ると、まだデスペナは無い時間だ。うーん。状況によっては助けてやっても、い、い、ってなにあれ!?


「たーすけーてくださーい!」


 女の子が走ってきている。プレイヤーである俺を確認したのか、こちらへ一直線だ。まあ、女の子はいい。問題はその後ろ。蜂だ。でっかい蜂の群れだー!?


「うわあ、MPKだー!? トレインしてやがる!」


 こ、これが世に聞く、モンスターを釣ってなすりつけるというMPKか。ま、まさか自分が被害者になるとは。っていうかあの子足はや!?

 蔦やら、木の根っこやらで、やたらと歩きにくい森の中をスイスイ進んでこっちに向かってる。うん、何かのスキルかな? 凄いすごい。

 ハハハハッ。思わず笑ってしまった。人間どうしようもなくなると笑が出てしまうね。……はい、ただの現実逃避です。


 踵を返して、逃げようとする。

 ここまで来て死ぬのは、ノーサンキューです。

 耳元で、ボヒュッという嫌な音がした。ギギギッと顔を横に向けると、でっけえ針が木に突き刺さっている。

 あ、鏃に使えそう……なんて考えてる場合じゃねえ!? あの蜂、針を飛ばして来やがった。

「き、木の後ろに隠れ……」

 ボヒュボヒュボヒュボヒュッ。

 次の瞬間、キサカは人型の剣山となり、この世界での通過儀礼を体験したのだった。

 

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