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亀
いつかの夏
金魚すくいですくったのは君だった
小さな君は固い甲羅に隠れてる
僕は君をつついてみる
世界はきれいだよ
覗いてよ
君は少し笑った
走った
逃げた
俊足だった
君は青空をバクリと食べた
甲羅はどんどん大きくなった
ねえ 君は甲羅の中に何を詰め込んだの?
いつかの夏
君はいなくなった
僕は忘れていたよ
君のことも昨日のことも明日のことも
僕は忘れたかった
君の鳴き声も昨日の夕日も明日の青空も
いつかの夏
いなくなったのは僕だったのか
僕の背中にも甲羅があるのかもしれない
でも僕は甲羅の中に逃げられない
雨が上がれば
またいつかの夏
君はどこにいるのか
水際で甲羅に夏を透かして
青空を見上げているのだろうか
ねえ 君は甲羅の中に何を詰め込んだの?
僕にそう言って笑うのだろうか
この詩は、掬片の会(abakamu様主催)の詩集「瞬・夏・集・灯」(http://ncode.syosetu.com/n6740bs/)に、2013年7月29日に掲載させていただいたものを編集し直して投稿しました。




