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Ponte dei Sospiri  作者: さゆみ
形而上的な
132/143

レアチーズケーキ




子どもの頃、ケーキはスフレタイプのチーズケーキしか食べなかった。決して嫌いじゃないんだけど。友達の誕生日会では食べたよ、イチゴのショートケーキもチョコケーキも。でも優しいスフレチーズケーキが好きだった。


小学5年生ぐらいかな、わたしはよく行くケーキ屋さんで、レアチーズケーキと目が合ってしまった。食べてしまった。甘いサクッとしたタルトの上に、ベリージャムの酸味が舞う。薄手のスポンジがふわりと重なると、恥ずかしがり屋のレモンは、チーズムースの影にかくれた。生クリームの小花がそっと開けば、ピスタチオのグリーンがちょこんと座った。


美味しかった。美味しいに決まってる。もうスフレチーズケーキには目もくれず、レアチーズケーキ一筋になった。スフレチーズケーキみたいに、あたたかい優しさはなかったけれど、少しクールな優しさを教えてくれた。


優しさにも色々あると思う。真っ直ぐな優しさ、さりげない優しさ、厳しい優しさ、同じ目線の優しさ、秘めてる優しさ、その場しのぎの優しさ、あとから気付かされる優しさ…………

でもどんな優しさだって、自分では知らないうちに、すごいエネルギーを使っているんだと思う。 わたしは優しさが欠如してるから、特にそう思う。


当時は優しさに飢えていたのかもしれない。ただのワガママだったのかもしれない。なにせ自分の思い通りにならないと癇癪を起こす、手がつけられない子だった。


実は今はベイクドチーズケーキが一番好きだ。これもそれなりの理由があって、でもたかがケーキの話で申し訳ないので割愛ーー


今思うのは、レアチーズケーキが好きになったのは、もしかしたら、そのお店のパティシエのおじさんが、とても親切だったから、とても優しかったから、わたしをちゃんと見てくれたから。そんなものなのかもしれない、好きになるって。









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