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夜風がね
暗闇を少しだけすくって凍らせたら
漆黒の氷がうまれた
カロンカロン
グラスの中でキラッとしたのは
暗闇の背中なのかもしれない
きょうは琥珀色の飲み物を作ろう
誰かの悲しみと僕の悲しみ
僕の苦しみと誰かの苦しみ
注いでも 注いでも
琥珀色にはならなくて
それぞれに抱えてる重さは
それぞれに違くて遠くて測れない
夜風がね
僕の中に冷たくいるんだ
震えているんだ
ずっとずっと出ていかない
薄い三日月がうんと遠くから
ささやかな光で僕を照らした
あったかくなんてないけど
これっぽっちも
あったかくなんてないのに
光は誰かを照らすためにある
そんなあたりまえのこと
僕の喜びと誰かの喜び
誰かの幸せと僕の幸せ
注いでみたら 注いだ分だけ
溢れてくるよ
どんな喜びであっても
どんな幸せであっても
測れなくて計り知れないけど
分かち合うことが……
夜風がね
ぷっーと僕の中をすり抜けて
耳元を横切ったとき
くすぐったくて
少しだけ笑ってしまった
氷は溶けて 琥珀色が光ってる




