或る寒い日
子供達に夢を与えたい。
そんな言葉を臆面もなく語る。テレビ画面に映る知らない人。
ヒーローにでもなったつもりか。
コタツに入って横になりながら、上から目線でそう思った。
夢を与えるなんて良い事なんだろうか?
ジャンプとか、ああゆうの。バクマンとか。
面白かったけど、雑誌の裏側。作り手はこんな世界の中で戦って、頑張っているんだなって。面白かったけども。
でも私の目の前に広がる世界はあんなに優しくない。
死んだ叔父さんが漫画家だったり、絵を描くの上手かったり、お話を狙って書くこともできない。あんなに都合良く身近に全て揃ってない。
つまり、あれは子供達に夢を与えるっていう大人が書いた嘘だ。
どうするんだよ、あれを本気にして、夢を追いかけなきゃって子供達が思ったら。
つまんないサラリーマンなんかなっちゃダメだって思ったら。
夢を持ったまま大人になったら、それまで『夢』を持って生きろと教えた大人は掌返して現実を見ろと言う。童話で悪人は必ず負けていた筈なのに、現実では頭のいい悪人は長生きをする。大人は物知り顔でそれを語る。
をいをい、わかってたんなら、初めからそっち教えといてくれよ。なんで最初にそっち語ってくんなかったんだよ。
大人になればわかるって、隠してたのあんたらじゃんか。
大学三年生になったら、就職活動が始まる。
今まで遊んでた大学生がキビシイ社会に放り出される。
何社も何社もエントリーして、試験して何回も面接して。面接官はなんの苦労もなく会社に入った時代の人間。
大学で学んだ事と、なんの関係があるんだ保険会社。営業の仕方なんて大学で教えてもらってない。でもいい大学出てると有利で。
こんなのおかしいよって思っても、『キビシイ社会』はこうなんだって。誰も理解してないんじゃないかって思う。
「世の中おかしいよ」
沢山の言葉をギュギュッと凝縮して呟く。
返ってくる言葉は大体が
「そうだね」
みんなそう思ってて、変わらない?
それとも、あんまり世の中に期待してない?
どっちにしても問題だ。
個人の為の会社は会社の為の個人に変わり、死なない様に頑張った医学は高齢化社会を生み出す。
いつからおかしくなっちゃったの?
おかしい事をおかしいと言うと、言った個人が攻撃される。いやいや、別に君の事批判したんじゃない、世の中を批判したんだ。
なんだって知らない人、しかも不特定多数に攻撃されなきゃいけないんだ。
今のお祭りは神様を祭らず一般市民を祭る。
そういえば、神様もずいぶんと増えた。最近は大体動画の中にいる。神様の大安売りだ。
十年後に振り返れば、今という時代は黒歴史になってるんだろうか。それとも、もっとおかしい事が進んでいるんだろうか。
まぁ、コタツの中で偉そうに世の中を憂いているこの状態は二年後には間違いなく黒歴史だ。
私はのっそりとコタツから這い出て、ミカンを取りに行った。