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 まるで何事も無かったかのように、元の滝壺の風景へと戻ると、二人はその場に呆けてしまう。お互いに顔を見合わせると、二人して生唾を飲み込んだ。

 「夢・・・では無いな・・・。」

 ポツリとジェイクが言うと、ヒューストは額に汗を掻きながら、頷いた。

 「あぁ・・・。幻でも無い。」

 「そりゃそうだ!俺はこの手で妖精を掴んだんだからな!あの感触、今でも残っている!」

 ヒューストは地面に転がる石を、一つ拾い上げると、マジマジと見る。石の中にでも逃げ込んだのか?と思ったが、そんな様子も無く、石は只青く光っているだけだ。

 「それで、これからどうする?」

 ジェイクは未だに信じ難い体験に、頭を抱えながら言った。

 こんな話し、間違っても他の者には話せない。あのまま妖精を捕まえても、証人にはならない。この先どうしたらいいのかが、全く分からなくなってしまう。

 ジェイクとは対照的に、ヒューストは意気込んでいた。

 「グレイ兄弟を逮捕する。」

 「逮捕だって?証拠は?妖精は証拠にはならないぞ!」

 「分かっている!だが洗脳の方が有るだろう!」

 確かに・・・と思う物の、ジェイクはそれでも、無意味の様な気がしてしまう。

 「だが・・・逮捕をしてどうする?大体、二人の目的は何だったんだ?」

 力無くジェイクが言うと、ヒューストは拾い上げた石をギュッと握りしまった。

 「子供だ・・・。」

 「子供?あぁ・・・確か、子供を取り戻す方法・・・とか言っていたな。」

 「きっと子供を生贄に、自分達の子供を取り戻そうとしているんだ。」

 「生贄だって?何故そう思う。」

 気味悪言葉に、ジェイクは眉間にシワが寄ってしまう。しかしヒューストは、確信でもしている様に、自信に満ちた顔をしていた。

 「妖精から聞いた方法だぞ?ロクな物か!それに、妖精の数が減っていた。五匹しかいなかったのが、気になる。トビーが死んで、一匹減ったとなると、妖精が見える子供が一人死ねば、妖精も一匹減る仕組みなのかもしれない。」

 「そう言われれば、そうかもしれないが・・・。それが子供を取り戻す方法と、何の関係がある?」

 「分からないが・・・取引だと言っていた。何か関係しているはずだ。」

 「だが、それをどう確かめる?」

 「グレイ兄弟に、直接聞く!」

 そう言うと、ヒューストは石をポケットの中へと入れ、足早にその場から離れて行った。慌ててジェイクも後を追うと、先に進むヒューストに歩きながら言う。

 「直接と言っても、どちらに聞くんだ?ピーターの方は、危険だぞ!」

 「あぁ、分かっている。だから兄の、マッキーニの方に会いに行く。ここからは、奴の家の方が近いしな。」

 「それでも油断ならないぞ!知らない内に、操られているかもしれない!」

 「妖精を見たんだぞ!これ以上、妙な事が起きても何て事無いさ。」

 ヒューストは河原から公園へと出ると、走って車の方へと向かった。

 ジェイクは軽く溜息を吐くも、「分かったよ。」と腹を括った様子で、ヒューストに任せようと思った。


 マッキーニ・グレイの家は、トビーの町から車で二十分程の所に在った。

 周りは颯爽としていて何も無く、広い向日葵畑が広がっている。その奥に、木造で出来た家が一軒、ポツリと建っていた。

 車を家からは見えない様に、少し離れた所に停めると、ヒューストとジェイクは、念の為にと拳銃の安全装置を外す。そっと忍ぶように車から降りると、少し姿勢を屈ませ、高く生える向日葵の葉に隠れる様に、家の方へと近づいて行った。

 家のすぐ側まで行くと、玄関付近で二人は左右に別れ、そっと窓から中の様子を窺う。中はカーテンが閉められているせいで、よく見えない。ジェイクはヒューストに、ドアをノックする様合図をすると、ヒューストは小さく頷き、そっとドアをノックしようとした。

 その瞬間、二人の後ろから「ようこそ刑事さん。」と言う声が聞こえた。

 二人は慌てて後ろを振り返ると、そこには煙草を加えた、細身の体の老人の姿が在った。二人はすぐにマッキーニだと分かると、慌てて銃を向ける。

 「そんな物騒なもん、突き付け無くとも、何もせんよ。」

 のんびりと煙草を吸いながら言う老人に、二人は互いに顔を見合わせると、ゆっくりと銃を下ろす。

 「マッキーニ・グレイだな?」

 ヒューストが問うと、マッキーニは無言で頷く。

 「何故我々が来る事が分かった?」

 次にジェイクが問うと、マッキーニは顔をニヤニヤとさせながら、答えて来る。

 「妖精が教えてくれたんだよ。わしだって石を持っている。」

 そう言うと、ズボンのポケットの中から、青光りをする石を取り出して見せた。二人はそれを見て、驚くと同時に、やはりグレイ兄弟が黒幕だと悟る。

 「立ち話も何だ・・・中に入るか?」

 マッキーニは二人の間を通り、家の中へと入って行くと、その場に立ち尽くす二人に中に入る様、手招きをする。二人は互いに顔を見合せながらも、ゆっくりと警戒をしながら、家の中に入った。

 家の中は意外にも小奇麗で、整理整頓がキチンとされていた。埃も少なく、一人暮らしの男の老人の家とは思えない程、小まめに掃除がされている。

 マッキーニは台所からコーヒーを三つお盆に乗せ、持って来ると、広いリビングのテーブルの上に置いた。

 「まぁ座ったらどうだ?聞きたい事が、山ほどあるのだろう?」

 そう言ってソファーに座り、マッタリとコーヒーを飲み始めるマッキーニの姿に、二人は少し戸惑ってしまう。

 これは何かの罠だろうか?と疑うも、そんな雰囲気も無く、全て妖精から聞き知っている様だった。

 「私達の事も、妖精から聞いているのですか?」

 率直にヒューストは疑問をぶつけてみると、マッキーニはすんなりと答えて来る。

 「まぁ・・・大雑把にはな。だからわしは、別に何もせんよ。只聞きたい事があるなら、その質問に答えてやる。その為に待っていた。」

 二人は互いに顔を見合わせると、銃を腰に仕舞った。しかしソファーには念の為座らず、立ったまま、マッキーニに質問をする。

 「貴方はトビーとジェシーの事を、知っていますね?」

 始めにヒューストが質問をすると、マッキーニは無言で頷いた。そして次に、ジェイクが質問をする。

 「弟のピーターと、子供が妖精を見る為のプログラムを、実施していますか?」

 「実施か。プログラムを作ったのは、ピーターだ。わしは土地の提供をしただけ。妖精達にな。」

 「弟一人のせいにするつもりですか?」

 途中ヒューストが話しに割り込むと、マッキーニは大口を開けて笑い出した。

 「そうは言っとらんよ。だが事実そうなだけだ。わし達は子供の頃から、ずっと妖精と話しをしていた。ピーターは妖精の話しを信じない大人達を、嫌っていた。大人は純粋さが無いのだと、懸念していたのだ。だから、心理学を学び、純粋な心を持ったまま、大人へと育つ方法を考えたのだ。」

 「それが人格形成プログラムか?」

 ジェイクが聞くと、マッキーニは大きく頷く。

 「当初はそれが目的だった。だが奴の子供達が警察に捕まり、変わってしまった・・・。」

 「変わった?その前に、貴方も子供を亡くしている。」

 するとマッキーニは、また大口を開けて笑う。

 「あぁ、そうだとも。わしの二人の子は、あの滝壺で妖精と遊んでいる時に、溺れて死んだんだ。」

 それを聞いたヒューストとジェイクは、驚いてしまう。

 「貴方の子供も、妖精が見えていたのですか?」

 驚きながらもヒューストが聞くと、マッキーニは大きく頷いた。

 「あぁ・・・見えていたよ。だからわしは、妖精に怒った!よくもわしの子供達を、死なせたなと!奴等を追い出してやろうと、森に火を点けようとした!すると奴等は、この場に居させてくれるのならば、子供達の魂を見付けて来ると言って来たのだ。」

 「魂だって?そんな物を見付けて来て、何になる?」

 ジェイクは半ば呆れながらに言うが、マッキーニは瞳を輝かせながら、話し続けた。

 「魂を見付け、最後の別れを言える様にしてくれると。わしは了承した。すると妖精達は、子供達の魂を見付けると、石を通して話しをさせてくれたのだ。わしは子供達に、別れを告げる事が出来た。」

 「だが・・・それは本当に貴方の子供の声だったのですか?」

 不可解そうな顔でヒューストが尋ねると、マッキーニは何度も大きく頷く。

 「間違いなく、あの子等の声だった。わしは約束通り、あの場を妖精の住処とした。それを聞いたピーターは、家へと帰ってきたのだ。ピーターは妖精に、悪に走ってしまった子供等を、どうすれば昔の様な良い子に戻す事が出来るのか、尋ねた。」

 「しかし、ピーターは心理学者です。そんな事、妖精に聞かずとも・・・。」

 ヒューストの言葉を遮り、マッキーニは言う。

 「ピーターの子は妖精が見えなかったのだ!ピーターは心理学者で有りながら、我が子に妖精が見えない事を、苦難していた。そして挙句に悪へと走り、自身の子は失敗作だと絶望していた。プログラムも中止し、妖精達に答えを求め続けた。」

 「それで、妖精はどんな助言をしたんだ?」

 「再生だと言った。」

 「再生?」

 ジェイクは首を傾げると、ヒューストと顔を見合わせる。互いに顔を見合わせ、じっと考えていると、二人はハッと気が付いた。

 「まさか・・・ピーターの子は殺されたと言っていたが・・・。」

 ヒューストは思わず、口を手で覆ってしまう。

 ジェイクは頭を抱えると、ゾッとした表情で言った。

 「殺したのか?自分の子供を!」

 マッキーニはゆっくりと頷くと、その時の事を思い出す様に、遠い目をしながら話した。

 「ピーターは苦悩した挙句、子供を殺した。わしとピーターは、二人であの滝壺へと行き、殺した事を妖精に伝えると、妖精はわしの協力も煽った。そうすれば、わしの子も蘇らせてくれると。真っ白な美しい心で。わし達は妖精に言われた通りの事をし始めた。人格形成プログラムを再建し、その一部に改良を加えた。妖精の言語を録音したテープを、音楽の中へと組み込み、赤子にそれを聞かせ続けた。定期的に河原へと連れて行くと、やがてその子は妖精を見始める。そして妖精と触れ合いさせ、妖精に近い存在へと変えて行ったのだ。」

 「それが今の人格形成プログラムか・・・。貴方は河原へと連れて行くのが、役目・・・。」

 ヒューストはゆっくりと口元から手を退かしながら言うと、マッキーニは小さく頷く。

 「しかし、待て!妖精に近い存在とは、どう言う事だ?」

 未だ頭を抱えながら、慌ててジェイクが言うと、ヒューストもその事に気付いた。

 第一、蘇らすと言っていたが、妖精にそんな事が出来るのだろうか、と言う疑問も有る。

 そもそも、妖精はグレイ兄弟に、何を要求したのだろうか。

 「マッキーニさん、妖精は何をする様に言ったのですか?」

 ヒューストは恐る恐る尋ねると、マッキーニは口元をニヤ付かせた。

 「刑事さん。あんた方、妖精はどこから来るのか、知っているかね?」

 その言葉を聞いたヒューストは、ゾッと背筋に悪寒が走った。確かトビーにも、同じを聞かれた事を思い出す。

 マッキーニは不気味な笑みを浮かべながら、言って来た。

 「妖精は神が住んでいる所から、来たのだよ。悪さが過ぎて、追い出されたのだ。人間の住む世界に。だから人間に、とてもよく似ている。妖精は天使にも悪魔にも、なり損ねた者だ。」

 それを聞いたヒューストは、蔓の道の事を思い出した。

 蔓は確か、上から下へと伸びていた。妖精は高い所から来くるから、下へと伸びる道を作らなければ、家まで辿りつけ無いとトビーは話していたが、それはつまり、妖精は天から来て、下へと落とされると言う事なのだろうか。

 「そんな馬鹿げた話し・・・。」

 ジェイクは下らなさそうに言うも、ヒューストと同じ様に蔓の事を思い出すと、口を噤んでしまう。

 二人共まさか・・・とは思いながらも、実際に妖精の姿を見た今、そんな事も有り得るのかもしれない、と考えてしまう。

 「妖精は帰りたいと言った・・・。」

 ポツリとマッキーニが言うと、二人はマッキーニの方を見つめる。

 「帰りたい?」

 ジェイクは眉間にシワを寄せると、何となくマッキーニの言わんとする事を悟る。

 「天へと帰りたいと言う事か?」

 マッキーニはゆっくりと頷いた。

 「天へと帰れば、わし等の子の魂を、連れ戻す事が出来ると・・・。だからわし等は、妖精に近い存在の子供を作り始めたのだ。妖精を帰すには、その存在に近い魂が必要だ。無垢だが賢く、天使にも悪魔にも成り得る存在。」

 それを聞いたヒューストは、ハッと気付き、大声で叫んだ。

 「子供の魂と引き換えに、妖精は帰れるのか!」

 するとマッキーニは、大声で笑い始める。その笑い声は、家中に響き渡った。

 「流石刑事さん!察しがいいなぁ。だが実際には、身代わりだ。妖精が再び天へと帰れる時は、死んだ時だ。だから妖精は、変わりの魂を欲した。生きたまま天へと帰る為に。その為に、妖精に近い存在の子の魂が必要だったのだ。妖精は全員帰してくれれば、わし等の子の魂を連れ戻してくれると約束したのだ!」

 「何て事だ!だから妖精の数と、子供の数が同じだったのか!やはりトビーは生贄にされたんだ!」

 ヒューストは一気に頭に血が上ると、怒り任せにマッキーニの顔を、思い切り殴り付けた。

 「落ち着け!ヒュースト!」

 ジェイクは慌ててヒューストの体を、マッキーニから離す。

 マッキーニはそのままソフォーに倒れ込むと、ポタポタと鼻血が零れる。ゆっくりと起き上ると、鼻血が出るのを手で押さえながら、不敵な笑みを浮かべた。

 「勘違いしなさんな。わし等は只、妖精に近い存在の子供を作っただけ。その子等に入らぬ知恵を吹き込み、死を囁いたのも、全て妖精のした事。後五人・・・後五人で、わし等の子は帰って来る。長かった・・・。」

 ヒューストを押さえていたジェイクは、マッキーニの言葉を聞き、眉間にシワを寄せた。

 「長かった・・・?トビーが最初の子じゃないのか?」

 「トビーが最初の子だよ。ようやく全ての子が完成されるのだ。後は順に、死に逝くだけ!あの子等を作り上げるのに、長い月日を掛けたよ!」

 マッキーニは叫ぶように言うと、不気味に大声で笑い続ける。その言葉を聞いたジェイクは、とっさにジェシーの事を思い出す。

 「ジェシー・・・ジェシーが危ない!」

 ジェイクとヒューストは、慌てて家の中から出て行った。その後ろから、マッキーニの叫び声が聞こえる。

 「もう遅い!もう遅いぞ!全てが完成される!」

 ジェイクは急いで車へと向かおうとすると、後ろからヒューストが腕を掴み、引き止める。

 「待て!今から行っても、ジェシーは石を持っているから妖精の方が早い!それよりジェシーを監視させるんだ!」

 「だがジェシーは、まだ海外の警察に居る!どう説明をする!」

 「だったら尚更、今行った所で間に合わない!ジェシーはまだ、石を持っているんだろう?」

 「あぁ、大切な物だからと、押収はしなかったらしいが・・・。」

 慌てているジェイクに、ヒューストは少し落ち着く様に言うと、ジェイクは数回深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

 ジェイクが冷静さを取り戻すと、ヒューストは今やるべき事を、ジェイクに伝える。

 「いいか、まず向こうの警察に連絡をして、すぐに石を取り上げるんだ。それから、トビーの自殺の事を話し、ジェシーにもその危険性が有ると伝え、常に監視させる様頼む。」

 「あぁ・・・そうだな。それが一番良い。それと、すぐにこちらへの引き渡しも頼もう!プログラムによる同一事件として。」

 ジェイクは自分の言う言葉に、何度も小刻みに頷いた。

 ヒューストはジェイクの背中を、バシッと強く叩くと、携帯を取り出す。

 「よしっ、お前はすぐに連絡をしろ!私はマックスに連絡をして、他の子供達の保護を頼む。グレイ兄弟の逮捕はその後だ!きっと逃亡はしないはずだ。あの河原からは離れられないだろうからな。」

 ジェイクはヒューストに言われた通り、ジェシーの収容されている警察へと連絡をすると、すぐさま石を取り上げる様に言い、トビーの事を伝え、監視と引き渡しを頼んだ。幸いジェシーはまだ無事だ。

 ヒューストはマックスに連絡をすると、他の子供達を探す様に言い、トビーの収容されていた病院を再調査する様に伝える。その際、心理学の専門学者も連れて行き、意識誘導をされない様、注意を促す。

 それぞれが今の段階で出来る事をすると、ヒューストはポケットの中から、石を取り出した。

 「それで?これはどうする?プログラムの事で検挙出来ても、妖精の話は流石に無理が有る。あの河原はどうする?」

 一番の問題を言われ、ジェイクは頭を抱える。

 「そうだな・・・。俺達は妖精を見ているが・・・。グレイ兄弟に関しては、兄弟結託しての違法洗脳プログラムとして逮捕出来るが・・・。ピーターは殺人の容疑も有るし。まぁ、逮捕したとしても、精神刑務所送りだろうな。」

 「それで十分だ!二度と出て来れなくなるだろうから、都合が良い。だが問題はあの滝壺に、まだ五匹も妖精が居る事だ。もしかしたら、増えるかもしれない。」

 ジェイクはじっとその場で考え込むと、ふと良いアイデアが思い浮かぶ。

 「汚染されている・・・と言うのはどうだ?管理者のマッキーニが、イカレタ話しを信じ、汚染物を撒いたと言って、立ち入り禁止にしてしまうのは。」

 「嘘をリークするのか?」

 「だが他に、方法が無い!妖精を追い出す方法も知らないし、奴等だって教え無いだろう。他に手が有るか?」

 ヒューストはしばらく考えると、確かに他に良い手立てが見付からず、頷いた。

 「確かに・・・それが一番いいかもしれないな・・・。それなら、あの散らばった石を地面に埋め直そう!見付けられたら厄介だ!」

 「確かに!急ごう!」

 二人は車に乗り込むと、マッキーニの逮捕をマックスに頼み、急いで公園へと向かう。


 滝壺へと到着をすると、二人が手を煩わす事が無い状態になっていた。

 あれだけ散乱していた石が、元通りに地面の中へと戻っているのだ。引っこ抜いた蔓も、綺麗に元通りになっている。

 二人は茫然と、その場に立ち尽くした。

 「一体これは、どうなっている・・・。」

 不可解な顔をして、ジェイクが言うと、ヒューストは前にも同じ様な事が有った事を、思い出す。

 「確か昨日来た時も、お前と引き千切ったはずの蔓やらが、元通りになっていた。きっと妖精が元に戻したんだろう。」

 「妖精が?律儀なもんだな・・・。しかし何故元に戻す?帰りたいなら、石は一人でも多くの者に、知られた方がいいんじゃないのか?」

 ジェイクの疑問は、確かに尤もだ。妖精は自分達の存在を、知られたいのか知られたくないのか、よく分からない。矛盾している点が多く感じる。

 「さぁな・・・。だがトビーは、人間に見られるのを嫌っていると言っていた。蔓の道が、落とされた妖精の為の物なら、直すのは分かるが、石まで直すのは何故だろうな・・・。」

 「宝物なんじゃないのか?」

 何となく言ったジェイクの言葉は、ヒューストにとってとても良いヒントになる。

 「宝物か・・・。確かにそうかもしれない。ジェシーは勝手に石を持って行き、怒られたとトビーが言っていた。私も怒られたらしいし。友達の印としてしか、貰えないそうだ。」

 「それは友達じゃなくて、生贄の印の間違いじゃないのか?」

 嫌味ったらしくジェイクが言うと、ヒューストは鼻で笑った。

 「それは言えている。」

 そう言うと、ポケットの中から石を取り出し、大石の下へと投げ付けた。

 「行こう、マックスに全部押し付けて来たから、訳も分からず怒っているはずだ。」

 そう言うと、ヒューストはゆっくりと歩き出す。

 「だな。ここの閉鎖手続きもしないといけないし。ジェシーを迎えに行かなくちゃいけない。まだまだやる事は山ほどあるぞ。」

 ジェイクも歩き出すと、二人は滝壺から去って行った。妖精の話しは、二人だけの秘密にしようと約束を交わし。



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