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月と翼の夜  作者: 由宇
7/17

7.


夜になっても紗弥は俺に近寄ろうとはしない。

しょうがないから、俺は屋上に出た。


「何だったんだ?」


まだ十字架の当たったところがヒリヒリと痛む。

今まで何度も人間に十字架を突きつけられたことはあったけど、全然平気だった。

触ったって別に何ともなかった。


「おっかしいなぁー。」

「なーにが?」


後ろからベッタリと黒い影が俺にくっついてきた。


「耀、ウザい。」

「つれないなー、ハルトは。」

「俺はお前らみたいな血に飢えたやつとは違うし。」

「えー、そんなぁー。」

「確かに。ハルトはどっちかっていうと俺らに近いしな。」

「コウアも来たのか。」


俺の傍に来たのは、なぜか関西弁を使う吸血鬼の耀と、死神のコウア。

何だかよくわかんない3人組だ。


「何の用だよ。」

「んー、お前に忠告やな。」

「は?」


耀は俺にビシっと指を突きつけた。


「あいつはヤバイで!」

「あいつ?」

「お前が昨日会った女や。」

「あー、紗弥?」

「あいつは絶対やめたほうがええで?」

「誰がお前にそんな忠告頼んだんだよ。」

「俺にはわかんねん。」

「何でそんなのお前にわかる。」

「吸血鬼の美学や☆」


俺はそのまま紗弥の部屋のベランダに入った。


「お前あとで後悔するでー!?」


耀の声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。

紗弥はしっかり鍵をかけてるけど、俺にはそんなこと関係ない。

スッと手をかざせば、鍵なんて簡単に開く。


「紗弥。」


部屋の中でパソコンを睨んでいた紗弥に後ろから声をかけた。


「なっ!?ハルト!?何で、居るの!!?」

「いや、入ってきた。」

「ち、近寄らないで!!」


すぐ傍に置いてあったらしい十字架を俺に突きつけた。


「なぁ、それ降ろしてくれない?」

「イヤ!」

「んじゃ、いいけどさ。」


俺はその部屋にあったベッドに座った。

紗弥は一定の距離を置いて、十字架を握り締めている。


「紗弥。」

「何?」


紗弥の手を見ると、僅かに震えている。


「昨日はごめん。」

「…え?」


紗弥はきょとんとした顔で俺を見つめている。


「いや、調子のりすぎた。」

「今、謝った?」

「うん。」

「悪魔も謝るんだ…。」

「お前が初めて。」

「他に謝った人居ないの?」

「謝る前に殺すし。」

「へ、へぇ…。」


若干紗弥の顔がひきつった。

相変わらず十字架を握り締めている。


「もう何もしないから、それ置いてこっち来いよ。」

「う、嘘!!そんなこと言ってまた騙すんでしょ!?」

「何もしないって。」

「悪魔と約束なんかできないよ!!」


紗弥の言葉に胸が痛んだ。

何だか少し切ない。

自業自得なんやけど、何か、悲しい。

人に対してこんな気持ちになったのなんか初めてだった…。


「…わかった。ごめん。」


このまま居ても紗弥の気持ちは変わらない。

そう思って俺は窓から飛び立った。

何だか月に「女々しい」と、笑われている気がした。


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