7.
夜になっても紗弥は俺に近寄ろうとはしない。
しょうがないから、俺は屋上に出た。
「何だったんだ?」
まだ十字架の当たったところがヒリヒリと痛む。
今まで何度も人間に十字架を突きつけられたことはあったけど、全然平気だった。
触ったって別に何ともなかった。
「おっかしいなぁー。」
「なーにが?」
後ろからベッタリと黒い影が俺にくっついてきた。
「耀、ウザい。」
「つれないなー、ハルトは。」
「俺はお前らみたいな血に飢えたやつとは違うし。」
「えー、そんなぁー。」
「確かに。ハルトはどっちかっていうと俺らに近いしな。」
「コウアも来たのか。」
俺の傍に来たのは、なぜか関西弁を使う吸血鬼の耀と、死神のコウア。
何だかよくわかんない3人組だ。
「何の用だよ。」
「んー、お前に忠告やな。」
「は?」
耀は俺にビシっと指を突きつけた。
「あいつはヤバイで!」
「あいつ?」
「お前が昨日会った女や。」
「あー、紗弥?」
「あいつは絶対やめたほうがええで?」
「誰がお前にそんな忠告頼んだんだよ。」
「俺にはわかんねん。」
「何でそんなのお前にわかる。」
「吸血鬼の美学や☆」
俺はそのまま紗弥の部屋のベランダに入った。
「お前あとで後悔するでー!?」
耀の声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。
紗弥はしっかり鍵をかけてるけど、俺にはそんなこと関係ない。
スッと手をかざせば、鍵なんて簡単に開く。
「紗弥。」
部屋の中でパソコンを睨んでいた紗弥に後ろから声をかけた。
「なっ!?ハルト!?何で、居るの!!?」
「いや、入ってきた。」
「ち、近寄らないで!!」
すぐ傍に置いてあったらしい十字架を俺に突きつけた。
「なぁ、それ降ろしてくれない?」
「イヤ!」
「んじゃ、いいけどさ。」
俺はその部屋にあったベッドに座った。
紗弥は一定の距離を置いて、十字架を握り締めている。
「紗弥。」
「何?」
紗弥の手を見ると、僅かに震えている。
「昨日はごめん。」
「…え?」
紗弥はきょとんとした顔で俺を見つめている。
「いや、調子のりすぎた。」
「今、謝った?」
「うん。」
「悪魔も謝るんだ…。」
「お前が初めて。」
「他に謝った人居ないの?」
「謝る前に殺すし。」
「へ、へぇ…。」
若干紗弥の顔がひきつった。
相変わらず十字架を握り締めている。
「もう何もしないから、それ置いてこっち来いよ。」
「う、嘘!!そんなこと言ってまた騙すんでしょ!?」
「何もしないって。」
「悪魔と約束なんかできないよ!!」
紗弥の言葉に胸が痛んだ。
何だか少し切ない。
自業自得なんやけど、何か、悲しい。
人に対してこんな気持ちになったのなんか初めてだった…。
「…わかった。ごめん。」
このまま居ても紗弥の気持ちは変わらない。
そう思って俺は窓から飛び立った。
何だか月に「女々しい」と、笑われている気がした。




