16.
寝室のベッドに寝転がって、眠ろうとしていた。
眠らなければ、私には翼が生えたまま。
泣きつかれるほど泣いたはずなのに、眠れなかった。
大きな翼は私にとって邪魔で仕方がないものでしかない。
ふわり、と舞い落ちてきた羽が落ちた。
私はそれを指先でそっとつまんだ。
「私に、こんなものいらないのに…。」
枕に顔を押し付けた。
不意にばさり、という羽ばたきの音がした。
「ハルト!?」
急いで起き上がると、窓際に男が1人たっていた。
「こんばんは。」
それは、明らかにハルトではなかった。
部屋の中にズカズカと入ってくる男は、ハルトと同じく翼が背中から生えていたが、羽はなくまるで蝙蝠のような翼だった。
「わ、ラッキー。翼が出てるの見られるなんて。」
「だ、誰?」
「俺は耀。耀って言うねん。」
多分、私より確実に身長は高い。
ベッドの上から見上げた顔は、綺麗に整っていて、日の光を知らないような真っ白な肌をしていた。
「あなたも、悪魔…?」
「んーん。俺はちゃうよ?」
俺の目の前で立ち止まったその人は、にっこり笑っていた。
「俺は、吸血鬼や。」
「きゅ、吸血鬼?」
もう頭が混乱して訳がわからない。
悪魔だの、吸血鬼だの、死神だの…。
「そ。人様からちょっぴり血を頂いて生活してんねん。まぁ、こっちも生きるためやし?」
「吸血鬼が何の用事なの!」
「俺な、あんたが気に入ったんや。」
くい、と顎を持ち上げられて、キスをされそうになる。
私は思わずそいつの頬を引っぱたいた。
「いったいなぁ~。」
「最低。何なの、あなた。」
「西野はよくて俺は最低?笑かしてくれるやんか。」
彼の眼を見ていたら、急に体の力が抜けてきて、その場にしゃがみこんでしまった。
「!?」
「あぁ、言い忘れたけどな、吸血鬼の眼は見たらあかんで?人なんか簡単にふぬけにできるんやから。」
そのままベッドに押し倒された。
「俺はな、欲しいものみんな手に入れな気がすまんの。」
「やだっ!」
「抵抗できるならしてみ?まぁ、無理やろうけど。」
ちゅ、と首筋に唇があてられた。
恐怖で全身の毛が逆立つようだった。
「そこまでにしろよ、耀。」
窓際から声が聞こえた。
「…何やねん、お前は人の邪魔するのが好きやなぁ。」
耀が私の上からどいて立ち上がった。
窓から入ってきたのは、耀と同じように翼を持つ人物。
「ハルト…?」
ハルトは私のほうを見ようとしなかった。
厳しい顔で耀を睨んでいる。
「血だらけのお前に言われることなんてなんもないはずやけど。」
「紗弥は俺のもんだ。」
「お前が突き放したんやろ?」
「いいから、出てけ。」
ハルトが耀を睨んだ。
耀は肩をすくめて窓から出た。
「またな、紗弥♪」
そういって耀は飛び立った。
彼がでていったあとに、気まずい沈黙だけが流れた。
「帰るよ。」
「ま、待ってよ!」
ベランダから飛び立とうとする、ハルトを思わず呼び止めた。
「た、助けてくれたんでしょ…?」
「……。」
「ありがとう。」
「礼なんて言われる覚えない。」
「でもっ!」
「俺のものに触ったやつを追っ払っただけだ。」
そう呟くハルトの横顔は、どこか儚く切なげだった。
「だったら!!」
まだ力の入らない、体を必死で起こした。
もう二度と、あんな風に別れるのはいやだった。
「ちゃんと、捕まえておいてよ。私は、ハルトのものなんでしょ?///」
こっちを向いたハルトの顔は、あの夜のハルトの顔ではなかった。
私が知っている、優しいハルト。
「俺は悪魔だ。お前には触れない。」
「そんなの関係ないよ!」
1歩、ハルトのほうに足を踏み出す。
もう、迷わない。
「私は、ハルトが好き。」




