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月と翼の夜  作者: 由宇
16/17

16.


寝室のベッドに寝転がって、眠ろうとしていた。

眠らなければ、私には翼が生えたまま。

泣きつかれるほど泣いたはずなのに、眠れなかった。


大きな翼は私にとって邪魔で仕方がないものでしかない。

ふわり、と舞い落ちてきた羽が落ちた。

私はそれを指先でそっとつまんだ。


「私に、こんなものいらないのに…。」


枕に顔を押し付けた。

不意にばさり、という羽ばたきの音がした。


「ハルト!?」


急いで起き上がると、窓際に男が1人たっていた。


「こんばんは。」


それは、明らかにハルトではなかった。

部屋の中にズカズカと入ってくる男は、ハルトと同じく翼が背中から生えていたが、羽はなくまるで蝙蝠のような翼だった。


「わ、ラッキー。翼が出てるの見られるなんて。」

「だ、誰?」

「俺は耀。耀って言うねん。」


多分、私より確実に身長は高い。

ベッドの上から見上げた顔は、綺麗に整っていて、日の光を知らないような真っ白な肌をしていた。


「あなたも、悪魔…?」

「んーん。俺はちゃうよ?」


俺の目の前で立ち止まったその人は、にっこり笑っていた。


「俺は、吸血鬼や。」

「きゅ、吸血鬼?」


もう頭が混乱して訳がわからない。

悪魔だの、吸血鬼だの、死神だの…。


「そ。人様からちょっぴり血を頂いて生活してんねん。まぁ、こっちも生きるためやし?」

「吸血鬼が何の用事なの!」

「俺な、あんたが気に入ったんや。」


くい、と顎を持ち上げられて、キスをされそうになる。

私は思わずそいつの頬を引っぱたいた。


「いったいなぁ~。」

「最低。何なの、あなた。」

「西野はよくて俺は最低?笑かしてくれるやんか。」


彼の眼を見ていたら、急に体の力が抜けてきて、その場にしゃがみこんでしまった。


「!?」

「あぁ、言い忘れたけどな、吸血鬼の眼は見たらあかんで?人なんか簡単にふぬけにできるんやから。」


そのままベッドに押し倒された。


「俺はな、欲しいものみんな手に入れな気がすまんの。」

「やだっ!」

「抵抗できるならしてみ?まぁ、無理やろうけど。」


ちゅ、と首筋に唇があてられた。

恐怖で全身の毛が逆立つようだった。


「そこまでにしろよ、耀。」


窓際から声が聞こえた。


「…何やねん、お前は人の邪魔するのが好きやなぁ。」


耀が私の上からどいて立ち上がった。

窓から入ってきたのは、耀と同じように翼を持つ人物。


「ハルト…?」


ハルトは私のほうを見ようとしなかった。

厳しい顔で耀を睨んでいる。


「血だらけのお前に言われることなんてなんもないはずやけど。」

「紗弥は俺のもんだ。」

「お前が突き放したんやろ?」

「いいから、出てけ。」


ハルトが耀を睨んだ。

耀は肩をすくめて窓から出た。


「またな、紗弥♪」


そういって耀は飛び立った。

彼がでていったあとに、気まずい沈黙だけが流れた。


「帰るよ。」

「ま、待ってよ!」


ベランダから飛び立とうとする、ハルトを思わず呼び止めた。


「た、助けてくれたんでしょ…?」

「……。」

「ありがとう。」

「礼なんて言われる覚えない。」

「でもっ!」

「俺のものに触ったやつを追っ払っただけだ。」


そう呟くハルトの横顔は、どこか儚く切なげだった。


「だったら!!」


まだ力の入らない、体を必死で起こした。

もう二度と、あんな風に別れるのはいやだった。


「ちゃんと、捕まえておいてよ。私は、ハルトのものなんでしょ?///」


こっちを向いたハルトの顔は、あの夜のハルトの顔ではなかった。

私が知っている、優しいハルト。


「俺は悪魔だ。お前には触れない。」

「そんなの関係ないよ!」


1歩、ハルトのほうに足を踏み出す。

もう、迷わない。


「私は、ハルトが好き。」


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