11.
考えるより先に、体が動いていた。
一直線に飛んでいった部屋には、コウアと、紗弥が向かい合っていた。
「ハルト?」
コウアの動きは早かった。
紗弥の後ろに立つと、鎌を首に当てた。
紗弥の顔が少しだけ引きつった。
「ハルト、邪魔しに来たんじゃないよな?」
「邪魔しに来たんだ、もちろん。」
「何考えてんだ?これはれっきとした仕事やで?」
「そんなん関係ない。」
コウアの目つきが鋭くなった。
「バカなこと言ってんじゃねぇよ。いくらお前がこいつのこと気に入ってても、これは決まったことなんだ。」
「嫌だ。」
「ハルト、もういいよ。」
紗弥の小さな声がした。
顔をあげて俺をじっと見つめてる。
「大体、ハルトに関係ないでしょ。私が死のうと生きようと。」
「関係あるんだよ!」
「どうして?」
「お前が居ないとつまんねぇんだよ、ここにいても。」
「そんなの、私に関係ないじゃん。」
「お前が好きだ。」
紗弥の目をまっすぐに見た。
驚いたように目を丸くする紗弥を見てもう一度言った。
「お前が好きだ、紗弥。」
俺に迷いはなかった。
人間に恋をするなんて初めてだったけど、それでも好きなことには変わりない。
「茶番は、そこまでだ。魂もらうぞ!」
コウアが鎌を振り上げた。
「…私も好きだよ、ハルト。」
紗弥は笑った。
すべてが、スローモションのように見えたが、俺は動くことができなかった。
鎌は紗弥の背中に吸い込まれるように刺さった。
「紗弥ぁ!!」
紗弥の体が前のめりに倒れる。
その途端、コウアの表情がこわばった。
「何だ……。何だよ、これ!?」
紗弥は倒れ掛かったものの、意識を失うことはなく、そのまま床に手をついて体を支えていた。
死神の鎌で切り裂かれること=魂を抜かれることであり、それは死を意味する。
一瞬のうちに魂は体を離れるのが普通なのに、紗弥はまだ生きていた。
「何でだ!?何で魂が抜けないんだよ!?」
コウアが焦ったように叫んだ。
「いっ…!」
小さく呻いた後に紗弥が何かを押さえ込めるように、自分の体を抱きしめた。
「紗弥!」
俺は紗弥に駆け寄って、体を支えようとした。
“バチッ!!”
「いってぇっ!!」
紗弥の体に触れようとしたら、電気のようなものが手に流れた。
俺はそのままその場に立ち尽くした。
「何だ…?」
コウアも唖然として紗弥を見つめる。
紗弥はぎゅっと目を瞑り、小刻みに震えている。
時折苦しそうに息を吐いて、涙をにじませた。
「あぁあ――っ!!」
ばさり、という音とともに、紗弥が何かに解き放たれたかのように体の力を抜いた。
「翼…?」
紗弥の背中には、羽の一枚一枚まで純白の、真っ白な翼が生えていた。
「くそっ…。聞いてないぞ、こんなの。」
コウアが悪態づいて、部屋をでていった。
俺はその場で呆然とするしかなかった。
「はぁ…、はぁ…。」
肩で息をして、紗弥は立ち上がった。
「ハルト…?」
「紗弥……。」
紗弥が動くと、ふわりと翼が揺れて風が起きた。
とてもとても、柔らかい風。
「天使、なんだ…。」
「私が…?」
「そうとしか、説明できない。」
俺はそのままベランダに出て、手すりに上った。
「紗弥。」
「え?」
「もう、さよならだ。」
俺はそのまま空に飛び立った。
ただひたすらに、上へ、上へ……。
「あぁああああ――――――っ!!!!」
初めて、自分の立場を恨んだ。
紗弥の存在を恨んだ。
明るい町を上から見下ろして、誓った。
全てを、ぶち壊してやる、と……。




