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月と翼の夜  作者: 由宇
11/17

11.


考えるより先に、体が動いていた。

一直線に飛んでいった部屋には、コウアと、紗弥が向かい合っていた。


「ハルト?」


コウアの動きは早かった。

紗弥の後ろに立つと、鎌を首に当てた。

紗弥の顔が少しだけ引きつった。


「ハルト、邪魔しに来たんじゃないよな?」

「邪魔しに来たんだ、もちろん。」

「何考えてんだ?これはれっきとした仕事やで?」

「そんなん関係ない。」


コウアの目つきが鋭くなった。


「バカなこと言ってんじゃねぇよ。いくらお前がこいつのこと気に入ってても、これは決まったことなんだ。」

「嫌だ。」

「ハルト、もういいよ。」


紗弥の小さな声がした。

顔をあげて俺をじっと見つめてる。


「大体、ハルトに関係ないでしょ。私が死のうと生きようと。」

「関係あるんだよ!」

「どうして?」

「お前が居ないとつまんねぇんだよ、ここにいても。」

「そんなの、私に関係ないじゃん。」

「お前が好きだ。」


紗弥の目をまっすぐに見た。

驚いたように目を丸くする紗弥を見てもう一度言った。


「お前が好きだ、紗弥。」


俺に迷いはなかった。

人間に恋をするなんて初めてだったけど、それでも好きなことには変わりない。


「茶番は、そこまでだ。魂もらうぞ!」


コウアが鎌を振り上げた。


「…私も好きだよ、ハルト。」


紗弥は笑った。

すべてが、スローモションのように見えたが、俺は動くことができなかった。

鎌は紗弥の背中に吸い込まれるように刺さった。


「紗弥ぁ!!」


紗弥の体が前のめりに倒れる。

その途端、コウアの表情がこわばった。


「何だ……。何だよ、これ!?」


紗弥は倒れ掛かったものの、意識を失うことはなく、そのまま床に手をついて体を支えていた。

死神の鎌で切り裂かれること=魂を抜かれることであり、それは死を意味する。

一瞬のうちに魂は体を離れるのが普通なのに、紗弥はまだ生きていた。


「何でだ!?何で魂が抜けないんだよ!?」


コウアが焦ったように叫んだ。


「いっ…!」


小さく呻いた後に紗弥が何かを押さえ込めるように、自分の体を抱きしめた。


「紗弥!」


俺は紗弥に駆け寄って、体を支えようとした。


“バチッ!!”


「いってぇっ!!」


紗弥の体に触れようとしたら、電気のようなものが手に流れた。

俺はそのままその場に立ち尽くした。


「何だ…?」


コウアも唖然として紗弥を見つめる。

紗弥はぎゅっと目を瞑り、小刻みに震えている。

時折苦しそうに息を吐いて、涙をにじませた。


「あぁあ――っ!!」


ばさり、という音とともに、紗弥が何かに解き放たれたかのように体の力を抜いた。


「翼…?」


紗弥の背中には、羽の一枚一枚まで純白の、真っ白な翼が生えていた。


「くそっ…。聞いてないぞ、こんなの。」


コウアが悪態づいて、部屋をでていった。

俺はその場で呆然とするしかなかった。


「はぁ…、はぁ…。」


肩で息をして、紗弥は立ち上がった。


「ハルト…?」

「紗弥……。」


紗弥が動くと、ふわりと翼が揺れて風が起きた。

とてもとても、柔らかい風。


「天使、なんだ…。」

「私が…?」

「そうとしか、説明できない。」


俺はそのままベランダに出て、手すりに上った。


「紗弥。」

「え?」

「もう、さよならだ。」


俺はそのまま空に飛び立った。

ただひたすらに、上へ、上へ……。



「あぁああああ――――――っ!!!!」



初めて、自分の立場を恨んだ。

紗弥の存在を恨んだ。

明るい町を上から見下ろして、誓った。



全てを、ぶち壊してやる、と……。


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