とあるピロの話(ショートショート)
とあるピエロの話。
男はピエロとしてサーカスで働いていたが、そのサーカスが経営難で廃業し、別のサーカスを探すが見つからない。それまでのつなぎと考えて、他の職種で就職活動をするもどこも雇ってはくれなかった。それどころか、男のピエロの職歴を蔑む輩ばかり。
男は世の中を呪う。
そこへ悪魔が登場し「そんなに世の中が憎いのなら、人を不幸にしてあざけり笑う人生はいかが?」と、もちかけた。
自暴自棄になっていた男は、契約を交わしてしまう。
男には特別な能力が与えられた。ピエロを模した姿に変身すれば、悪魔に準じた力が使えるようになるのである。
ただし、それは人を不幸にするためにしか使えない。もしも人を幸せにするために使ってしまったら契約は終了の上、即座に魂を差し出さなければいけない約束だ。
男は真っ先に、彼を侮蔑した者たちを不幸のどん底へと送り込んだ。得も言われぬ快感。男は調子づき、多くの人々を不幸にする。そして被害者たちは男同様に自暴自棄となり、あげくに悪魔と契約を交わす。悪魔が男に破格の力を与えたのは、その為だったのだ。
男は今日も一人の人間を不幸へと導いたが、それがかつて愛した人の息子だと知る。彼の不幸を取り消すには、男が自らの力を使うしかない。だがそれは、直ちに魂を悪魔へ差し出す、すなわち輪廻転生不可能な完全なる死を意味していた。
男は悩む。悩み抜く。だが、彼は愛した人の息子を助ける事をしなかった。すなわち、それが男の本性だったのである。
だが、ひとかけらの良心の残っていた男は、自らの判断に自信を持てないでいた。
その時である。
「はーっ、はっ、はっ!」
高らかな笑い声と共に、悪魔が現れた。
気がつくと、男は悪魔と初めて出会った路地に立っており、姿もまだピエロの化け物ではなく人間そのものであった。
「ど、どういう事だ……」
男は呆然としながらも、悪魔へ問う。
「合格です。私が見込んだ通り、あなたには見どころがある」
依然として、男には何の事か理解できない。
「あなたが私と出会ってから、まだ数分しか経っていないのですよ?」
男はここ数カ月の記憶を呼び覚まし、ますます混乱した。
「あなたは既に何ヶ月も過ぎている思っていらっしゃるでしょうが、それは私が魔力で見せた予知夢なんです。
実際に契約をしたら、どうなるかのね」
悪魔が、したり顔で言う。
「なんで、そんな事を……」
男がおずおずと尋ねると、悪魔は、
「まぁ、試験のようなものですよ。
あなたに与える約束の力は、悪魔に準じるものですからね。もしその力を少しでも良い事に使われたら、私の勤務評定に響くんですよ。ボーナスがゼロになるほどに……。
だから、試させて頂きました」
と、笑って見せた
あぁ、だからさっき”合格”と……。
男は、段々と状況を理解していく。
「さぁ、あとはあなた次第です。
本物の契約をなさいますか?」
悪魔が、契約書を差し出した。
男の僅かに残った良心が、紫の炎と共に儚く消える。
男は、まぎれもない悪魔の道化となった。
【終わり】




