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とあるピロの話(ショートショート)

作者: 藻ノ かたり
掲載日:2026/04/16

とあるピエロの話。


男はピエロとしてサーカスで働いていたが、そのサーカスが経営難で廃業し、別のサーカスを探すが見つからない。それまでのつなぎと考えて、他の職種で就職活動をするもどこも雇ってはくれなかった。それどころか、男のピエロの職歴を蔑む輩ばかり。


男は世の中を呪う。


そこへ悪魔が登場し「そんなに世の中が憎いのなら、人を不幸にしてあざけり笑う人生はいかが?」と、もちかけた。


自暴自棄になっていた男は、契約を交わしてしまう。


男には特別な能力が与えられた。ピエロを模した姿に変身すれば、悪魔に準じた力が使えるようになるのである。


ただし、それは人を不幸にするためにしか使えない。もしも人を幸せにするために使ってしまったら契約は終了の上、即座に魂を差し出さなければいけない約束だ。


男は真っ先に、彼を侮蔑した者たちを不幸のどん底へと送り込んだ。得も言われぬ快感。男は調子づき、多くの人々を不幸にする。そして被害者たちは男同様に自暴自棄となり、あげくに悪魔と契約を交わす。悪魔が男に破格の力を与えたのは、その為だったのだ。


男は今日も一人の人間を不幸へと導いたが、それがかつて愛した人の息子だと知る。彼の不幸を取り消すには、男が自らの力を使うしかない。だがそれは、直ちに魂を悪魔へ差し出す、すなわち輪廻転生不可能な完全なる死を意味していた。


男は悩む。悩み抜く。だが、彼は愛した人の息子を助ける事をしなかった。すなわち、それが男の本性だったのである。


だが、ひとかけらの良心の残っていた男は、自らの判断に自信を持てないでいた。


その時である。


「はーっ、はっ、はっ!」


高らかな笑い声と共に、悪魔が現れた。


気がつくと、男は悪魔と初めて出会った路地に立っており、姿もまだピエロの化け物ではなく人間そのものであった。


「ど、どういう事だ……」


男は呆然としながらも、悪魔へ問う。


「合格です。私が見込んだ通り、あなたには見どころがある」


依然として、男には何の事か理解できない。


「あなたが私と出会ってから、まだ数分しか経っていないのですよ?」


男はここ数カ月の記憶を呼び覚まし、ますます混乱した。


「あなたは既に何ヶ月も過ぎている思っていらっしゃるでしょうが、それは私が魔力で見せた予知夢なんです。


実際に契約をしたら、どうなるかのね」


悪魔が、したり顔で言う。


「なんで、そんな事を……」


男がおずおずと尋ねると、悪魔は、


「まぁ、試験のようなものですよ。


あなたに与える約束の力は、悪魔に準じるものですからね。もしその力を少しでも良い事に使われたら、私の勤務評定に響くんですよ。ボーナスがゼロになるほどに……。


だから、試させて頂きました」


と、笑って見せた


あぁ、だからさっき”合格”と……。


男は、段々と状況を理解していく。


「さぁ、あとはあなた次第です。


本物の契約をなさいますか?」


悪魔が、契約書を差し出した。


男の僅かに残った良心が、紫の炎と共に儚く消える。


男は、まぎれもない悪魔の道化となった。



【終わり】



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