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光と影、二つの魂  作者: そら
第一章 「光の朝と、影の夜明け前」
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第六話 ノクス編 七賢院の密偵と、裏社会の恐怖

夜が深くなった。


倉庫で捕えた護衛三名——七賢院しちけんいんの密偵の護衛として雇われた者たちの尋問は十分もかからなかった。

カインが担当した。


カインの拷問は無駄がない。

必要な情報だけを最短で抜き出す。

長年の暗殺稼業で磨いた技術だ。

声を上げる間もなく三人は全てを吐いた。


「全部吐きました」


カインがノクスに報告した。


「密偵は七賢院の直属組織『影糸かげいと』の人間です。王都に六つの拠点を持ち、それぞれで別々の情報工作を行っている。うち一つの拠点は、孤児院の土地問題とも繋がっています」


ノクスは聞きながら地図に印をつけた。


「六つの拠点の場所は?」


「全て把握しました。ただし——残り五つを今夜動けば、七賢院は一斉に残りを隠蔽する可能性があります。段階的に、時間をずらして潰す方が確実です」


「正しい判断だ。順番は?」


エルザが手持ちの書類を広げた。


「優先度は三点です。まず——王宮内部の情報収集拠点。王妃の毒を手配した経路はここを経由しているはずです。次に——商業区の情報屋ネットワーク。七賢院の資金の流れを追うにはここを抑える必要があります。最後は——貴族街の接触ルート」


ノクスは地図を見た。


「今夜は王宮内部の拠点だ」


カインが目を細めた。


「王宮内に入るのですか」


「王妃に毒を盛った経路を断つ。同時に——今日、王宮に聖者が入った。七賢院はすでに動いているはずだ」


王宮の裏口——通称「回廊の抜け道」と呼ばれる場所をノクスは迷わず目指した。


なぜここを知っているのか、と考えたことは何度もある。

しかし考えても答えは出ない。

ただ、知っている。

体が覚えている。


裏口の石壁、三つ目の煉瓦が外れる——その知識が当たり前のように手の中にある。


三十分後、ノクスは目的の部屋の前に立っていた。


扉の向こうに人の気配が二つ。

一つは魔法使いだ。

段階は五。


ノクスは扉を蹴り開けた。

部屋の中にいた二人が——文官姿の男と、黒衣の魔法使いが——瞬時に動いた。


魔法使いが術式を展開する。

五段階魔法「ライトニングスピア」——雷の槍が七本、ノクスに向けて放たれた。


ノクスは左手を前に出した。掌から、白い光が広がる——「魔力吸収まりょくきゅうしゅう」。


七本の雷槍が、ノクスの掌に吸い込まれた。


「......なに......?」


魔法使いが声を失った。


五段階——それはこの国の騎士団上位に匹敵する力だ。

回復魔法における六段階の使い手は大陸にアルス一人しかいないとされるが、攻撃魔法においても五段階はほぼ頂点に近い存在とされていた。

その男が放った七本の雷槍が黒いフードの男の掌一つで消えた。


一段階の差がすでに絶望だ。

ならば——この男との差は。


「魔力吸収」は理論上、存在が確認されているが実用できた術者が歴史上ほぼいない——八段階以上の魔法的素養がなければ発動すら不可能とされる術式だ。


「五段階の魔法が、私の掌の中で消えました。意味が分かりますか?」


ノクスは静かに言った。


「この吸収した魔力は今、私の体内に蓄積されています。私が放てば——あなたの五段階の十倍の威力で返ってくる。受け止められますか? 素直に話せば——苦しまずに済む」


文官が先に手を上げた。

魔法使いも続く。


「七賢院の王宮内連絡経路の全容を話してもらう。話せば——苦しまずに済ませてやる」


尋問が終わった後、ノクスは倉庫の外に出た。夜風が路地を抜けていく。


気配が、ある。

屋根の上——三十メートルほど先。

魔力の残滓が薄く漂っている。

観測型の術式だ。

魔力の密度を遠距離から測る類の魔法——七賢院の学術部門が使う手だ。


ノクスはその気配を感知しながら、動かなかった。


——帰れ。そして報告しろ。


殺すより、生かして帰す方が効く。

測定器の上限を振り切った魔力の数値——それを七賢院の中枢に届けさせる。

恐怖は証言によって育つ。

証拠を積む戦いにおいて敵の萎縮は武器になる。


気配が、遠ざかっていった。

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