第四・五話 幕間 カイン視点 ——影の仕事を外から見た男
カインは倉庫の外で、部下たちと共に待機していた。
扉が蹴り開けられる音がした。
次の瞬間、怒号が上がった。
それから——沈黙。
早い、とカインは思った。
長年、暗殺稼業に身を置いてきた男の耳が戦闘の流れを音だけで読んでいた。
最初の怒号から、護衛たちが武器を落とすまで——体感で三分もかかっていない。
しかし倉庫の中には、段階三から四の魔法使いが二名と名の知れた剣士が複数いた。
それを、ノクスは一人で制した。
「外に逃げる者はいませんでした」
部下の一人が報告してきた。
当然だ。
倉庫の扉は一つ、窓は高所にあって脱出には向かない。
しかしカインが「当然」と思えるのは——この男の仕事を長く見てきたからだ。
初めてノクスを見た時のことを、カインは時々思い出す。
黒爪ギルドを率いていた頃、カインは「この男を仕留めろ」という依頼を受けた。
依頼主は七賢院の下部組織だった。
依頼料は、カインのそれまでの最高報酬の三倍だった。
それほどの男だということだ——そうカインは解釈した。
結果は——敗北だった。
ノクスは傷一つ負わなかった。
カインが放った毒針は弾かれ五人の精鋭が次々に沈んでいった。
カインが最後に刃を向けた時、ノクスはただ静かに言った。
「お前は仕事をしただけだ」と。
殺されなかった。
それどころか、引き抜かれた。
それから五年。
カインはノクスのもとで働いている。
この男が何者なのかは、今もよく分からない。
ただ——竜の血が体内に流れているという事実と、その圧倒的な力の根拠がおぼろげながらに繋がり始めている。
扉が開いて、ノクスが出てきた。
「全員制圧した。密偵の三名は縛って奥に置いた。尋問を始めてくれ」
ごく静かな声だった。
乱れた呼吸も、返り血も、ない。
カインは頷き、部下たちと共に倉庫に入った。その背中でノクスが言った言葉が、耳に残った。
「怪我をした者はいるか」
——自分の部下を、確認していた。
亡者という名前が示す冷酷な殺戮者の像と——目の前にいる男の実像が、カインの中でいつも少しだけずれている。




