第二話 ノクス編 七賢院の逆用——罠の内側へ
ノクスは七賢院の偽情報を三つの方向から確認した。
一つ目——情報の出所を追った結果、七賢院の情報部門「影糸」の下部工作員を経由していることが分かった。
二つ目——内容を精査したところ、細部に意図的な誇張と誤りが混じっていた。
聖枢機卿の「弱点を洗い出している」という部分に整合性がない。
三つ目——ドゥルスに確認を取ったところ、この種の偽情報工作は「二つの力を引き離す」ための常套手段だと教えてくれた。
「七賢院は俺と枢機卿を警戒している」
ノクスは地図を見ながら言った。
エルザが静かに言った。
「二人が連携すると、七賢院には止められないと判断したのでしょう」
「だろうな」
カインが腕を組んだ。
「しかし——枢機卿が偽情報を信じれば、俺たちへの警戒が高まる」
「信じるかどうかは、あの男の判断次第だ」
ノクスは地図から目を上げた。
なぜか——信じないと思った。
根拠はない。
しかし、あの男が下手な偽情報に乗るとは思えない。
何かが手に取るように分かる感覚があった。
それが何なのか説明できない。
ただ——分かる。
「ドゥルス」
「はい」
ドゥルスが部屋の隅から近づいてきた。
「七賢院がこの偽情報を流した経路を逆に使う。どの工作員がどの経路を使ったか——全て洗い出せるか」
「七賢院の暗号体系は知っています。ただし、最近変更された部分は把握できていない可能性があります」
「どこまで分かる」
「賢者四番が管轄する影糸の、王都内部の連絡網については——ほぼ完全に」
ノクスは少し考えた。
「やれ。賢者四番の工作員のリストが揃えば——証拠として使える」
ドゥルスは頷き書類を手に取った。
エルザと共に作業を始める。
その背を見ながらノクスは窓の外に目を向けた。
夜の王都。
光と影の境目が石畳の上を走っている。
同じ夜——聖枢機卿も何かを考えているはずだ。
同じ偽情報を受け取ってどう判断しているか。
ノクスは頭の奥の白いローブの残像を一瞬意識した。
それから目を閉じ意識を戻した。
今夜やるべきことがある。




