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光と影、二つの魂  作者: そら
第三章 鏡の前で
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第一話 アルス編 偽情報という刃

七賢院からの書状が届いたのは夕刻のことだった。


封筒に差出人の名はない。

しかし中身の文章は丁寧に書かれていて、ところどころに証拠として添付された書類が挟まっていた。


「亡者があなたの排除を計画している——調査官セリア・ハルトを手駒として使い、聖枢機卿カーディナルの弱点を洗い出す工作が進んでいる」


アルスは書状を二度読んだ。

それから机の上に置いた。


シルヴィアが腕を組んで立っている。

ライトは書類を手に持ったまま読み終わるのを待っていた。


「どう見る」とアルスは聞いた。


「七賢院の偽情報です」シルヴィアは即座に言った。


「添付された書類は、様式が正規の騎士団のものに近い。しかし細部が微妙に違う。本物を知っている者が作った偽物ですが——本物ではない」


「私も同じ見立てだ」


アルスは書状を手に取りもう一度眺めた。


亡者と調査官セリア・ハルトが組んでいる——その部分が引っかかった。

引っかかる、というより何かが違うという感覚だ。

説明できない。

しかし。


「セリア・ハルトが亡者の手駒になるとは思えない」


アルスは静かに言った。


「根拠は?」とシルヴィアが聞いた。


「直感だ」


シルヴィアは少しの間アルスを見た。

それから溜息をついた。

珍しい。


「アルス様の直感は、これまでの実績から言えば根拠の一つとして数えて構わないとは思っています。しかし——」


「危険だと言いたいのか」


「半信半疑でいてください。それだけです。セリア・ハルトへの警戒を強める必要はありませんが、完全に信頼するのもまだ早い」


アルスは頷いた。

それが正しいと分かった。


「分かった。ただし——この偽情報を七賢院が流したという事実は、それ自体が証拠になる。どの経路で届いたか、書状の様式、添付書類の出所——全て記録しておいてくれ」


「既に着手しています」


ライトが手帳を開いた。


夜になる前にもう一つのことが起きた。


孤児院から連絡書が届いた。

院長カーリンの字でこう書かれていた。


「昨夜、黒いフードの方がいらっしゃいました。子供たちが気づいて声をかけたところ、黒い包みを置いていかれました。中身は冬用の毛布が十枚と、お菓子が少し。名前はおっしゃいませんでしたが、子供たちはまた来てほしいと言っています」


アルスはその手紙を三度読んだ。


黒いフード。


匿名の寄付。

孤児院への——


「……」


声が出なかった。

胸の奥で何かが揺れた。

その揺れ方が奇妙だった。

懐かしいとも言えない。

しかし——初めて知った気もしない。


「アルス様?」


ライトが声をかけた。


「何でもない」


アルスは手紙を丁寧に折り書類の間に挟んだ。


黒いフードの者が孤児院を訪れる。

子供たちを怖がらせることなく毛布を置いていく。


——亡者、と呼ばれている男が。


偽情報が言う「敵」とこの行動が一致しない。


アルスはそれ以上考えるのを止めた。

しかし——止めようとするほどその違和感は消えなかった。


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