第七話 アルス&ノクス編 それぞれの戦場の終わりに
王都ラーテスの空が白み始める頃。
アルスは神殿の執務室で山積みの書類の前にいた。
ガロン典医の調査が進んでいる。
七賢院の下部組織「三角商会」からの送金記録。
王宮内の不審な人事異動。
それらを繋ぐ糸が少しずつ見え始めていた。
ライトが書類を一枚持ってきた。
「アルス様。南方から第一報が届きました。集落に竜の被害が出ているとのことです」
「竜」
アルスは繰り返した。
「はい。詳細はまだ不明ですが……騎士団の報告書によれば、民家が数件焼かれ、死傷者が出ているようです」
アルスは窓の外を見た。
夜明けの光が王都の石畳を染め始めている。
南方の竜。
七賢院の工作。
王妃への毒。
ライトへの暗殺。
一つ一つは別々に見える。
しかしどこかで繋がっている——その感覚が最近強くなっていた。
「第二報を待て。竜の件は、状況が分かり次第、教会として支援の準備を始める」
「はい」
ライトが下がった。
アルスは右手を見た。
今朝の傷はすでに治してある。
しかし——なぜ毎朝同じ場所についているのか。
その問いへの答えはまだなかった。
* * *
同じ頃。
夜がまだ終わりかけていた王都の外れでノクスは隠れ家に戻る途中だった。
南方の竜の情報は、ノクスのもとにも届いていた。
エルザが「七賢院が陽動に使う可能性がある」と分析していた。
それは置いておく。
今は証拠だ。
今夜、軍部の証拠を一つ積んだ。
ドゥルスという新しい情報源を得た。
七賢院の偽情報工作を逆手に取る道が見えた。
十分だ。
ノクスは空を見上げた。
東の空が、かすかに白くなっていた。
夜が終わる。
右手首に視線を落とした。
今夜もついている。
薄い傷。
「……また、か」
低く呟いた。
頭の奥に何かが漂っていた。
白いローブ。
子供たちの声。
見たことのない顔。
ノクスはその感覚を今夜は少しだけ打ち消さずに置いておいた。
風が吹いた。
夜の最後の冷たさだ。
やがて——この男とあの男が向き合う時が来る。
それがいつかは分からない。
しかし——近い。
夜が終わろうとしていた。




