第六話 ノクス編 偽情報——引き裂く工作
エルザが報告書を置いた。
「七賢院から、ノクス様に向けた偽情報が流れています」
ノクスは書類から目を上げた。
「内容は」
「『聖枢機卿が騎士団と組んで、あなたを追っている』というものです。情報源は複数で、意図的に信頼性を高める工作がされています」
ノクスは少し考えた。
聖枢機卿——アルス・ヴェイン。
エルザが調べた報告では毎朝右手首を回復魔法で治すという習慣を持つ男だ。
なぜ毎朝同じ場所を治すのか——その謎がまだ解けていない。
「調査官セリア・ハルトの動きは」
「今朝、神殿周辺で目撃情報の確認をしていたようです。あなたを直接追っています」
「その枢機卿と、同じ神殿にいたわけか」
ノクスは立ち上がり窓の外を見た。
七賢院の工作は巧妙だ。
セリアが枢機卿を調査し、枢機卿がセリアに警戒を向け——互いが互いを疑えば七賢院の動きを誰も止められなくなる。
「この情報は使える」
「……使える、とは」
「逆に流せ。七賢院が偽情報を流しているという事実そのものを、証拠として積む。どの経路で誰がどんな形で操作したか——それが分かれば、七賢院の工作員の特定に繋がる」
エルザは少しの間ノクスを見た。
「……ノクス様は、聖枢機卿を疑っていないのですか」
「疑う理由がない」
簡単に言った。
「七賢院が引き裂こうとしているということは、俺と枢機卿が繋がると七賢院が困るということだ。二つの力が同じ方向を向けば——七賢院には止められない」
夜が更けていく。
ノクスは地図に目を戻した。
そしてもう一つの情報が頭の端に引っかかった。
枢機卿は毎朝右手首を回復魔法で治す。
俺も、毎朝右手首に傷がつく。
それが何を意味するのか——まだ、言葉にならない。




