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第五・五話 幕間 セリア視点——廊下の角で見たもの
偶然だった。
セリアが神殿の廊下を歩いていたのは亡者の目撃情報の確認のためだった。
夜明け前に神殿周辺を徘徊する不審な人物——複数の証言があり、確認に来ていた。
角を曲がる直前に気配を感じた。
調査官の本能で足を止め壁際に張り付いた。
見えた。
黒衣の男が刃を抜き、ライトという補佐官に向かった瞬間——聖枢機卿が動いた。
一歩。
右手で刃を止めた。
素手で。
セリアは息を止めた。
速度がおかしい。
黒衣の男は暗殺者だ。
セリアの目から見ても訓練された動きだった。
刃を振る速度は一般の兵士では目で追えないレベルだ。
しかし聖枢機卿はそれを「見てから止めた」。
反射ではない。
予測でもない。
ただ、見えていた。
セリアは手帳を取り出し小さく書いた。
「常人外の速度。6段階の回復魔法師が——なぜ」
角の向こうで、聖枢機卿が右手を確認しているのが見えた。
回復魔法をかける。
傷が消える。
その所作はいつも通りの穏やかな「聖者」の動作だった。
まるで、今起きたことが日常であるかのように。
セリアはその場を離れた。
足音を立てずに。
振り返らずに。
神殿の外に出てから冷たい朝の空気を吸った。
「おかしい」
独り言だった。
しかし確信があった。
聖枢機卿アルス・ヴェインという男は——自分が調べているのとは別の、もっと大きな何かの中にいる。




