第二話 ノクス編 軍部の影——七賢院の根
夜の王都は、二つの顔を持つ。
表通りの居酒屋が賑わい、衛兵が角を曲がり市民が家路を急ぐ——それが一つ。
もう一つは、その光の届かない路地の奥に別の秩序で動く人間たちの世界だ。
ノクスはその夜、軍部の下級将校が密かに使う倉庫を押さえていた。
エルザの情報によれば、この倉庫は表向き「民間の荷預かり業者」の施設だが、実際には七賢院の軍部工作ネットワークの中継点として機能している。金の流れ、命令書、接触記録——そうした証拠の断片が、ここを経由して軍部の上層部に届いている。
「三名います」カインが静かに言った。
「内二名は七賢院の影糸。残り一名は……軍の人間です」
ノクスは頷いた。
「軍の人間は生かしておけ。名前と所属が分かれば十分だ」
「承知しました」
制圧は静かに、迅速に終わった。
残された書類の中に、七賢院から軍部上層部への資金送金記録があった。
受取人の名前が四つ。
階級と照合すれば、軍の中枢にどれだけ七賢院の手が伸びているかが分かる。
「エルザ」
「はい」
「この名前を全員、騎士団の調査官——セリア・ハルトが追えるよう、情報の道筋を作れ。直接渡すな。彼女が自分で辿り着いたように見せる」
エルザは書類を手に取りながら静かに答えた。
「……なぜ直接渡さないのですか」
「証拠は第三者が独立して発見したものでなければ法廷では弱い」
ノクスは書類を一枚確認しながら言った。
「俺が集めた証拠を俺が出しても裏社会の男の言葉にしかならない。だが騎士団の調査官が正規の手続きで発見した証拠なら——それは法廷に出せる」
エルザは少し間を置いてから、「分かりました」と言った。
夜が深くなっていく中で、ノクスは地図を広げた。
軍部、財務、司法——七賢院の根はこの国のあらゆる場所に伸びている。
一本ずつ、丁寧に切っていく。
それ以外に、方法はない。




