第十一話 アルス×セリア編 セリアの訪問——気づきの芽
三日後の昼下がり。
神殿の廊下をアルスが歩いているとライトが小走りで追いついてきた。
「アルス様、騎士団の調査官が面会を求めています」
「誰だ?」
「セリア・ハルトという女性です。亡者の追跡調査との関連で、神殿周辺の不審者情報について確認したいとのことです」
アルスは歩みを緩めた。
セリア・ハルト——その名前を聞いて、なぜか胸の奥に小さな波が立った。
「通してくれ」
応接室に戻るとセリアが立って待っていた。
金色の髪を束ねた、騎士団の制服を着た女性だ。
真っ直ぐな目がアルスを見た。
「お時間をいただきありがとうございます、聖枢機卿様。騎士団調査局のセリア・ハルトです」
「どうぞ、お座りください」
二人が向かい合う。
「亡者の追跡調査を担当しております。この数週間、王都東区や商業区で、彼が関与したと思われる事件が複数発生しています。神殿周辺でも、夜間に不審な人物を目撃したという報告があり、念のためにご確認に参りました」
「残念ながら」アルスは微笑んだ。「私は夜になるとひどく疲れて眠ってしまうので、夜間の出来事については何も」
「そうですか」
セリアはアルスの目を見た。
澄んだ、透き通るような目だった。
——しかし、一瞬だけ。
ほんの一瞬だけその瞳の奥に何か別の色が見えた気がした。
気のせいか、とセリアは思った。
セリアが退席する際——アルスが卓上の書き物に手を伸ばした。
孤児院への定期連絡書らしい。
さらさらと数行を書き、封をする。
その筆跡が一瞬だけセリアの目に入った。
——待て。
セリアは扉を出てから、廊下で立ち止まった。
証拠資料の中にあの字がある。
三ヶ月前、孤児院に届いた匿名の封筒——金貨五十枚と差出人のない一文。
騎士団が回収し「亡者」案件の参考資料として保管しているものだ。
似ている——と思った。
確信ではない。
一瞬見ただけだ。
しかし調査官の目は一度引っかかったものを手放さない。
セリアは手帳を取り出し短く書いた。
「筆跡——要確認」
扉が閉まった後ライトが小声で言った。
「......何か、気になるものを見つけたような顔をしていましたね」
「知っている」
「最初から、見ていたと思います。偶然気づいたのではなく」
「分かっている」
アルスは窓の外を見た。
セリアが神殿の外に出ていく後ろ姿が見えた。
真っ直ぐな歩き方だ------と、アルスはなぜか思った。
まるで、以前にその歩き方を知っていたかのように。




