第十話 アルス編 聖枢機卿と賢者評議会の使者——公開審議という刃
翌日。
神殿の応接室にラーテス賢者評議会の使者が現れた。
使者は四十代の男で、ラーテス賢者評議会の紋章が入った紺色の外套を着ていた。
表情は丁寧に作られているが目に油断のなさが滲んでいる。
応接室にはアルス、ライト、シルヴィアの三人が揃っていた。
「聖枢機卿様、本日はお時間をいただきありがとうございます。ラーテス賢者評議会を代表し、孤児院の土地問題について改めてご相談申し上げたく参りました。評議会としては、あの土地を学術施設として活用したいと考えております。孤児院の子供たちには、より良い施設を別の場所に用意いたします——」
「シルヴィア」
アルスが横に声をかけた。
シルヴィアが一枚の書類を使者の前に置いた。
「先週、賢者評議会の名で孤児院周辺の商人三名に圧力をかけた記録です。食料供給の停止を強要しようとした、との証言を得ています」
使者の表情が一瞬固まった。
「そのような事実は——」
「否定なさるなら、証人をこの場にお呼びすることもできます」
シルヴィアが静かに言った。
表情は変わらない。
「お時間は? 一名は今この神殿の中にいますが」
使者が黙った。
アルスは静かに口を開いた。
「ラーテス賢者評議会の学術への貢献は理解しています。しかし——子供たちの生活を人質に取ることが、学術の精神に合致するとは思えない。あの孤児院の土地は、教会が正当な手続きで取得したものです。その件については、既に公開審議を申請しています。審議の場で、評議会の要求の法的根拠を示していただけますか?」
「——公開、審議......」
使者が目を細めた。
七賢院の動きは常に水面下で行われる。
公の場に引き出されればその手段の多くが批判にさらされる。
「もし賢者評議会が審議に応じなければ——それ自体が、市民への説明になります」
シルヴィアが続けた。
「教会の最高位の枢機卿と、賢者評議会が、公開の審議から逃げた——という事実は、民が判断します」
沈黙が落ちた。
「......本日のご意見、評議会に持ち帰ります」
使者が去った後、シルヴィアが言った。
「七賢院はこの件で、直接的な手は打てなくなった。ただし——別の角度からの圧力は来るでしょう。次は——聖枢機卿を排除することです」
「私を?」
「七賢院の最大の障害はアルス様です。私たちは、アルス様の身辺に最大の注意を払う必要があります」
アルスは静かに聞いていた。
「君たちを巻き込みたくない、と言っても——」
「言わないでください」
シルヴィアが遮った。
「私たちは自分の意思でここにいます。アルス様の安全を守ることが、私たちの仕事です」
ライトも頷いた。
アルスはしばらく二人を見た。
それから静かに笑った。
「......ありがとう」




