第八話 ノクス編 ノクスの目的——七賢院を法で断罪する
その夜。
ノクスは一人で王都郊外の廃神殿にいた。
廃神殿は千年前に建てられたとされる石造りの遺構で、王都の外れの森の中に半ば埋もれるように存在している。
ノクスはその奥の間の壁に刻まれた文字を、指先に灯した小さな魔法の光で照らして見ていた。
古代語だ。
しかしノクスには------読める。
「竜血の末裔は、世界が忘れた時に目覚める。昼と夜の境を歩き、光の中に影を宿し、影の中に光を持つ——」
千年前、古代竜族と人間の間に「竜血の契約」が結ばれた。
一部の人間の血脈に、竜の魔力構造が組み込まれた。
「根源魔力」と呼ばれるその力は通常の魔法適性とは根本的に異なる。
竜の魔力は「段階」ではなく「密度」で語られる。
その密度が、現代の魔法測定では「十段階以上」と計測されるため便宜上「十段階」と呼ばれている。
ノクスが魔法十段階を使える理由は、これだ。
「昼と夜の境を歩く——」
ノクスはその一行を繰り返した。何かが引っかかる。
「昼と夜の境」——それは何を意味するのか。
ノクスは首を振った。
それは関係ない。
俺は、昼は眠っていて夜に動く——ただそれだけだ。
ノクスは廃神殿を後にした。
しかし——「昼と夜の境を歩く」という言葉が頭から離れなかった。
隠れ家に戻るとカインとエルザが待っていた。
「今週集めた情報を整理する」
ノクスは地図を広げた。
「七賢院の目的は王国の完全掌握だ。王を傀儡にし、貴族を取り込み、軍部を支配し——最終的には、この国の意思決定をすべて七賢院が行う構造を作る。王妃の毒殺はその一環だ」
エルザが静かに言った。
「それを阻止するために——ノクス様は何を目指しているのですか」
ノクスは地図を見たまま答えた。
「七賢院の中枢を叩く。七人の賢者が意思決定をしている限り、末端を潰し続けても再生される。七人全員を------法で断罪する」
カインが腕を組んだ。
「法的に、ですか。......あなたが?」
「俺が直接殺すこともできる。しかし——七賢院は組織だ。頭を切っても、次の頭が育つ。構造ごと壊さなければ意味がない。構造を壊すには、民と王が七賢院を『悪』と認識する必要がある。そのためには、証拠が必要だ」
エルザが「それは時間のかかる計画ですね」と言った。
「ああ」
「なぜ、そこまで?」
ノクスは少し間を置いた。
「民が搾取されているのが気に食わない」
それだけ言った。
エルザとカインは顔を見合わせた。
その答えは——「亡者」という男に似つかわしくないほど、単純で、正直だった。




