第七話 アルス編 シルヴィアの分析と七賢院への反撃
翌日の午前。
神殿の会議室に、アルス、ライト、シルヴィアの三人が揃っていた。
シルヴィアは二十六歳、艶やかな黒髪を後ろでまとめた女性だ。
常に冷静な目をしており、笑顔を見せることはあまりないがその分析は常に正確で鋭い。
「現状をまとめます」
シルヴィアは書類を広げた。
「王妃毒殺未遂——使われた毒は数百年前の古代毒を七賢院が復元したもので、調達に相当の資金と研究が必要です。これは組織的な計画であり、即興ではない。少なくとも半年前から準備していたと見られます」
「典医ガロンは?」
「七賢院の下部組織『三角商会』から、三回の送金を受けていることを確認しました。総額で金貨三百枚。これは証拠として十分な水準です。ただし——」
シルヴィアがわずかに目を細めた。
「ガロン典医一人を告発しても、七賢院本体には届きません。尻尾を切るだけになる。私の建言は——典医を泳がせながら、七賢院の上位組織に繋がる糸を手繰ることです」
ライトが手帳に書き取りながら補足した。
「シルヴィア様の分析によると、七賢院の王宮内での工作活動は、この件だけではないようです。過去二年間の典医・侍女・侍従の出入りを調べたところ、不自然な人事異動が複数ある。そのすべてが七賢院関連の人物と一致しています」
「つまり——王宮の内部に、七賢院の耳と手が複数埋め込まれている」
アルスは静かに言った。
「そうです。王宮そのものを清潔にしない限り、同じことが繰り返されます。しかし——王に直接進言するには、十分な証拠と政治的な支持が必要です。今の段階では時期尚早」
「今はまず、情報収集と証拠固めだ」
シルヴィアは頷いた。
「もう一点、アルス様。七賢院は孤児院の件を、まだ諦めていないようです。今度は法的な経路ではなく、直接的な嫌がらせを検討しているとの情報があります」
「子供たちに何かするつもりか?」
アルスの声のトーンがわずかに変わった。
「直接ではなく——孤児院の近隣商人に圧力をかけ、孤児院への食料供給を断たせる計画があるようです。兵糧攻めです」
アルスは目を閉じた。
「——手を打つ」
目を開けた時、その瞳は穏やかだったが——どこか触れてはいけないものに触れた時の静けさがあった。
「孤児院への供給ルートを複数化する。一つが断たれても代替が効くように。並行して、七賢院が圧力をかけている商人を教会の取引先として公式に認定する。七賢院が手を出せば、教会との取引を断つことになる。彼らにとってそれは損だ。踏みとどまるはずだ」
シルヴィアが少し間を置いた後、「——見事です」と言った。珍しく、素直な称賛だった。
「戦わずして勝つ。しかも相手の資源を使って」
「君に言われると照れるな」
「照れていいと思います」
ライトがこっそりと笑っていた。




