第六・五話 幕間 黒衣の魔法使い視点 ——掌に消えた雷槍
両手を上げながら、魔法使いは考えていた。
七賢院に拾われたのは十二歳の時だ。
魔法適性の検査で「五段階相当」と判定された時、検査官は「万に一人の才能だ」と言った。
その言葉は本当だった。
五段階の術師は王国全土で両手で数えられるほどしかいない。
軍部の上位騎士と並ぶ力を持つとされる。
だから——自分は強い。
そう思ってきた。
黒いフードの男が扉を開けた瞬間、自分はすぐに術式を展開した。
迷いはなかった。「ライトニングスピア」七本——それはこの男の持つ最大威力の攻撃魔法だ。
七本同時に放てる者は大陸でもほとんどいない。
その術式を一秒もかけず収束させた。
それが——掌に消えた。
吸収された、という感覚が術式を通じて手に伝わった。
自分の魔力が相手の体内に流れ込んでいく感触。
まるで川が海に注ぐような——抵抗のないあまりにも自然な消失。
魔法の理屈として、「魔力吸収」という術式の存在は聞いたことがあった。
七賢院の学術部門が研究していた理論上の術式だ。
八段階以上の素養がなければ発動不可能——そう聞いていた。
つまり目の前の男は——少なくとも八段階以上。
しかし、違う。
魔力が吸収された瞬間、その「密度」が肌を通じて伝わってきた。
段階の話ではない。
これは——段階という物差しで測れるものではない。
数えた七本の雷槍が、ろうそくの炎のように静かに消えた時、この男の内側に何が宿っているかを術師の本能が告げていた。
「竜の血だ」——と、誰かが呟いた。
倒れた文官の男だった。
竜血の末裔。
千年前に滅んだとされる。
しかし伝承には記されている——竜の魔力は段階を持たない。
竜の魔力は密度として存在し、その密度の前では人間の術式はただの炎に過ぎないと。
フードの男が静かに言った——「七賢院の王宮内連絡経路の全容を話してもらう。話せば——苦しまずに済ませてやる」
話すつもりだった。
最初から抵抗する気は消えていた。
この男に逆らった者が生きて戻った話を、自分は聞いたことがない——その言葉の意味が今初めて分かった気がした。
強さへの恐怖ではない。
この男の前に立った時に感じる別種の感覚——自分が今、取るに足らない何かであるという、静かな認識。
「話します」
と言った。
フードの奥の目がただ静かにこちらを見ていた。




