第六十二話 雷鳴の記憶
――レーベル村、中央広場。
無数の魔物が村を包囲し、火と泥が渦を巻いていた。
ジルクの鉄槌が地面を砕き、リィナの矢が空を裂き、ミンミンの蹴りが舞う。
だが敵は尽きない。
「はぁっ……はぁっ……! これ以上は……!」
「押し返せん……!」
「ミンミン、そっちをお願い! 来るよ!」
魔物の数はあまりにも多く、仲間たちはすでに体力の限界に近づいていた。
その時――
空気を裂く、霧の疾走音が響く。
「――リィナっ!左に伏せろ!」
「え!?」
瞬間、弓使いの横を光が走り、数体の魔物を貫いた。
「翔太!!」
「間に合った……!!」
翔太が霧をまとった状態で着地する。
その隣には息を切らしたアイリ、そして黒髪の剣士イーヴァンが続く。
「みんな……遅くなって、すまない。ここからは俺たちも行く!」
翔太が呪いの刃を呼び出し、イーヴァンが剣を構えた瞬間――
空気が一変した。
仲間たちは、奮い立つように息を吹き返す。
「来たか……遅いぞ翔太……!!」
「ふふ、やっと勢いが戻ってきたね……!」
「よーし、このバカみたいな数、全部蹴散らしてやるよっ!!」
二人の復帰とアイリの参戦とともに、形勢は一気に逆転する。
翔太の黒刃が次々と魔物を切り裂き、イーヴァンの剣撃と連携して敵群を押し返す。
アイリの白霧が魔物の動きを鈍らせ、リィナの矢が正確に急所を射抜いた。
数分後――
魔物の群れは、残りわずかになった。
「あと少し……!いける!!」
そう思った、その時だった。
「――ズズゥン」
地面が陥没し、黒い魔力が噴き上がる。
そこから現れたのは――
腕が四本、足が四本。
背中合わせに二つの顔が張り付いた、異形の魔物。
「融合体……!? 二体を……無理やり……!」
アイリの声が震える。
「行くよ翔太……!」
「分かってる!」
ミンミンが真っ先に飛び出した。
「まずはあたしが――!」
しかし。
融合魔物の太い足がひゅっと伸び――
ミンミンの足首をつかむ。
「えっ――」
次の瞬間、ミンミンの身体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「ミンミン!!」
続いてジルクの鉄槌が振り下ろされる。
「うおおおおっ!!」
しかし――金属音すら出ず、鉄槌が弾かれた。
「あ……っ……!」
「なんて硬さだ……っ!」
仲間たちが一瞬ひるんだその時――
空気が震えた。
「……ふむ。やはり凡俗の力では届かぬな」
黒霧の中から、フェアリスの姿をした男が歩み出てくる。
「ドルトン……!!」
「白霧……どうやって逃げ出したのかは分からんが……まぁ、いい。
全員まとめて、遊んでやろう」
彼の指がひらりと動くと――
稲妻のような光が走った。
「!?」
リィナの身体が一瞬光に包まれ、地面に崩れ落ちる。
「リィナ!!」
翔太は即座に瞬間移動し、倒れたリィナを抱き寄せた。
だが、それはドルトンの狙い通りだった。
「読めている」
氷の刃が、翔太の背中を切り裂いた。
「あッ――!」
「翔太!!」
続けざまに重力魔法が翔太を押し潰し、地面に叩きつける。
仲間たちも業火に包まれ、次々と倒れていく。
「しまっ……!」
「熱ッ……く……!」
翔太が動けないまま、ドルトンの手が天へ向けられる。
「終わりだ、小僧。雷に焼かれろ」
雷光が翔太へ向けて集束し――
「やめろ!!」
イーヴァンが叫びながら、翔太の前へ飛び込んだ。
「イーヴァン!!?」
「ぐああああああああああああッ!!!」
雷光がイーヴァンの全身を貫いた。
世界が白く染まる。
――その瞬間。
イーヴァンの意識は急速に遠のきながら、
過去へと遡っていく。
―――イーヴァンの記憶―――
「早く公園に遊びに行こう!」
小学生の頃。
笑い合う友達。遊び場。夕焼けの公園。
「全国目指すぞ!」
「うん、今年こそは絶対に行こう!」
高校の陸上部。
汗と風の匂い。全力で走る日々。
「じゃあ、二次会に行く人――っ!」
「はーい!」
大学のサークル仲間たち。
夜の街の笑い声。未来への希望。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね。お母さん」
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
母の声。
家を出る時の、何気ない優しい笑顔。
そして――
ぼんやりとした視界の中で、誰かが隣を歩いていた。
彼の顔は見えない。
けれど、声だけは確かに覚えていた。
「……てる? ……おーい、聞いてる?」
「……優希……!?」
“優希”――
「……翔太……」
イーヴァンは目を開けた。
焦げた地面の上で、震える手が翔太を探す。
「思い……出した……全部……」
涙が頬を伝った。
これまでの人生を。翔太との記憶を。
そのすべてを――取り戻した瞬間だった。
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次回、第六十三話 最後の器




