第六十一話 霧の脱出
―――ドーリン城・地下研究区画。
金属の軋む音と、魔物たちの呻き声がこだましていた。
黒い魔力をまとった触手のような管が、巨大な魔石へと魔物の体液を流し込み、ボコボコと泡立つ。
「……これでいい。数が必要だ。私の新しい軍勢が」
フェアリスの姿をしたドルトンが、魔石に触れた瞬間――
魔石の中で光が弾け、小型の魔物が次々と生み出されていく。
「美しいだろう。
“命の価値”など無い者が、生まれ変われるのだから」
ドルトンは笑いながら、拘束台を見た。
そこには――白霧の魔女、アイリが鎖に固定されていた。
「さて……準備を始めるか。
お前の力、白霧の魔法……そして“霧を具現化する能力”。
あれは実に興味深い。人体に組み込めば、新たな魔物の核にできる」
「……ふざけんなよ……そんなもんに……使われてたまるか……!」
アイリは鎖を外そうともがくが、黒い呪いの鎖はびくともしない。
「反抗するな。お前の体は、私の研究素材なのだから」
ドルトンが手を伸ばした瞬間――
「ドルトン様!
魔物軍、レーベル村へ向かう準備が整いました!」
兵士が駆け込む。
「よし。村を潰せ。
紋章の者たちが戻る前に、全て焼き払ってしまえ」
ドルトンは背を向けながら言った。
「私はこの体で試したいことがある。それまでに――この女を魔物にしておけ。
……ふふっ……いい器になりそうだ」
ドルトンは研究室を去る。
残されたのは、拘束台に横たわるアイリと、ドルトンの部下たちが三人。
一方その頃、翔太たちは――
アイリと別れた場所へ向かっていた。
「……この辺りで、アイリが……」
翔太は地面を見つめ、残った霧の魔力の痕跡を見る。
だが、途中で異変に気づいた。
「……待って! あれ……村の方角、煙……?」
リィナが振り返った。
遠く、レーベル村の空が不自然に揺れている。
何か巨大なものが暴れているような衝撃音が連続していた。
「魔物が……また、村に……!?」
ミンミンが震えながら言う。
翔太は歯を食いしばった。
「……くそ……フェアリスの結界を解かれた…
ドルトンの仕業か……!」
「翔太。お前はアイリを追え」
ジルクが迷いなく言った。
「俺とリィナ、ミンミンで戻る。村にはルイドもいるはずだ」
翔太は拳を握った。
「……頼む。俺たちは、ドルトンの城に行く」
「ああ……そっちも頼んだ!」
ジルクが短く答え、三人は村へ向かって駆け出した。
翔太はイーヴァンとともに、再び前へ走る。
――ドーリン城内部・研究区域
三人の部下は、アイリの魔法によって眠らされていた。
「よいしょ……あと少し……!」
アイリは特殊能力で猫の姿になり、小さな体で鎖の隙間をすり抜けた。
「っ……ふぅ……危なかった……!
奥の手を隠しておいて良かったよ〜」
四足の足音で廊下を駆け抜ける。
兵士が近づくと――アイリは棚の影に潜り込み、完全に気配を消す。
「よし……このまま外に出れば……!」
アイリは城門の隙間から外へ飛び出し――
森へと逃げ込んだ。
――レーベル村
村を守る仲間たちの前に――空間が歪み、黒い穴が開いた。
「……転移魔法……!?」
「誰だ……?」
そこで姿を現したのは――ドーリン本人だった。
「……成功だ。これが、転移魔法か……よい!
皆の者っ……レーベル村の民共は全て処刑せよ――!」
兵士と魔物が一斉に襲いかかる。
「くそっ……押し返せない――!」
ミンミンの旋風脚が閃くが、敵の数は倍以上。
「ジルク! 右から来る!」
リィナが叫ぶ。
「構わん、まとめて叩き潰す……!」
巨大な鉄槌が振り下ろされるも、敵は次々と補充される。
「まずい……このままだと――!」
「耐えきれない……!」
仲間たちが追い詰められていく。
――城下町の外れ
翔太とイーヴァンが走り抜けた先――
霧が揺らぎ、何かが飛び出してきた。
「――にゃっ!!」
「え?」
翔太の足元に転がった白い猫が、じっと翔太を見上げる。
そして次の瞬間――白い光が包み、猫は人の姿に戻った。
「……翔太!?……どこに行くつもりだ!?」
「アイリ!!…よかった!無事だったんだな!」
翔太の目が見開かれた。
アイリは不敵に笑う。
「当たり前だ!俺を誰だと思ってる!それより、ドルトンが村に向かったぞ……!
フェアリスを取り戻すんだろ?」
翔太、イーヴァン、アイリの三人は、レーベル村へ走り出した。
ドルトンとの本当の決戦が待つ場所だった。
読んでくれて、ありがとうございました。
次回、第六十二話 雷鳴の記憶




