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第五十九話 白霧の森の魔女

  ―――白霧の森。

 森の奥は、昼間でも薄暗かった。白い霧が立ち込め、木々の間をゆっくりと漂っている。


 「……気味悪い場所だな」


 リィナが弓を構えながら呟く。


 「こうやって、二人だけで行動するのは初めて会った時以来だね。

色々あったけど、なんだか不思議な気持ち……」


 そのとき――。


  「パシンッ!」


 足元の魔法陣が光り、翔太とリィナの体が弾き飛ばされた。


 「うわっ!?」


 「きゃっ!」


 二人が地面を転がり、体勢を立て直した瞬間――。


 「――侵入者、動くな!」


  霧の中から、白いローブを纏った少女が現れた。

 薄紫の髪、涼しげな目――しかし、その瞳には鋭さがあった。


 「あなたは……もしかしてアイリ?」


 翔太が問いかけると、少女は片眉を上げた。


 「いきなり呼び捨てかよ。で……あんたらは、この森に何しに来たんだ?」


  翔太の胸が締め付けられる。

 フェアリスの顔が浮かんだ。


 「呼び捨てにして悪かった……仲間を救いたい。体を乗っ取られてしまったんだ。

その……蘇生と、魂の分離ができる魔法を使えるのは、あなたしかいないって聞いた」


 アイリの目が細くなる。


 「ふうん……俺に助けろと?」


  リィナが息を呑む。

 翔太は真っ直ぐに答えた。


 「出来れば……助けてほしい!」


  数秒の沈黙。

 アイリは翔太の顔をじっと見つめた。


 「……やだね!俺より弱い人の頼みは聞かないんだ。

お前ら、弱いだろっ」


  そう言った瞬間――。

 ――森が震えた。

 木々がざわつき、霧の奥から巨大な魔物が現れる。

 黒い牙、岩のような皮膚、三つの目。


 「グォォォ……!」


 アイリが舌打ちした。


 「また来たの……?面倒だなぁ……あんたらは下がって――

邪魔だから」


 「いや、俺が行く」


 翔太が前に出る。


 「気を付けて、翔太。こいつ強いよ!」


リィナが真剣な目になる。


 「――大丈夫!」


  翔太の右手が黒く変化し、呪いの紋章が浮かび上がる。

 左手には白い光。

 翔太は地を蹴り、魔物の懐へ潜り込む。

 黒い刃で装甲を裂き、瞬間移動で背後に回り――


 「はああっ!!」


  背中から、雷鳴のごとく切り裂いた。

 魔物が崩れ落ち、霧の中へ消えていった。

 

 「……え?」


 アイリは呆然としたままだった。


 「あなた……今の魔物を……一撃……?」


 声が震えている。


 「いや、一撃じゃないよ。何発か入れた」


  翔太は少し照れくさそうに頭を掻く。

 リィナが胸を張り、なぜか誇らしくなる。


 「翔太は強いのよ!」


 「ちょ、リィナ……」


 しかしアイリはリィナの言葉を聞いて、ふっと笑った。


 「……なるほどね。少しは、やるみたいだな……

いいぜ、話くらいは聞いてやる」


 翔太が息を呑む。


 「本当か?ありがとう!」


 「あぁ……でも条件がある……」


 アイリは翔太に歩み寄り、顔を覗き込むように見つめた。


 「……俺と……一緒に、ここで住め……!」


アイリは翔太の強さに惚れてしまった。


 「え、えぇ……?」


  翔太の顔が一気に赤くなる。

 リィナの眉がぴくりと動いた。


(なんか……気に入らない……)


 「よし、決めた!」


 アイリが腰に手を当てる。


 「フェアリスを救いに行く。俺も同行する!」


 「ありがとう……本当に……!」


 翔太の顔がぱっと明るくなった。


(……だから、そういう顔するのやめてよ……)


 リィナは胸がモヤモヤした。


 

  ――その頃。

 ドーリン城下町では、闇が広がっていた。

 フェアリスの姿をしたドルトンが、街の中心で黒い魔力を放っている。


 「さあ……もっと嘆け……もっと恐れろ……!」


 ドルトンの笑い声が響く。


 「フェアリス様……やめてください……!」


 「違う……あの人はフェアリス様じゃない!」


  人々は逃げ惑い、街は絶望に包まれていた。

 ドルトンは両手を広げ、黒い霧を街中に噴き出す。


 「世界は私のものだ……誰も止められはしない……!」


  ――その瞬間。

 涙と悲鳴が混ざる。

 ドルトンは愉悦に満ちた顔で人々を見下ろした。


 「ははは……もっとだ。もっと泣け。

価値なき民どもよ――」


  その瞬間。

 静かな声が響いた。


 「……つまらないな」


  ドルトンが振り返ると、そこに立っていたのは――ノインだった。

 片手をポケットに突っ込み、無表情。

 目だけが冷たく光っている。


 「貴様……ノイン……?まだ生きていたか。

この、役立たずめ!」


 ドルトンが舌を鳴らす。


 「生きてるよ……でも、人を殺してももうワクワクしなくてね。飽きたんだ」


 人々がざわめく。


 「今度は誰だ?……助けに来てくれたのか……?」


 しかしノインは表情ひとつ変えずに言う。


 「勘違いしないで。人なんか、どうでもいい。ただ――」


 ノインの視線が倒れる老人や震える子供たちを見た。


 「……気に入らない」


 ドルトンの笑みが消える。


 「ほう……私に逆らうか」


 「逆らう?違うね。俺は元々お前の配下になったつもりはない。

だいたい、なんだよ、その体……気持ち悪いんだよ!」


  次の瞬間――ノインが駆けた。

 黒霧を切り裂き、ドルトンの頬をかすめる。


 「……てめっ……!」


  ドルトン(フェアリスの体)が黒い魔力で反撃し、激しい衝突が始まった。

 大地が抉れ、建物が崩れ、人々が逃げ惑う。

 ノインは躊躇ちゅうちょせずに斬り込み続けた。


 「お前……あいつらに、やられたんじゃねぇーの!」


 「黙れぇぇ!!」


  激しい魔力の爆発が響き――

 ノインの身体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。


 「が……っ……!」


  胸に大穴が空いていた。

 人々が悲鳴をあげる。


 「大丈夫か! 君……!」


 「嘘……だろ……!」


 ドルトンがゆっくりと近づく。


 「お前程度の力で……私を止められると思ったのか」


 ノインは血を吐きながら笑った。


 「思ってねぇよ……最初から……ただ――目障りだった」


 その目は、どこか穏やかだった。


 「兄さん……聞こえるか……?」


 ノインは空を見上げる。


 「俺も……そっちに行くよ……

 地獄で待ってるんだよね…」


  ドルトンが手を振り上げた瞬間――

 ノインの身体から光がふっと消え、静かに崩れ落ちた。


 「……くだらん」


  ドルトンが呟いた。

 だが――ノインのおかげで、人々は逃げる時間を稼がれていた。


  その時、霧の向こうから姿を現す――

 翔太、リィナ、そしてアイリの三人。


 「き、貴様ら……!!」


  ドルトン(フェアリス)が振り返った。

 翔太は前へ一歩踏み出し、拳を握る。


 「フェアリスを――返してもらうぞ!」


  風が吹き抜け、三人の影が伸びる。

 決戦の幕が再び、開こうとしていた――。


読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第六十話 最強の器

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