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第五十八話 魂の行方

  白い光が収まり、広場には焦げ跡と粉塵だけが残っていた。

 翔太たちは荒い息のまま、倒れ伏すドルトンの巨体を見つめていた。

 黒い肉塊はゆっくりと縮み、人間の姿へ戻っていく。


 「や、やった……のか?」


 ジルクが鉄槌を杖のようにして、地面に手をつく。


 「ドルトン……もう動かない……」


  リィナが矢を握る手を震わせながら呟いた。

 翔太は深く息を吐き、膝から崩れ落ちそうになる。


(……みんな……よくやってくれた……)


 だが――その瞬間。

 ドルトンの胸から、黒い靄のようなものがふわりと立ち上った。


 「なっ……!」


  翔太が反射的に前へ出る。

 黒い靄はドルトンの顔の形へと変わった。

 その“顔”が、薄ら笑いを浮かべる。


『……殺したつもりか……?』


 「ドルトン……まだ生きて……!」


 イーヴァンが剣を構え直そうとするが、腕が震えて上がらない。


『この身体はもう終わりだ……だが、魂さえあれば……器はどうとでもなる』


 翔太は嫌な予感に背筋が凍る。


(器……?)


 次の瞬間――。


 「……ぁ……っ」


 後方で倒れていたフェアリスの身体が、ビクリと震えた。


 「フェアリス!?」


 リィナが駆け寄ろうとする。


『ほう……丁度よい器があるではないか』


 黒い靄が閃光のようにフェアリスへと飛び込んだ。


 「やめ――!」


 翔太が叫ぶより早く、黒い影はフェアリスの胸へ吸い込まれた。


 「――――っ!!」


 フェアリスの身体が弓なりに反り返り、瞳が黒く濁る。


 「フェアリス!!」


 「しっかりしろ!!」


  仲間たちが取り囲むが――

 フェアリスはゆっくりと立ち上がり、黒い笑みを浮かべた。


 「……フフ。実に使い心地の良い身体だな……」


 「ドルトン……!」


 翔太が歯を食いしばる。


 「この体は完全ではない……魔力を使い果たしているからな。だが――回復すればこの身体は私のものだ」


 喉から出る声はフェアリスだが、口調といい、中身は紛れもなくドルトンそのもの。


 「やめろ……フェアリスの体を返せっ!!」


 翔太が叫ぶが、ドルトンは肩を竦める。


 「返す? 返すわけがないだろう。この身体を使って、世界を滅茶苦茶にしてくれる。

お前らのせいで、計画を台無しにされたからな!」


 そして、黒い翼のような魔力をまといながら、ふわりと宙へ浮かんだ。


 「貴様らを殺すのは回復してからでいい……それまで、恐怖に怯えているがいい」


 「待て!!」


 翔太が瞬間移動しようとするが――


 「やめろ、翔太!」


  リィナが腕を掴んだ。

 翔太は振り返る。リィナの目が涙で濡れている。


 「翔太……今のドルトンはフェアリスの体……追いかけても、どうしようもできない……!」


 「っ……!」


  翔太は拳を握り締めたまま、空を睨む。

 フェアリスの身体に宿ったドルトンは、黒い光を残して空の彼方へ消えた。

 ――敵はまだ、生きている。


  結界が解けたドーリン城下町。

 人々は涙を浮かべながら、翔太たちに頭を下げていた。


 「本当に……本当にすまなかった……!」


 「俺たち……操られてたとはいえ……あんな……!」


 「ありがとう……ドルトンを倒してくれて……!」


 翔太は首を振り、傷ついた肩を押さえながら答える。


 「……いいんです。あなたたちも被害者ですから」


 だが、翔太の胸は痛かった。


(まさか……フェアリスの体に移るなんて……)


 リィナがそっと翔太の肩に手を置く。


 「翔太……行こう……村に戻らなくちゃ」


 


  ――レーベル村。


 「みんなぁぁぁ!!」


  チロルが飛びつくように走ってきた。

 翔太の顔を見るなり、涙が一気にあふれた。


 「みんな無事で……よかったぁぁ……!」


 「無事ってほどでもねぇけどな……」


  ジルクが苦笑しながら背中を伸ばす。

 しかし翔太たちの表情には、深い影が落ちていた。


 「……フェアリスが……」


 イーヴァンの声が震える。


 「フェアリスが敵に回ったら……どうすればいいの……?」


  ミンミンも涙ぐんだ。

 村の集会所で、夜通しの作戦会議が始まった。

 ルイドがテーブルに地図を広げ、重い口を開く。


 「……フェアリスを取り戻す方法は、ただひとつ。ドルトンの魂を消すことじゃ」


 「だが、それって……フェアリスごと……」


 ジルクが言葉を詰まらせる。


 「そんなの嫌だよ!! フェアリスは一緒に戦ってくれた仲間だよ!!」


  ミンミンが叫ぶ。

 翔太も唇を強く噛む。


(フェアリスを……殺すなんて……絶対に嫌だ……)


 「一つだけ……可能性がある」


  ルイドが静かに言った。

 皆が息を呑む。


 「魂を引き離し、身体を蘇生できる者がいる。

ドーリン城から遥か南の森……“白霧の森”に住む魔女――アイリ」


 「アイリ……?」


 リィナが目を細める。


 「しかし、あやつは曲者でな……自分より弱い者の頼み事は聞かぬのじゃ」


 ルイドが首を振る。


 「傲慢ごうまん野郎かよっ……!」


 ミンミンが呟き、リィナが小さく肩をすくめた。


 「だけど……今はそれしか道がない!」


 翔太は深く、強く息を吸った。


 「行こう! リィナ」


 「うん。アイリって魔女に会いに行こう!」


  翔太とリィナは装備を整え、夜明け前の村を歩き出す。

 ――フェアリスを救える唯一の手がかり。

 その魔女のもとへ。


  闇を切り裂くように、朝日の赤が空へ昇り始めた。

 翔太たちの次の戦いが、すでに始まっていた。



読んでくれて、ありがとうございました。

次回、第五十九話 白霧の森の魔女

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