第五十六話 潜入
レーベル村は、どこか張りつめた空気に包まれていた。
翔太が囚われた今、仲間たちの焦りは頂点に達していた。
「急ごう。ドルトンは翔太に何をするか分からん」
ジルクが小声で言い、鉄槌をゆっくり持ち上げた。
「そうね。でも……慎重に行きましょう」
リィナが弓を握りしめる。
フェアリスが深く息を吸い込み、転移魔法を展開する。
一瞬で全員がドーリン城に飛ぶ。そして、魔法陣を描く準備に入った。
「今から、結界の解除に取り掛かるけど、少し時間がかかるわ。
みんなはその間に、翔太の捜索と、魔物が作りだされる原因を調べて」
「よし、行くぞ。」
ジルクの声で、仲間たちはドーリン城の中へと進み出した。
城内は広く、静まり返っていた。
「おかしいわね。この通路……誰もいないなんて。」
リィナが目を細める。
少し進んだところで、通路が二つに分かれていた。
「手分けして探そう。なるべく戦闘は避けて」
ジルクの声に皆が頷く。
仲間たちは警備の隙を縫い、奥へと進んでいく。
ジルクとミンミンが右の通路へ、リィナとイーヴァンが真っすぐ進む。
「本当に誰もいない……」
リィナとイーヴァンがしばらく進むと、通路の奥から紫色の光が漏れていた。
「……この部屋、怪しい。」
リィナがそっと扉を押す。
中は巨大な四角形の部屋だった。
中央には脈動する黒い水晶、床には複雑な魔法陣。
紫の光が不気味に揺らめいている。
「……これが……魔物を生み出してる装置……!」
リィナが驚愕する。
その瞬間――
「ガシャンッ!」
「えっ……? 扉が……!」
イーヴァンが振り返る。
扉は自動で閉まり、錠の降りる重い音が響いた。
装置が置いてある台座は床に収納されていく。
「罠……!」
リィナが叫ぶ。
さらに――
「ゴゴゴゴゴ……」
部屋の四方の壁が、ゆっくりと内側へ動きだした。
「……壁が……迫ってくる……!」
イーヴァンが目を見開く。
「このままじゃ……押し潰されるわ……!!」
リィナの顔が青ざめた。
石壁は少しずつ、確実に狭まっていく。
―――城壁の外では、フェアリスが巨大な魔法陣を浮かび上がらせていた。
青白い光が結界に絡みつき、少しずつ削り取っていく。
「……このままいけば……あと少しで……」
額に汗をにじませながらも、フェアリスは魔法を維持し続ける。
―――その頃、翔太は牢獄でルイドと向かい合っていた。
「なんとか脱出する方法はないか……!」
「わしに任せなさい!」
ルイドが両手を構え、牢の外に立つ兵へ向けて詠唱した。
「――《スリープ・ミスト》」
琥珀色の粉が漂い、兵士は崩れるように眠り込む。
「今のうちじゃ。」
ルイドが鍵をとり、牢を開けた。
「おお……! 出られる!」
二人は薄暗い通路を走り抜け、城の外を目指す。
しかし、城内の異変に気づく。
「この魔力の気配……嫌な予感がする。」
二人は壁の震え、魔力の脈動を頼りに、奥の部屋へと走る。
―――大きな扉の目の前にジルクとミンミンが立っていた。
「ここ…絶対に王の部屋だよね……」
ミンミンが恐る恐る呟く。
「ああ……ここは皆と合流してからだな……」
その時、招き入れるかのように、扉が開いた。
そこに居たのは、不敵な笑みを浮かべるドルトンだった。
「これは、これは、紋章を持つ者の仲間たち。会えて幸栄です。
私はこの国を治めている王、ドルトンです。
せっかく来てくれたのですから、ゆっくりしていって下さい」
とぼけた様子で、ジルクとミンミンを迎え入れる。
だが、空間をただならぬ気配で埋め尽くされていた。
―――そのころ装置の部屋では――。
「くっ……止まらない……!」
リィナが必死に装置に矢を放つが、魔法陣が防いでしまう。
「壊せない……どうすればいいの!!」
イーヴァンが叫ぶ。
「このままでは……時間がない!」
リィナが歯を食いしばる。
壁はすでに数歩分の距離まで迫っていた。
「翔太――!!」
イーヴァンが叫ぶが、声は重い石材に吸い込まれていくだけだった。
部屋はさらに、恐ろしい音を立てて狭まっていく。
――ドルトンの罠は、すでに牙をむいていた。
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次回、第五十七話 崩れる城下の真実




