第五十四話 最強の賢者
巨魔は白雷に貫かれ、身をのけ反らせた。
その表面の殻が焼け焦げ、ひび割れ、蒸気を噴き上げる。
「ぐぉォォォオオオ!!」
雄叫びをあげ、巨魔は暴れるが――フェアリスは髪を一つ払っただけだ。
「暴れすぎよ。少し静かにしてなさい」
軽い言葉。
しかし、次の瞬間には空が割れ、巨大な魔法陣が展開されていた。
「《天罰落星》」
光の柱が、巨魔の頭上へと降り注いだ。
地面が抉れ、村が震動する。
そして巨魔は、光に呑まれながらゆっくりと崩れ落ちた。
「……終わったのか?」
ジルクが鉄槌を下ろし、肩で息をする。
ミンミンは口を開けたまま固まっていた。
「つ、強すぎ……」
リィナが息を呑む。
「フェアリス……これほどの魔法、あなた……」
フェアリスは肩をすくめる。
「これでも手加減しているのよ? 本気を出したら村ごと吹き飛ぶでしょう?」
軽口を叩きながら、周囲を見渡す。
――村の外にも、まだ魔物が蠢いていた。
「厄介ね。倒しても倒しても、湧いて出てくる」
フェアリスは両手を前に出す。
すると空間に青白い魔力の紋が円を描き始めた。
「――《永久封陣》」
風のような光が村全体を覆い、巨大な半球体の結界となって降りてきた。
魔物たちが結界に触れると、まるで見えない壁に弾かれるように飛んでいく。
「これで当分、魔物は近づけないわ。外の群れも自然と散るでしょう」
翔太は剣を解除し、深く息を吐いた。
「助かった……本当に、ありがとう、フェアリス」
「礼はいらないわ。リィナを貰うためよ」
フェアリスの視線が、リィナへ向いた。
「ええ!? そ、そんな……!弟子になるだけだよね…」
リィナは顔を真っ赤にしながら慌てる。
ミンミンが小声で囁いた。
「……リィナ、おめでとう?」
「ちょっとぉ――やめてよ!!」
そのやり取りにフェアリスは満足げに微笑む。
「さて、ここではもう話ができないわね。村の人たちも落ち着かせないといけないけど――」
フェアリスは指を軽く回した。
「あなたたちには、ムーラン島へ来てもらうわ」
「ムーラン島……フェアリスの住んでる所か」
「そう。そこで、今後について話しましょう」
翔太はうなずいた。
胸の奥に、焦燥が広がる。
しかし同時に――何か大事なものが欠けている痛みも感じていた。
(……優希……俺は……お前を……)
その思考は、フェアリスの声に遮られた。
「行くわよ。転移陣を開く」
光が地面に広がり、魔法陣が輝く。
ミンミンが目を丸くする。
「うわぁ……きれい……!」
「全員、中へ。離れないで」
翔太、リィナ、イーヴァン、ジルク、チロル、ミンミン。
仲間たちは次々と光の中に足を踏み入れる。
フェアリスが指を鳴らすと――。
世界が白に染まり、景色がゆっくりと溶けていった。
――ムーラン島。
蒼い海に囲まれた静かな島。
転移魔法の光が消え、石造りの古い屋敷が姿を現した。
しかしその雰囲気はどこか温かく、魔法の光がゆらゆらと漂っている。
「ここが……フェアリスさんの家……?」
ミンミンの声は震えていた。
「案外、普通……のところもあるんだな……」
ジルクの言葉に、フェアリスは冷たい視線を投げた。
「失礼ね、あなた。私は趣味が良いのよ」
「す、すまん……」
チロルが小さく笑う。
「フェアリスさんのお家、きれい……!」
フェアリスは仲間たちを中へ招き入れ、紅茶の香り漂う部屋へ案内した。
「座って。すぐに話す――ドルトンのことを」
翔太は息を整え、背筋を伸ばす。
「ドルトンは……何かを隠しているんだな?」
「ええ。王の側近という仮面の下に、とんでもない悪事をね」
フェアリスの表情は険しい。
「まず――彼の張った結界。おそらく、人々を支配する為。
私が破れば、すべてが明らかになる」
リィナが小さく息を呑む。
「そんな結界を……」
「その間に、あなたたちには城の中に潜入して、探し出してほしいの。
魔物が作られている場所を」
フェアリスは翔太の方を見つめた。
「翔太。あなたの紋章の力。
あれは、ドルトンが最も恐れているものでもある」
「……どういう意味だ?」
「それも含めて、これから教えるわ。
あなたたちは――いよいよ核心に踏み込むことになる」
部屋の空気が張りつめる。
フェアリスは静かに続ける。
「必ずドルトンは何かを隠している。それをすべて暴いて
人々に気づかせる。そして、ドルトンを倒す」
夜風が窓を揺らし、ムーラン島に静かな音を奏でた。
大いなる戦いが、ついに動き出そうとしていた。
読んでくれて、ありがとうございました。
次回、第五十五話 囚われの紋章




