第五十一話 崩れゆく均衡
試練の洞窟から戻った翌朝。
翔太は静かな部屋の一室で目を覚ます。
頭の奥に、じんわりとした痛み。
そして――胸の奥に穴が空いたような感覚。
(……優希。二度目の試練で、更に記憶が薄れていくのが分かる……)
顔、声、仕草。
あれほど鮮明だった記憶が、霧のように薄れていく。
だが一つだけ、はっきりしていた。
(……大切な人だった。それだけは、忘れてはいない)
翔太は強く眼を閉じた。
朝早くから、翔太の部屋にお邪魔していたリィナは
机の前に座り、ドーリン城の地図を広げている。
「ドルトンを倒すには……まずはフェアリスに結界を壊してもらう必要があるわ」
翔太も地図をのぞき込む。
二人は黙々と、城の攻略を考え続けていた。
だが――。
「ドォォォォンッ!!!」
地響きのような轟音が、村中に鳴り響いた。
「何だ!?」
「外だ!」
翔太はリィナと目を合わせ、一斉に外へ飛び出した。
――その少し前――。
ミンミンは一人、ドーリン城下町への道を進んでいた。
「たまには、道場に戻って……お父さんのお墓参りにも行かないとね」
軽い足取りで進んでいた彼女の表情が、突然固まる。
「……え?」
森の向こうに――黒く蠢く“波”が見えた。
無数の魔物の群れ。
獣型、飛行型、泥のような魔物まで、まるで地面から湧き出すように。
「なんで、こんな数……!?」
震えながら後退る。
「ダメ、これ……城下町に向かってる。みんなに知らせなきゃ!」
ミンミンは踵を返し、全力で村へ走った。
―――同時刻―――
ジルクとチロルは、村の市場で買い物袋を下げながら歩いていた。
「……今日は肉が安かったな」
「チロルの好きなリンゴもいっぱい買えた!」
そんなのどかな時間が、突如として破られた。
村の外から、濁った咆哮が響く。
「……まさか」
「お父さん……あれ……!」
森から飛び出してきた魔物の群れ。
村に向かい、押し寄せてくる。
「チロル、下がれ!」
ジルクが鉄槌を構えた瞬間――。
「ドォォォン!」
魔物たちが村の柵を破壊し、雪崩のように侵入してきた。
一方、イーヴァン。
彼女はルシアの住む小さな聖堂を訪れていた。
「……どうして私は、記憶を失くしてしまったんだろう?
何処で生まれて、何処で育ったのか。背中の紋章と何か関係があるのかな?」
ルシアは静かに目を伏せた。
「……それは、私にも分からない。ただ、あなたの記憶は“意図的に削られている”わね」
「……意図的に?」
イーヴァンは唇を震わせた。
「どういう意味……?」
ルシアは答えかけたその時――。
村の方角から、爆音が響いた。
「……嫌な予感がする。ごめんなさい。私は村に戻る!」
ルシアは頷き、イーヴァンは村に向かって飛びたった。
―――翔太は村の入口で、魔物の群れを目の当たりにする。
「……何だ、この数……!」
リィナは弓を構え、叫んだ。
「翔太、来るよっ!!」
ミンミンが汗だくで駆けつける。
「しょ、翔太! 森の奥から、もっと来るよ!!」
村の人々の悲鳴が重なる。
ジルクが魔物を吹き飛ばしながら叫んだ。
「翔太! こっちは限界だ!」
チロルの治癒光が村の人々を守り、その小さな体が震えている。
翔太は深呼吸し、左手の紋章に力を集中させた。
「……行くぞ! せっかく村の人たちが、元気を取り戻してきていたのに、
また村を壊されてたまるか!!」
魔物の傍まで瞬間移動。そして、右手が光に包まれ、剣へと形を変える。
「――来い!!」
仲間たちが集まり、魔物の大群との死闘が始まった。
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次回、第五十二話 集う仲間




